2018年3月11日日曜日

「給料革命」に無理あり 日経ビジネス「給料はもっと上がる」

日経ビジネス3月12日号の特集「給料はもっと上がる」は苦しい中身だった。中でも特に厳しいのが「PART4~給料革命で人材確保 横並びでは成長できない」という記事だ。これまでも「記事の中に『革命』の文字を見つけたら要注意」と繰り返し注意喚起してきた。この記事も例外ではない。「給料革命」と呼ぶほどでもないレベルの話が続く。
門司港駅(北九州市)※写真と本文は無関係です

最初の事例を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

一人ひとり違う初任給、転職市場での価値で決まる給料……。独自の取り組みが広がる。硬直的な賃金体系では競争に勝てない。それに気づいた企業は給料革命を始めている。

平均年間給与は1861万円──。FA用センサーなどを手掛けるキーエンスは、日本屈指の高給企業として知られる。それを実現しているのは、高い生産性だ。多くの企業では売上高が重要な指標だが、キーエンスが見ているのは付加価値と時間だ。

「今年の『時間チャージ』は〇〇円です」。新年度が始まる4月、キーエンス全社で共有される数字がある。前の年度に生み出した付加価値を全社員の労働時間で割った数だ。付加価値はほぼ粗利に近い数字。つまり、1時間あたりいくらの粗利を生んだか、実数で可視化しているのだ。

「『時間チャージ』という概念が一人ひとりの社員の行動の根底にある」(木村圭一取締役)。等級に応じて額は変わるが、社員は「この1時間で生み出せたはずの付加価値」を知っているからこそ、利益に結び付く行動を優先するようになる。例えば単純なデータの入力作業などは、自分の時間チャージよりも外部に委託したほうが安ければ、外注する。営業ならば、空き時間を作らず、付加価値につながる行動をしようとするというわけだ。あらゆる経費を使う際に費用対効果を常に意識して行動するようになる。

もっとも、効率を高めるのは会社のためだけではない。透明性の高い給与の決め方があるからそれが機能する。同社では基本給に加え、毎月の営業利益の一定割合を「業績賞与」として支給するのがルール。毎月、前月の業績賞与の3分の1を月給と合わせて支給。残りの3分の2は年4回の賞与に上乗せする。「自分たちが生み出した付加価値と給与が直結している仕組み」(伊藤成司人事部長)を取り入れていることが、好待遇を支えている。

そこには、春闘でベアを勝ち取って賃金を上げるという発想はない。自社独自の仕組みを導入することで働く者に報い、それを会社の成長につなげようという試行錯誤は様々な企業で始まっている。


◎これが「給与革命」?

色々と書いているが、結局は「賞与を業績連動で決めている」という話だ。ごく普通だろう。これが「給与革命」なのか。
久留米百年公園(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事では「それに気づいた企業は給料革命を始めている」と書いて、代表例としてキーエンスを持ってきている。だが、いつから「給料革命」に乗り出したのかは触れていない。記事の書き方からは、キーエンスがずっと続けてきた手法のように見える。

「絶対に業績連動にはしない」という方針を最近になって転換したのならば、少しは「革命的」な感じもするが、そうした説明もない。「時間チャージ」の話に至っては給与の決め方とほぼ関連がない。なのに、この話が最初に延々と続く。

1時間あたりいくらの粗利を生んだか、実数で可視化」したところで、大した効果はないだろう。そもそも、人事や経理は「粗利」を生んだことになっているのか。生んでいる場合、どうやって計算するのか。生んでいないと見なす場合「人事部A君の時間チャージは0円」と割り当てられるのか。

また、人事部のA君が採用のためにエントリーシートを1時間審査して、好ましい応募者がゼロと判断した場合、どんな付加価値が生まれるのか。常識的に考えれば、付加価値は生んでいない。しかし、だからと言って無駄な仕事と切り捨ててよいのか。また、優秀な学生の採用に成功した場合、付加価値はどう計算するのか。考えれば考えるほど、よく分からない。

想像だが、キーエンスでも間接部門の人たちは「時間チャージ」に囚われずに仕事をしているのではないか。


※今回取り上げた特集「給料はもっと上がる
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/030600934/?ST=pc

※特集の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする。

広岡延隆記者:C→D
武田安恵記者:D据え置き
庄司容子記者:暫定D→D
飯山辰之介バンコク支局長:暫定C→暫定D

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