2018年12月25日火曜日

米国では「金利が消滅」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り

苦しい内容になりそうな1面連載が日本経済新聞で始まった。「モネータ 女神の警告~未来への問い」の初回には「ゼロ金利が作るバベルの塔 膨らむリスクに向き合う」との見出しが付いている。しかし「ゼロ金利」も「バベルの塔」も強引さが否めない。記事によると米国も「金利が消滅」した世界の一員のようだが、ここまで来ると間違いだ。
油屋熊八の像(大分県別府市)
     ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

25日の日本経済新聞朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~未来への問い(1)ゼロ金利が作るバベルの塔 膨らむリスクに向き合う」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは記事の冒頭に出てくる以下のくだりです。

米欧は大規模な金融緩和から脱却を目指し、米国に続き欧州も正常化に向かう。だが経済の先行きは不透明なうえ、利上げペースは鈍く、低金利状態から動けない。金利が消滅したぬるま湯から抜け出せない世界を、マネーの女神はどんな思いで眺めるのか

記事の説明が正しければ、少なくとも「米欧」では「金利が消滅」しているはずです。しかし、記事でも触れているように米国では「利上げ」に動いています。「FOMCは短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、年2.00~2.25%から2.25~2.50%へと引き上げた」と日経も20日に報じています。「金利が消滅」していますか。

今回の記事でも「米10年債利回りは1982年の約15%をピークに低下し、2010年代は1~3%で推移する」と書いています。直近では2.7%程度です。これは「ゼロ金利」ではありませんし「金利が消滅」した世界でもありません。新興国に目を向ければ、米国の金利水準を上回る国はいくつもあります。

金利が消滅したぬるま湯から抜け出せない世界」という説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、2%超の「金利」をなぜ「金利が消滅した」と解釈できるのか教えてください。

米国で「金利が消滅」していないのは筆者も分かっているはずです。しかし、記事を書く上では「金利が消滅したぬるま湯から抜け出せない世界」の方が都合がいいので、ご都合主義的に「金利が消滅した」と表現したのではありませんか。

せっかくの機会なので、以下の記述に関しても問題点を指摘しておきます。

サウジアラビアの首都リヤド。東京ドーム35個分の地に数十棟もの未完成の超高層ビルが林立する。サウジが『脱石油』の最重要プロジェクトと位置づけるアブドラ国王金融特区は1兆円を投じ10年以上も建設が続くバベルの塔だ

バベルの塔」と言っているのですから、筆者は「アブドラ国王金融特区」に関して「完成が見込めない無謀な計画」と認識しているのでしょう。しかし、その根拠は示していません。「1兆円を投じ10年以上も建設が続く」としても、それだけでは「バベルの塔」とは呼べません。

国外からのマネーを投資に振り向ける国際金融センターを目指す」「政府系ファンドが国際銀行団から1兆円超の融資を得るなど今や中東は資金の調達側の顔も持ちつつある」といった解説も出てきますが、これも「バベルの塔」との例えを裏付けるものではありません。

さらに言えば、記事に付けた「アブドラ国王金融特区」の写真にも問題を感じました。「写真左上のビル群」が「アブドラ国王金融特区」となっていますが、もう少しまともな写真はなかったのですか。どうしても入手困難ならば、全く別の写真を使った方が良いでしょう。「写真左上のビル群」は10棟以下に見えます。「数十棟もの未完成の超高層ビル」は確認できません。これでは写真を使う意味がありません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~未来への問い(1)ゼロ金利が作るバベルの塔 膨らむリスクに向き合う
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181225&ng=DGKKZO39329270U8A221C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

予想通りに苦しい日経「モネータ 女神の警告~未来への問い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_28.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_81.html

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_31.html

0 件のコメント:

コメントを投稿