2018年3月31日土曜日

「円高・株安=市場混乱」と日経 清水功哉編集委員は言うが…

日本経済新聞の清水功哉編集委員を安定感のある書き手と評してきた。斬新な切り口を提示する訳ではないが、毎回それなりのレベルにはまとめてくる印象がある。31日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「黒田日銀2期目の試練 誤算の円高『出口』急げず 
多いリスク、妙策乏しく」という記事を読んでも、基本的な評価に変更はない。ただ、引っかかる説明もあった。まずは冒頭部分。
流川桜並木と人力車(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

黒田東彦日銀総裁が4月9日に再任され、黒田日銀の2期目が始まる。1期目と異なり、円高・株安という市場混乱のもとでのスタートになりそうだ。緩和策を終える出口政策の早期着手は難しく、当面、長短金利を低位安定させる現行政策を粘り強く続ける構えだ。仮にマーケットの混乱がさらに深刻化した場合、取り得る追加策は限られ、難しい対応を迫られそうだ。



◎「円高・株安」は「市場混乱」?

円高・株安という市場混乱」という書き方が問題だ。円相場も株式相場も上がったり下がったりするものだ。「円高・株安」というだけで「混乱」と称するのはおかしい。清水編集委員の頭の中では「円安・株高=混乱せず」「円高・株安=混乱」となっているのだろうが、客観性には欠ける。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

円相場が振り出しに戻りかねない――。一時1ドル=104円台に突入した最近の円高は、日銀にとってそんな意味を持つ。

日銀が現行政策(長短金利操作付き量的・質的緩和)の導入を決めたのは2016年9月21日。その前日の東京市場の円相場は1ドル=102円程度だった。この水準に逆戻りする恐れも出てきた(グラフA)。


◎振り出しは「2016年9月21日」?

清水編集委員は「黒田日銀の2期目が始まる」という節目を捉えて今回の記事を書いたはずだ。「円相場が振り出しに戻りかねない」と言うのならば、その「振り出し」は1期目が始まった2013年4月であるべきだ。なのに、なぜか「日銀が現行政策(長短金利操作付き量的・質的緩和)の導入を決めた」日である「2016年9月21日」を「振り出し」にしている。だが、「黒田日銀」にとって「2016年9月21日」は「振り出し」ではないだろう。

「現行政策の振り出しだから…」といった弁明は可能だが、ご都合主義的に「振り出し」を設定している感は否めない。

さらに見ていこう。

【日経の記事】

米国が利上げを続けているのに円相場は日銀短観(17年12月)の想定レート(17年度下期、109円台後半)を上回る水準――。日銀には誤算だ。円高など市場環境悪化は、物価に下げ圧力を加える点で金融政策にとって問題になる。



◎「円高=市場環境悪化」

ここでは「円高など市場環境悪化」という表現が気になった。清水編集委員の「円高は悪いこと」という決め付けが記事に反映されている。物価上昇を目指す日銀にとって円高は「市場環境悪化」かもしれない。しかし、円高を歓迎する企業や個人もたくさんいる。単純に「円高など市場環境悪化」と言ってしまうのは感心しない。
ハンググライダー発進基地(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

上記のくだりに関して言えば「円高は物価に下げ圧力を加える点で金融政策にとって問題になる」で十分だ。どうしても「悪化」と入れたいのならば、日銀にとっての「悪化」だと明示してほしい。

以下のくだりも似たような問題を抱えている。

【日経の記事】

もちろん今の超低金利が長引けば様々な副作用の懸念が強まる。十分な金利収入を得られない銀行の経営が悪化すれば、世の中にお金を提供する機能が低下する。保険、年金などの資産運用にもマイナスに働く。だからこそ黒田日銀の次の5年間では出口の模索が課題になるが、そのためにもまずは物価情勢の改善が必要だ。出口政策をすぐに始められる状況ではない。



◎「物価上昇=改善」?

そのためにもまずは物価情勢の改善が必要だ」と書いてしまうのも、清水編集委員の中に「物価上昇は良いこと」との思い込みがあるためだ。しかし、物価上昇を歓迎しない人は多い。上記のケースでは「そのためにもまずは物価の上昇が必要だ」で事足りる。

最後に、記事の結論部分にもツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】 

仮に市場がさらに混乱して、2%目標実現に向けた物価のモメンタム(勢い)が失われるようなら、追加緩和の検討を迫られる可能性もある。ただ副作用の懸念は強く、「金利をさらに引き下げられる余地は事実上ない」(門間一夫元日銀理事)との指摘もある。

株安圧力が強まれば、年間約6兆円のペースで実施している上場投資信託(ETF)購入を増やす手もある。ただ既に日銀のETF保有残高は東証1部時価総額の約3%に相当する。購入を増やすと株価が本来の企業価値を一段と反映しなくなるとの批判も根強い。

政府が財政支出を増やし、日銀が国債購入増額で側面支援する財政・金融の連携策も考えられる。ただ財政規律がさらに緩む印象を与えれば、海外投資家の日本を見る目が厳しくなるかもしれない。

追加対応の妙策が乏しい日銀の現実が、市場混乱時に事態をさらに悪化させる恐れも皆無ではない



◎「事態をさらに悪化させる恐れ」は「皆無」かも…

追加対応の妙策が乏しい日銀の現実が、市場混乱時に事態をさらに悪化させる恐れも皆無ではない」と清水編集委員は記事を締めている。これに関しては、「事態をさらに悪化させる恐れ」は「皆無」かも…と感じた。前提として「打つ手のない日銀は円高・株安が進行しても傍観しているしかない」としよう。ならば、「さらに悪化させる」とは考えにくい。

市場に任せておくと日経平均株価が1万円まで下落する状況で日銀が傍観すると、さらに9000円、8000円と下がるだろうか。市場の判断する適正水準が1万円なのだから、日銀が動かなくても1万円で下げ止まるはずだ。

何もしないのだから「さらに悪化させる」という可能性を考慮する方が不思議だ。例えば、インフルエンザにかかった患者を放置すれば40度まで高熱が出るとしよう。薬などの打つ手を持たない医師がそばにいて傍観すると、熱が41度、42度と上がるだろうか。間違った治療をすればそうなるかもしれないが、傍観している限りは医師が熱をさらに上げる要因にはなりそうもない。


※今回取り上げた記事「黒田日銀2期目の試練 誤算の円高『出口』急げず  多いリスク、妙策乏しく
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180331&ng=DGKKZO28789430Q8A330C1PPE000


※記事の評価はC(平均的)。清水功哉編集委員への評価もCを据え置く。清水編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

企業にデフレ心理? 日経 清水功哉編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_28.html

危ないことをサラッと書く日経 清水功哉編集委員への期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_48.html

「強固なデフレ心理」がある? 日経 清水功哉編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_20.html

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