2018年3月5日月曜日

「楽天の携帯参入」で日経 関口和一編集委員に感じた問題点

5日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~楽天『第4の携帯』の勝算 問われる『素人』の直感」という記事(筆者は関口和一編集委員)は回りくどいし、ツッコミどころも多い。記事を見ながら具体的に指摘してみる。
諫早公園の大クス(長崎県諫早市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

「携帯電話事業のゲームチェンジャーになる」。スペインの携帯見本市で先週、楽天の三木谷浩史会長兼社長は通信事業への参入について熱く語った。楽天は前日に総務省に携帯用電波の取得を申請したばかり。ネット通販や金融のサービスと融合すれば「後発でも戦える」と訴えた。

一方、既存の携帯大手からは疑問の声が上がる。楽天は携帯事業参入に伴い、「最大で6千億円を調達する」と説明するが、KDDI(au)の田中孝司社長に「それで設備投資がまかなえるほど通信事業は甘くない」と一蹴された

実は携帯市場で新規参入者が冷ややかに見られたのは、初めてではない。

米アップルのスティーブ・ジョブズ氏が2007年に「iPhone(アイフォーン)」を発売した際も、「通信は素人」と既存事業者は声をそろえた。通信速度が遅い当時の携帯電話網ではiPhoneは動きが鈍く、通信費もかさむと考えられたからだ。

だが、携帯電話網の通信速度が上がるにつれ、みるみるユーザーを拡大した。

ほかにも理由がある。

日本の携帯電話端末にはNTTドコモの「iモード」があったが、海外の端末は機能が乏しかった。それを「携帯ネット」の入り口に変えたのがアップルだ。


◎話がズレているような…

楽天は通信事業者としての参入だ。アップルは通信機器を販売しただけだ。「通信は素人」だろうが、そもそも「通信」事業を手掛けてようとしていない。比較対象として持ち出すには少しズレている。

この辺りは見過ごせるレベルだが、今回の記事はこの後に問題がある。

【日経の記事】

技術はエクスポネンシャル(指数関数的)に進化するが、専門家を自負する経営者ほど自身の経験で判断しリニア(直線的)に進歩すると考えがちだ。当時、携帯の主役だったノキア(フィンランド)が衰退したのも同じ理由によるだろう。



◎横文字が不要

上記のくだりで「エクスポネンシャル」「リニア」と横文字を入れる必要はない。普通に「指数関数的」「直線的」とだけ書けば通じる。関口編集委員は英語が得意なのだろうが、無駄な横文字を入れるのは避けてほしい。

内容自体も問題がある。まず「技術はエクスポネンシャル(指数関数的)に進化する」と断定してよいのか。「指数関数的に進化する」場合もあれば、そうではない場合もあるはずだ。

例えば、人類は1960年代に月へ到達した(個人的には信じていない)。人類が地球から離れた場所に行く技術が「指数関数的に進化」しているのならば、2018年の人類は太陽系を飛び出していても不思議ではない。だが、なぜか21世紀になって月に行った人さえゼロだ。本当に技術は「指数関数的に進化」しているのか。

専門家を自負する経営者ほど自身の経験で判断しリニア(直線的)に進歩すると考えがちだ」との説明も奇妙だ。技術は「指数関数的に進化する」という法則が成り立つならば「専門家を自負する経営者」も「指数関数的な進化」を過去に経験しているはずだ。なのに、なぜか経験を無視して「リニア(直線的)に進歩すると考えがち」らしい。

専門家を自負する経営者」たちには「指数関数的な進化」を「直線的」な進化だと勘違いしてしまう習性があるのか。だとしたら、なぜそうなるのか説明が要る。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

そう考えると、三木谷氏の自信もうなずける。携帯大手はかつて基地局に「兆円単位」の資金を投じたが、当時は半径数キロメートルをカバーする設備が必要だった。現在の基地局は半径が数百メートルの「スモールセル」が主流。この間の技術革新でコストも格段に下がった通信品質に対する考え方も過去は音声が途切れないことが重要だったが、データ通信が主流の今は多様な接続手段で補い合える


◎専門家は現状を理解してない?

仮に「専門家を自負する経営者」が「指数関数的な進化」を読み取れない人たちだとしよう。だとしても「専門家」であれば、現状の技術水準やコストに関しては理解しているはずだ。
岡山公園(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

この間の技術革新でコストも格段に下がった」と理解しているのであれば、現状のコストに基づいて「それ(6000億円)で設備投資がまかなえるほど通信事業は甘くない」と言っているのではないか。「KDDI(au)の田中孝司社長」は現状の理解さえも怪しい「専門家」だと関口編集委員は考えるのだろうか。

通信品質に対する考え方も過去は音声が途切れないことが重要だったが、データ通信が主流の今は多様な接続手段で補い合える」という説明も上手くない。この場合、「通信品質に対する考え方」に関して「過去は~だったが、現在は~」という形にする必要がある。

過去は音声が途切れないことが重要だった」はいい。問題は「データ通信が主流の今は多様な接続手段で補い合える」の部分だ。これは「通信品質に対する考え方」の説明になっていない。改善例を示してみる。

【改善例】

通信品質に対する考え方も過去は音声が途切れないことが重要だったが、データ通信が主流の今は多様な接続手段で補い合えるので、途切れを問題視する人はまずいない。

◇   ◇   ◇

これは文脈から判断して補って書いている。だが現実の問題として「途切れを問題視する人はまずいない」というのは怪しい気がする。「楽天の携帯は通話中によく切れる」との評価が定着すれば、特に仕事で使う人にとっては楽天を避ける理由になりそうだ。

コストや技術の面から見て6000億円で参入が可能と言えるのならば、「エクスポネンシャル」とか「リニア」とかゴチャゴチャ書かずに、基地局の設置に必要な費用などから6000億円で足りるか試算してみればいいだけの話だ。何のための回り道かよく分からなかった。

記事の残りを一気に見ていこう。

【日経の記事】

そして、楽天には別の強みもある。通信サービスだけでなく、その上でやりとりされるコンテンツやサービスだ。電子書籍の「コボ」や対話アプリの「バイバー」などを手がけるほか、ネット通販で得たポイントを通信料にあてるサービスもある。国内の楽天会員1億人に対し、こうした強みを生かせれば、勝算も見えるのではないか。

米国では、AT&Tなど携帯大手が自前コンテンツを定額で提供しサービスを競う。国内でもソフトバンク系のワイモバイルは、オークションなどに参加できる有料の「ヤフープレミアム」会員資格を契約者に無償で提供するなど、様々なサービスと通信を融合する動きが広がっている。

楽天の課題は2つある。1つは足りない回線をドコモからいつまで借りられるか。そして免許条件となる人口カバー率を予定通り達成できるかだ。ドコモは回線提供で敵に塩を送ることになるが、楽天は基地局を結ぶためにNTTグループの光回線を使う。NTTには新たな顧客でもある。

「素人」の直感と「玄人」との交渉。三木谷氏の手腕が問われている



◎結論が残念…

三木谷氏の手腕が問われている」という結論が残念だ。楽天の経営について論じる場合、この結論はどんな内容でもほぼ成り立つ。そもそも経営者は常に「手腕が問われている」ものだ。

囲み記事を書く場合、筆者には「記事を通じて何を訴えたいのか」をまず考えてほしい。それを記事の結論とすべきだ。誰でも分かっているような結論に導く記事ならば、世に送り出す意味はあまりない。

関口編集委員が記事を通じて訴えたかったのは「(楽天の携帯参入に関して)三木谷氏の手腕が問われている」ということなのか。だとしたら「それはそうでしょうね」と返すしかない。

さらに言うと、三木谷氏に関して「『素人』の直感」と書いているのも引っかかる。まず楽天はMVNOとして通信サービスを手掛けているので、通信に関して「素人」とは言い難い。

直感」に関しても、記事には具体的な説明がない。関口編集委員は三木谷氏が「直感」で参入を決めたと判断しているようだが、常識的に考えれば、それなりに市場調査などもしている気がする。「いや違う。三木谷氏は『直感』で決めたんだ」と関口編集委員が信じているのならば、記事中でその根拠を示してほしかった。

色々と見てきたが、この記事はやはり問題が多い。関口編集委員に今後も記事を書かせ続けるつもりならば、社内で周囲にいる人たちがしっかり支えてあげるべきだ。特に担当デスクの責任は大きい。


※今回取り上げた記事「経営の視点~楽天『第4の携帯』の勝算 問われる『素人』の直感
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180305&ng=DGKKZO27681340U8A300C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。関口和一編集委員への評価はDを据え置く。関口編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「経営の視点」に関する関口和一編集委員への助言
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_12.html

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