2019年1月17日木曜日

第3回だけ残念な日経1面連載「地銀波乱」

日本経済新聞の朝刊1面で4回連載した「地銀波乱」は全体的には悪い出来ではない。ただ、16日の「(3)会計『装飾』のからくり 厳しい運用、袋小路に」だけは合格点を与えられない。記事を見ながら問題点を指摘してみる。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

ウチにも教えてもらえませんか」。関東地方にある地方銀行の運用担当者がこんな会話を交わしていた。話題は「リパッケージローン」と呼ばれる金融派生商品(デリバティブ)だ。

 地銀でひそかに広がっているのは理由がある。表面的には一定の利回りを手にできる金融商品。その中身は特定の企業や事業の破綻に備えたデリバティブなのだが、地銀はそこに融資する形をとる。複雑な金融商品が姿を変え、会計上は融資が増える構図だ。「マイナス金利で何をやっても苦しい状況。決算の見栄えが良くなると頭取が喜ぶんだよ」。運用担当者は内幕をこう明かした。



◎ちゃんと説明できてる?

まず「関東地方にある地方銀行の運用担当者」が誰に対して「ウチにも教えてもらえませんか」とお願いしているのか謎だ。「地方銀行の運用担当者」同士の「会話」かなとは思うが、そう断定できる書き方にはなっていない。

リパッケージローン」の説明はさらに分かりにくい。これは「特定の企業や事業の破綻に備えたデリバティブ」で「地銀はそこに融資する形をとる」らしい。素直に読めば「デリバティブ」への「融資」となるが、「デリバティブ」は常識的にはカネを借りる主体ではない。

やや無理があるが「融資」するのは「特定の企業」という可能性も考えてみた。「リパッケージローン」は「特定の企業や事業の破綻に備えたデリバティブ」となっているのでCDSのようなものだと推測できる。しかし、それだと「ローン」なのかとの疑問が湧く。

特定の企業」が「リパッケージローン」という「デリバティブ」に投資する際に、地銀が「特定の企業」に投資用資金を「融資」すると理解すればよいのか。しかし、顧客の投資資金として「融資」するだけならば、普通の「融資」だ。

普通の「融資」だとすると、「表面的には一定の利回りを手にできる金融商品」が「地銀でひそかに広がっている」とはならない。やはり「地銀」自身が「金融商品=リパッケージローン」に手を出していると解釈すべきか。結局、よく分からない。

しかも、「マイナス金利で何をやっても苦しい状況」下で、なぜ「リパッケージローン」だと「決算の見栄えが良くなる」のかも謎だ。「会計上は融資が増える」としても、だからと言って「決算の見栄えが良くなる」とは限らない。「融資」ならば焦げ付くリスクがある。リスクゼロで「会計上は融資が増える」仕組みなのかもしれないが、常識的には考えにくい。

記事の説明に間違いはないのだろう。だが、説明が不十分で下手なために理解に苦しむ内容になってしまった気がする。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

急増している投資信託もからくりは似ている。少数のプロ投資家に割り当てる私募投信は、解約時に出る利益が本業のもうけを示す「業務純益」(資金運用収益)に加わる。一般的な株式であれば臨時の株式関係損益となり「本業」の外になる。価格変動による含み損益を決算に反映させる必要もない。この違いが決算を少しでも良く見せたい地銀の経営者の心に響いている。



◎誤解を招く書き方

上記のくだりで「価格変動による含み損益を決算に反映させる必要もない」というのは「私募投信」に関する説明なのだろう。しかし、「一般的な株式」について述べたとも取れる。これも説明が下手だ。
仮屋湾(佐賀県玄海町)※写真と本文は無関係です

記事の終盤にも問題を感じた。

【日経の記事】

問題は含み損の拡大・蓄積により、だんだんと身動きがとれなくなってくる点にある。横浜銀行を傘下に抱える地銀首位のコンコルディア・フィナンシャルグループも19年3月期の通期見通しで純利益を100億円も下方修正した。含み損の拡大により市場部門の積極的な売買が制限されたためだ。機動的な売買こそ必要なのに実態は逆に向かう。厳しくなるばかりの運用環境。安易な逃げ場を探して、地銀は困難な道に迷い込もうとしている。

◎「含み損の拡大」で「売買が制限」?

含み損の拡大により市場部門の積極的な売買が制限された」と書いているが、なぜそうなるのか説明がない。「含み損の拡大」があると「積極的な売買」が必然的にできなくなる訳ではない。「コンコルディア・フィナンシャルグループ」にそうなる構造的な要因があるのならば、そこは説明してほしかった。


※今回取り上げた記事「地銀波乱(3)会計『装飾』のからくり 厳しい運用、袋小路に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190116&ng=DGKKZO40053460W9A110C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。連載全体の評価はC(平均的)とする。連載の最後に「玉木淳、亀井勝司、高見浩輔、広瀬洋平、田口翔一朗が担当しました」と出ていたので、玉木淳氏を連載の責任者と推定し、同氏への評価をCで確定とする。玉木氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「投信の手数料開示を促す」?日経「手数料にメス」に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_8.html

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