2018年12月14日金曜日

色々と問題目立つ日経 小竹洋之論説委員の「中外時評」

13日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「中外時評~トランプ的なものへの渇望」という記事はツッコミどころが多かった。筆者は小竹洋之論説委員。記事を見ながら問題点を指摘していく。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

「隠れた部族」とは、国際的な非営利団体モア・イン・コモンのリポートである。外からは見えにくい個人の価値観や世界観を世論調査であぶり出し、米国が7つの部族に分断されていると論じた。

(1)献身的な保守派(6%)(2)伝統的な保守派(19%)(3)穏健派(15%)(4)政治的な中立派(26%)(5)消極的なリベラル派(15%)(6)伝統的なリベラル派(11%)(7)積極的な進歩派(8%)――という具合だ。(1)と(2)が右派の極、(7)が左派の極で、(3)~(6)を「疲弊した多数派」と呼ぶ。

両極の反目で政治が機能不全に陥り、穏当な多数派が不満をため込む。右派と左派の政争を「イスラム教のスンニ派とシーア派のようだ」と評したのは米ジャーナリストのファリード・ザカリア氏だが、「隠れた部族」もいまの惨状をうまく表現している



◎色々と問題が…

上記のくだりで気になった点を挙げてみる。

(1)舌足らずな表現

『隠れた部族』とは、国際的な非営利団体モア・イン・コモンのリポートである」という文がまず舌足らずだ。「『隠れた部族』とは~リポートのタイトルである」「『隠れた部族』とは~リポートに出てくるキーワードである」などと言いたかったのだと思うが…。

(2)「伝統的な保守派」も「極」?

左派の極」は「(7)」だけなのに、「右派の極」は「(1)と(2)」となっており整合しない。「」であれば、常識的には「(1)」だけのはずだ。「リポート」自体が整合しない分類をしているのならば、その理由が欲しい。


(3)「分断されている」?

7つの部族に分断されている」はずなのに「(1)と(2)」は一緒に「右派の極」を形成し、「左派の極」と「反目」しているらしい。だとすれば「(1)と(2)」が「分断されている」とは考えにくい。「(3)~(6)」が「疲弊した多数派」を形成しているのならば、こちらも「分断」はなさそうだ。

7つの部族」は基本的に右派と左派の分類で、そんなに目新しいものではない。しかも「分断されている」ようにも見えない。なのになぜ「『隠れた部族』もいまの惨状をうまく表現している」と思ってしまったのか。

リポート」を読めば納得できるのかもしれない。だが、記事で紹介するのであれば「いまの惨状をうまく表現している」と納得できる材料を提示してほしい。

次に「2020年の米大統領選」に関する分析の問題点を指摘したい。小竹論説委員はまず「カギを握るのは『疲弊した多数派』の動向だろう」と予測する。しかし、その後で話が変わってくる。そのくだりを見ていこう。

【日経の記事】

大統領選や連邦議会選を左右するのは、全人口の0.01%足らずのエリート層だ。大口の献金で影響力を行使し、既得権益の確保に動く。こうした政治の寡占化に憤るのが非エリート層である。



◎どっちが「カギを握る」?

大統領選や連邦議会選を左右するのは、全人口の0.01%足らずのエリート層」であれば、「疲弊した多数派」の「動向」が「カギを握る」とは思えない。「疲弊した多数派」のほとんどは「非エリート層」だ。言いたいことは分からないではないが、説明が上手くない。

また「政治の寡占化」という表現も引っかかる。「全人口の0.01%」でも数万人にはなるはずだ。その人数だと「寡占」とは言い難い。

記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

責任ある財源を示さぬまま、国民皆保険や公立大無償化の旗を振る左派のポピュリズムには、若年層らが共鳴する。米ギャラップの9月時点の世論調査によると、民主党左派のサンダース上院議員の支持率は53%で、トランプ氏の41%を上回った。

米国だけの問題ではない。米有力ヘッジファンドのブリッジウォーター・アソシエイツによると、先進国のポピュリズム指数は17年時点で1930年代の水準まで上昇していた。もちろん、欧州もその力には抗しきれずにいる。

11月にパリで開いた第1次世界大戦終結100年の式典で「古い悪魔がよみがえりつつある」と述べたマクロン仏大統領。これに続くパリ平和フォーラムで「ナショナリズムの偏狭な見方が再び勢いを増している」と語ったメルケル独首相。最後のとりでともいえる両国の岩盤さえ浸食されようとしている。



◎「ポピュリズム」は「ナショナリズム」?

上記のくだりでは「ポピュリズム」と「ナショナリズム」を一緒にして論じている。「責任ある財源を示さぬまま、国民皆保険や公立大無償化の旗を振る」動きがあったとしても「ナショナリズム」とは関係ないと思える。

フランスとドイツがなぜ「最後のとりで」なのか分からないが、仮にそうだとすると日本はもちろん「岩盤」が「浸食」されているのだろう。日本に広がっているのが「ポピュリズム」か「ナショナリズム」か分からないが、その辺りを小竹論説委員には今後の記事でぜひ論じてほしい。



※今回取り上げた記事「中外時評~トランプ的なものへの渇望
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181213&ng=DGKKZO38844920S8A211C1TCR001


※記事の評価はD(問題あり)。小竹洋之論説委員の評価も暫定でDとする。

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