2019年1月15日火曜日

日経社説「高齢世帯の保有不動産を生かす方策を」の奇妙な解説

15日の日本経済新聞朝刊 総合・政治面に載った「高齢世帯の保有不動産を生かす方策を」という社説は苦しい内容だった。「リバースモーゲージ」を広げる方策として、この社説では以下のように提言している。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

欧米では普及しているが、リバースモーゲージが日本でも定着するにはハードルがある。

最大の問題は中古住宅の資産価値が著しく低い点だ。日本では住宅の建物部分が築20年を超すとほぼゼロになり、土地しか評価されない。銀行は融資額を絞り、地価の安い地域は対象から外す。

築年数にかかわらず建物を適切に評価するには、柱や壁などの構造部分と内外装・設備部分に分けて査定するのが有効だ。例えば早くからシロアリ対策をしていれば構造部分の耐用年数は延びるし、給排水管を交換すれば設備の資産価値は高まるはずだ。

こうしたリフォーム情報を建設時の竣工図面などと一緒に「住宅履歴書」として保管し、データベース化すれば第三者も建物本来の価値を判断しやすくなる。蓄積されたデータが解析できるようになれば、不良債権化を恐れる銀行の姿勢も変わってこよう。

高齢者にとって持ち家は老後生活を支える貴重な資産だ。国や地方自治体、金融、不動産業界が連携して新たな評価手法を早急に取り入れてほしい。

◇   ◇   ◇

気になった点を列挙してみる。

(1)「分けて査定するのが有効」?

築年数にかかわらず建物を適切に評価するには、柱や壁などの構造部分と内外装・設備部分に分けて査定するのが有効だ」という説明がまず謎だ。「分けて査定するのが有効だ」と言える根拠を社説では示していない。

分けて査定する」ことで「日本では住宅の建物部分が築20年を超すとほぼゼロになり、土地しか評価されない」状況を変えられると筆者は考えているのだろう。

例えば、価値ゼロと評価された築25年の建物を「柱や壁などの構造部分と内外装・設備部分に分けて査定」してほしいと依頼すると、なぜか「構造部分が100万円、内外装・設備部分が100万円、合計で200万円の評価額になります」といった話になるのだろう。

夢のような方策だが、個人的には「分けて査定」しても全体の評価額は変わらない気がする。「変わる」と言うのならば、社説の中でその理由を解説すべきだ。


(2)カネをかけて資産価値を高めても…

早くからシロアリ対策をしていれば構造部分の耐用年数は延びるし、給排水管を交換すれば設備の資産価値は高まるはずだ」との説明はその通りかもしれない。しかし、資金を投じることで保有する不動産の「資産価値」を高めて「リバースモーゲージ」を活用するのならば、あまり意味がない。

給排水管」は今のままでも使えるが、「資産価値」を高めるために100万円をかけて「交換」すると仮定する。それで「資産価値」がそのまま100万円高まり「リバースモーゲージ」で借りられる金額も100万円増えたとしよう。「めでたしめでたし」と言えるだろうか。

それよりも、「給排水管」の「交換」に使ったカネを自分たちの生活資金に回した方が合理的だ。一般的には、100万円をかけて「給排水管を交換」しても「資産価値」の上昇は100万円を下回るはずだ。


(3)市場が間違ってる?

社説の筆者は、現状では「建物を適切に評価」できていないと見ているのだろう。「違う」と断定はしないが、個人的には「市場が間違っている」とは思わない。

「築30年の建物だが、まだまだ十分に暮らせる」としても、市場参加者の全員が「築30年の建物に価値がない」と判断しているのであれば、その評価額がゼロになるのは当然だ。市場参加者が評価を間違っている訳ではない。

市場が間違っている場合、裁定者が現れると考えるのが自然だ。例えば200万円の価値がある建物が無価値との評価を受けているのならば、10万円でも容易に仕入れられる。それを200万円で売れば簡単に利益が出る。

長期に亘ってそうした裁定者が出てこないのならば、やはり市場は間違っていないと考えるべきだろう。


※今回取り上げた社説「高齢世帯の保有不動産を生かす方策を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190115&ng=DGKKZO39996590V10C19A1PE8000


※社説の評価はD(問題あり)。

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