2018年3月19日月曜日

「保育所整備で女性活躍」は「自明の理」? 日経「春秋」の誤解

「(保育サービスの)受け皿が増えれば女性の活躍が進み、社会全体に大きなプラス効果をもたらすのは自明の理」という説明に違和感を抱く人は少ないかもしれない。だが、実は「自明の理」とは言えない。「受け皿を増やしても女性の活躍は進まない」可能性も十分にある。新聞の1面にコラムを書くのならば、その辺りもしっかり認識していてほしいので、以下の問い合わせを日経に送ってみた。
桜滝(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

19日朝刊1面の「春秋」についてお尋ねします。筆者は「最近では保育園だって子どもの声が騒音扱いされ、あちこちで疎まれている。受け皿が増えれば女性の活躍が進み、社会全体に大きなプラス効果をもたらすのは自明の理」と書いていますが、本当に「自明の理」と言えるでしょうか。

原因と結果の経済学~データから真実を見抜く思考法」(ダイヤモンド社)という書籍では、「認可保育所を増加させることが、母親の就業を増加させるかどうかは慎重に検討する必要がある。なぜなら、ノルウェー、フランス、アメリカなどでは、認可保育所の整備にもかかわらず、母親の就業は増加しなかったと報告されているからだ」と記した上で、日本に関する研究(東京大学の朝井友紀子氏、一橋大学の神林龍氏、マクマスター大学の山口慎太郎氏よる研究)について以下のように説明しています。

朝井らの分析結果は、『保育所定員率と母親の就業率のあいだには因果関係を見出すことができない』という驚くべきものだった。この理由として、認可保育所が、私的な保育サービス(祖父母やベビーシッター、あるいは認可外保育所など)を代替するだけになってしまった可能性が指摘されている。もともと就業意欲の高かった女性は、こうした私的な保育サービスを利用しながら就業を継続していた。そのため、認可保育所の定員の増加は、彼女たちに私的な保育サービスから公的な保育サービスへの乗り換えを促しただけで、これまで就業していなかった女性の就業を促したわけではなかった

この研究結果が絶対的に正しいとは言いません。しかし、こうした研究結果が報告されているのは事実でしょう。「春秋」での「受け皿が増えれば女性の活躍が進み、社会全体に大きなプラス効果をもたらすのは自明の理」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

春秋」では「認可保育所」とは言っていないが、想定しているのは「認可保育所」だろう。「もともと就業意欲の高かった女性は、こうした私的な保育サービスを利用しながら就業を継続していた」とすれば、「認可外保育所」を増やしても「女性の活躍」が進むとは限らないはずだ。やはり「受け皿が増えれば女性の活躍が進み、社会全体に大きなプラス効果をもたらす」ことは「自明の理」とは言い難い。

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「春秋」(2018年3月19日)
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180319&ng=DGKKZO28293770Z10C18A3MM8000

※記事の評価はC(平均的)。

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