2018年3月17日土曜日

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」

16日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~車のAI化が生む非対称」という記事で、筆者である「本社コメンテーター」の中山淳史氏が気になる歴史認識を披露していた。中山氏によると「欧州は経済発展で先行したが、それが可能になったのは、15世紀に活版印刷による情報革命が起き『誰でも参加できる均質な商業空間』ができたから」だという。しかし、本当に「活版印刷による情報革命」は「誰でも参加できる均質な商業空間」を生み出したのだろうか。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。
佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様

Deep Insight~車のAI化が生む非対称」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

例えば、欧州は経済発展で先行したが、それが可能になったのは、15世紀に活版印刷による情報革命が起き『誰でも参加できる均質な商業空間』ができたから。各地で成功した商人がこぞって成功体験やモノの取引価格などのビジネス情報を印刷し始め、一部有力者の貿易独占を突き崩した

これを信じれば、遅くとも16世紀には欧州で「誰でも参加できる均質な商業空間」ができていたはずです。しかし、一般的な歴史認識とは食い違います。ブリタニカ国際大百科事典の「特許会社」に関する解説を見てみましょう。

絶対主義時代に、王室から独占特許状を与えられて、貿易や生産の独占を許された会社。イギリスでは、16世紀後半のエリザベス1世時代に多数の特許会社が出現した。すなわち、イギリス東インド会社、レバント会社、ロシア会社をはじめ、ガラス、デンプン、塩、紙、鉄、火薬などの生産と販売を独占する企業の出現である。特許会社の濫造は窮乏した王室財政の救済が目的であったが、広く国内に成長しつつあった産業資本家層の不満を呼び、女王治世の末期からジェームズ1世時代にかけて、反独占運動が起り、独占条令で一応廃止されたが、主要なものはなお存続した。 17~18世紀のフランス絶対王政下でも、この種の特権会社 (コルポラシオン) がつくりだされた

15世紀に活版印刷による情報革命が起き『誰でも参加できる均質な商業空間』ができ」ているはずの欧州に属する英国で「16世紀後半のエリザベス1世時代に多数の特許会社が出現した」そうです。これらは「生産と販売を独占する企業」なので「誰でも参加できる均質な商業空間」とは共存できません。さらにフランスでも「17~18世紀」に「この種の特権会社 (コルポラシオン) がつくりだされた」とすれば、「活版印刷による情報革命」から数百年を経ても欧州では「誰でも参加できる均質な商業空間」が出来上がっていません。

ちなみに閉鎖的な同業者の集まりとされるギルドは欧州で「自由主義経済思想の普及に伴い、営業の自由の原理に基づいて、18~19世紀には廃止されていく」(ブリタニカ国際大百科事典)わけですが、こちらも「活版印刷による情報革命」が起きた後に長く存続しています。

欧州は経済発展で先行したが、それが可能になったのは、15世紀に活版印刷による情報革命が起き『誰でも参加できる均質な商業空間』ができたから」との説明は誤りではありませんか。欧州では「活版印刷による情報革命」が起きた後に「貿易や生産の独占を許された会社」が多数生まれているはずです。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

回答が期待しにくいので、中山氏の立場から少し考えてみよう。

「『活版印刷による情報革命』が15世紀に起きたとは書いたが、『誰でも参加できる均質な商業空間』が15世紀にできたとは断定していない」との弁明は可能だ。では、「『誰でも参加できる均質な商業空間』は『活版印刷による情報革命』が起きた後に数百年の時間をかけて出来上がった」との趣旨だと言えば、「問題なし」となるだろうか。

まず期間が長すぎる。15世紀末にはスペインとポルトガルが「世界分割協定」とも言えるトルデシリャス条約を結んでおり、この段階で欧州の「経済発展」での先行は明らかだった。仮に「誰でも参加できる均質な商業空間」ができたのが19世紀だとすると、その後に経済発展での欧州の先行が生じたことになる。さすがに苦しい。

ブリタニカ国際大百科事典の解説に誤りがないとの前提に立てば、中山氏の解説は間違っていると言うほかない。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~車のAI化が生む非対称
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180316&ng=DGKKZO28173830V10C18A3TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

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