2018年12月28日金曜日

予想通りに苦しい日経「モネータ 女神の警告~未来への問い」

日本経済新聞朝刊1面で連載している「モネータ 女神の警告~未来への問い」が予想通りの苦しい展開となっている。27日の第3回でも「利益」と「現金」を区別せずに書いたりと、あれこれ問題が目に付いた。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。
日本橋高島屋S.C.(東京都中央区)※写真と本文は無関係

【日経への問い合わせ】

27日の日本経済新聞朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~未来への問い(3)積み上がる死蔵資金 投資は設備から人へ」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは冒頭に出てくる以下の記述です。

ソフトウエア開発のサイボウズでは今、毎年恒例の重要な活動が山場を迎えている。12月決算期末にその年に稼いだ現金を関係者に全額分配する『キャッシュイーブン』と呼ぶ活動だ。取引先向けのイベントにお金を使ったり、従業員のボーナスを引き上げたりして、その年の利益を株主や取引先、従業員にすべて配分する。過去に稼いだ利益も徐々にはき出し、内部留保は5年間で1割減った

記事の説明が正しければ「サイボウズ」の「株主」は「12月決算期末」に配当を受け取っているはずです。しかし同社の2017年12月期の決算短信を見ると「配当支払開始予定日 平成30年4月2日」と出てきます。「キャッシュイーブン」が「毎年恒例の重要な活動」であれば、株主は前期も12月末に配当を受け取っているはずですが、そうはなっていません。

18年12月期も「配当支払」は来春になるのではありませんか。「12月決算期末にその年に稼いだ現金を関係者に全額分配する」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

次の質問は「全額分配」の対象が「その年に稼いだ現金」なのか「その年の利益」なのかです。「その年に稼いだ現金を関係者に全額分配する」と書いた後で「その年の利益を株主や取引先、従業員にすべて配分する」と出てきます。

たっぷりと「現金」を稼いでも評価損などの影響で「利益」が出ない場合はあります。「キャッシュイーブン」という名称からは「現金」が正解なのかと感じます。「利益=純利益」との前提で考えれば、「利益」をその期のうちに「従業員のボーナス」に振り向けることはできません。人件費などの費用を差し引いた後に残るのが「利益」です。

せっかくの機会なので、他にも気になった点を記しておきます。記事には以下の記述があります。

国民の将来不安が解消されない日本では高齢者に貯蓄が偏在。教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない。野村資本市場研究所によると18年は54兆円に達する日本の相続額は30年は60兆円に増える見通しだが、遺産を相続した次の世代も高齢化。将来不安が消えない限り、家計の貯蓄は積み上がる一方だ

高齢者に貯蓄が偏在」しているから「教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない」と断定していますが、それを裏付けるデータは示していません。2018年度の大学・短期大学進学率は57.9%に達し、過去最高を更新したようですが、それでも「教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない」と言えるでしょうか。

若年層」の多くは親や祖父母から資金を得て大学に進学します。「高齢者に貯蓄が偏在」しているとしても、それだけで「教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない」と判断するのは早計です。

この後の説明はさらに疑問が残りました。

そんな家計にも人への投資が突破口になり得る。都内在住の80代男性は今年、現金と不動産で5千万円を子供と孫に生前贈与した。2人の孫は小学生でこれから教育資金がかかる。男性が見据えるのは未来の日本社会。『お金を生かして社会に貢献する人材に育ってほしい』と期待を寄せる

まず「何のためにこんな無駄なことを?」と感じました。「都内在住の80代男性」が存命の間は必要に応じて「教育資金」を出してあげれば済む話です。死亡すれば「子供」が遺産を相続するので、「子供」を通じて「2人の孫」への「教育資金」に充てられます。

今年、現金と不動産で5千万円を子供と孫に生前贈与した」のならば、普通はかなりの贈与税がかかってきます。特例措置を活用しても税負担ゼロは厳しそうな気がします。必要な時に「教育資金」を出せば非課税なので、「子供と孫」に資産を残してあげたいのならば一気に「5千万円」の「生前贈与」は避けるべきでしょう。

また「そんな家計にも人への投資が突破口になり得る」との説明も謎です。「都内在住の80代男性」に多額の資産があり、それを「子供と孫」に残すつもりがあるのならば、「2人の孫」は元々「教育資金」をほぼ確保できています。「生前贈与」があれば「突破口」が開けるが「生前贈与」なしでは開けないといった類の話ではありません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~未来への問い
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181227&ng=DGKKZO39402040W8A221C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

米国では「金利が消滅」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_45.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_81.html

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_31.html

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