2019年1月7日月曜日

理屈が合わない日経 水野裕司編集委員の「今こそ学歴不問論」

日本経済新聞の水野裕司編集委員が7日の朝刊企業面に書いた「経営の視点~人手不足に近づく限界 今こそ『学歴不問論』」という記事は理屈が合っていない。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係


記事中で「15~64歳の女性の就業率は既に70%を超え、主要先進国に遜色ない。日本総合研究所は女性とシニアの潜在労働力を足元の就業者数の6%程度とみており、これらの就労が進んでも『22年ごろには労働供給が限界に来る』と予測する」と記した上で「これまで光を当ててこなかった人材の活用余地も大きい。たとえば高卒者だ」と水野編集委員は訴える。

本当に「高卒者」は「人材の活用余地も大きい」と言えるだろうか。日経は2018年5月19日付の「99.7% 都内の高卒就職内定率、好調」という記事で以下のように報じている。

【日経の記事(2018年5月19日)】

高卒者の就職が好調だ。東京労働局によると、2018年3月末に東京都内の高校を卒業した人の就職内定率は99.7%(3月末時点)だった。比較可能な1994年以降で最高。都内の新規高卒者約11万人のうち、就職希望者は6%にすぎない。人手不足が深刻になるなか、大卒者の採用が難しい中小企業は現代の「金の卵」に熱視線を送っている。

東京だけが突出して高いわけではなく、福井県など100%の地域もある。全国平均も99.3%で過去最高となった。都内には大学が多くあり、進学する生徒が多数派。「なんとなく就職、という選択肢があまりない」(同局職業安定課)ことから、就職を選んだ高卒者の働く意欲は高いという。小さなパイに多くの中小企業の求人が集中し、引く手あまたの状況だ。



◎既に「光」が当たっているような…

働く能力も意欲もあるのに就職できない「高卒者」が毎年何万人も生まれているのならば「これまで光を当ててこなかった人材の活用余地も大きい。たとえば高卒者だ」と書くのも分かる。しかし「全国平均」の「就職内定率」が「2018年3月末」で「99.3%」と「過去最高」になっているのならば、「高卒者」の「活用余地」は非常に小さい。

小さなパイに多くの中小企業の求人が集中し、引く手あまたの状況」下で、企業がいくら「学歴不問」にして「高卒者」の採用に意欲を見せても、日本全体の「人手不足」は解消しそうもない。「女性とシニア」の活用が限界に近付いてきたから、次は「高卒者」でと水野編集委員は考えているようだが、「高卒者」の雇用情勢を誤解しているのではないか。

水野編集委員が「高卒者」に触れた部分を見ておこう。

【日経の記事】

同時に、これまで光を当ててこなかった人材の活用余地も大きい。たとえば高卒者だ。うどん店「丸亀製麺」などを運営するトリドールホールディングスは高卒、大卒の区別なく昇進できる仕組みにした。16~18年に約200人の高卒者を採用。複数の店長を兼務する高卒社員が既にいる。

18年春に高校を卒業し就職した人は18万6千人で、これは大卒就職者の4割強の規模。「学歴を問わず、期待をしっかり伝えれば、高卒者は貴重な戦力になる」(リクルートワークス研究所の古屋星斗研究員)。ベンチャー企業ではデータサイエンティストの高卒社員も登場している。

日立製作所は19年4月、教育研修を担うグループ企業を統合し、人工知能(AI)など最先端ITを操る人材を養成する新会社を設立する。国内外30万人の社員をデジタル武装させる。100年余りの歴史がある社員教育の刷新となる。

世界経済の先行きは混沌としている。変化に対応できないときのリスクは大きい。従来のやり方にとらわれない一手が求められる。



◎漂う「偏見」の香り

上記のくだりでは「高卒者」に対する「偏見」が透けて見える気がする。
グラバー通り(長崎市)※写真と本文は無関係

まず「学歴を問わず、期待をしっかり伝えれば、高卒者は貴重な戦力になる」という「リクルートワークス研究所の古屋星斗研究員」のコメントが引っかかる。「高卒者」が「貴重な戦力になる」のは、あくまで「学歴を問わず、期待をしっかり伝え」るという条件付きなのか。

「総合職は大卒が条件。高卒採用は一般職のみ」と告知して「高卒者」を採用した場合でも「貴重な戦力になる」人はいくらもいると思えるが…。

ついでに言うと「日立製作所」の事例は何のために入れたのか謎だ。流れとしては「日立製作所」も「高卒者」の活用に乗り出したといった話になるはずだ。しかし「人工知能(AI)など最先端ITを操る人材を養成する新会社を設立する。国内外30万人の社員をデジタル武装させる」などと書いているだけで、「高卒者」との関連は見えない。「学歴不問論」から外れてしまっている。

最後に、日経が「学歴不問論」を唱える矛盾にも触れておきたい。

日経の定期採用の募集要項では「応募資格」を「①日本の四年制大学・大学院を2020年3月までに卒業・修了見込みまたは既卒の方②海外の大学・大学院に在籍している方(交換留学は除く)は日本の四年制大学・大学院と同等の学位で、2020年3月までに卒業・修了見込みまたは既卒の方」としている。「高卒ではダメ」と言うことだ。

日経社員の採用に関して水野編集委員の権限が及ばないのは分かる。しかし「日経が学歴不問論を唱える矛盾」は意識して記事を書いてほしい。例えば「記者採用で大卒以上の学歴を求めている日経に『学歴不問論』を唱える資格はあるのかとの批判を覚悟の上で~」といった記述があれば、印象はかなり変わってくる。


※今回取り上げた記事「経営の視点~人手不足に近づく限界 今こそ『学歴不問論』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190107&ng=DGKKZO39628190U9A100C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。水野裕司編集委員への評価もDを据え置く。水野編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_28.html

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_22.html

宣伝臭さ丸出し 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_26.html

「脱時間給」擁護の主張が苦しい日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_29.html

「生産性向上」どこに? 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_23.html

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