2017年1月26日木曜日

「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価

週刊エコノミスト1月17日号の「2017年の経営者 編集長インタビュー~金融投資を民主化したい」という記事に関する編集部とのやり取りが、10日以上かけてようやく決着した。回答は遅いし、内容にも無理がある。ただ、逃げずに向き合ったことは評価したい。無理のある苦しい回答なのは、エコノミスト編集部も十分に分かっているはずだ。「間違い」を「間違いではない」と言い張るならば、その代償として「どう考えても無理のある回答」を捻り出す必要がある。今回、それはできている。
筑後川(福岡県朝倉市・うきは市)
         ※写真と本文は無関係です

間違い指摘があっても安易に無視で済ませる日経、日経ビジネス、週刊東洋経済、週刊ダイヤモンドなどにはぜひ見習ってほしい。

エコノミスト編集部とのやり取りは以下の通り。


【エコノミストへの問い合わせ(1月12日)】

週刊エコノミスト 編集長 金山隆一様  大堀達也様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。

1月17日号の「2017年の経営者 編集長インタビュー~金融投資を民主化したい」という記事についてお尋ねします。この中で財産ネット社長の荻野調氏は「ターゲット層は」との問いに対し「資産が3000万円から1億円の人たちです。日本に1000万世帯あり、金融資産は合計500兆円という最大のボリュームゾーンになっています」と答えています。

これは野村総合研究所が昨年11月に発表した調査に基づいていると思えます。それによると、2015年時点での準富裕層(純金融資産5000万円以上1億円未満)とアッパーマス層(同3000万円以上5000万円未満)を合計すれば純金融資産が527兆円で世帯数が995万となり、荻野氏の発言とほぼ一致します。

ただ、マス層(同3000万円未満)は4,173万世帯に上り、純金融資産でも603兆円と「準富裕層+アッパーマス層」を上回っています。準富裕層とアッパーマス層を合計して他と比べるのにも問題を感じますが、それを認めて合計しても「最大のボリュームゾーン」になりません。記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。荻野氏の発言が野村総合研究所以外の調査に基づいている場合、その出所も教えていただけると助かります。

せっかくの機会なので、インタビュー記事を読んだ感想を述べさせていただきます。

結論から言うと、荻野氏や財産ネットに関して前向きに取り上げるべきではないと感じました。問題は色々とあるのですが、非常に長くなるので以下の発言に絞ってみます。

「富裕層は黙っていても金融機関が寄ってくるので資産ポートフォリオを組めるのに対し、ボリュームゾーンの人々は資産を増やすために株式やFX(外国為替証拠金取引)を始めるのが一般的です。ところが、知識がなく損失を出すケースが多いのです。富裕層との間に情報格差があります」

まず「富裕層は黙っていても金融機関が寄ってくるので資産ポートフォリオを組める」との説明が気になります。金融機関が寄ってこなくても「資産ポートフォリオ」は組めますし、金融機関に頼ってポートフォリオを組んでいては、金融機関にとって都合のいい「手数料の高い金融商品」ばかりになってしまう可能性大です。また、金融資産9000万円と1億円に決定的な差はありません。金融資産9000万円でも寄ってくる金融機関はあります。預かり資産が数千万円レベルでも、例えば銀行であれば担当者が付いて色々と商品を薦めてきます。もちろん、多くは金融機関にとって都合のいい商品です。

「富裕層との間に情報格差があります」と荻野氏は述べていますが、金融資産で1億円を超えたら金融機関が投資家に正しい助言をしてくれるとも思えません。編集後記に当たる「From Editors」の中で、金山編集長は今回のインタビューに絡めて「金融資産1億円以上あるとプライベートバンカーが丁寧に助言してくれ、高利回りで安定した金融商品の情報が入る」と言い切っています。

そもそも「高利回りで安定した金融商品(低リスクなのに期待リターンが高い商品という意味だと理解しました)」など基本的にないと思えます。金山編集長は具体的にどんな商品を想定しているのでしょうか。仮にそんな「おいしい金融商品」があったとしても、金融資産が1億円を超えるとプライベートバンカーがおいしい話を簡単に教えてくれるとは信じられません。本当にそんな夢のような「情報」が入るのですか。きちんと確認できていますか。

荻野氏には投資に関する十分な知識があるのでしょう。その上で、自社に有利になるように、投資家の誤解を招きかねない話をしているのだと思います。それを責めるつもりはありません。ただ、荻野氏の正確さに欠ける話を御誌がそのまま載せるのは感心しません。読者の中には荻野氏の発言を鵜呑みにする人もいるはずです。そうした危険性に十分な配慮をした上で誌面を作ってください。


【エコノミストへの回答の催促(1月16日)】

週刊エコノミスト 編集長 金山隆一様  大堀達也様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。

1月17日号の「2017年の経営者 編集長インタビュー~金融投資を民主化したい」という記事の中で、「資産が3000万円から1億円の人」たちを「最大のボリュームゾーン」としたのは誤りではないかとの問い合わせを1月12日に送らせていただきました。それから既に4日が経過していますが、まだ回答を頂いていません。確認に時間を要する案件とも思えませんので、早めの回答をお願いします。

万が一、回答する意思がない場合は、その旨だけでも知らせてください。


【エコノミストからの回答(1月16日)】

お世話になっております。読者様よりお問い合わせメールの窓口を担当しております週刊エコノミスト編集部の池田と申します。

このたびは金山、大堀宛にお問い合わせいただき、大変ありがとうございます。ご返事が遅くなってしまい誠に申し訳ございません。

ご指摘の通り、荻野社長の発言は、野村総研の調査に基づいた発言です。ご指摘いただいた編集部の認識については真摯に受け止め、今後の編集方針に活かします。ありがとうございました。

今後ともご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願いします。


【エコノミストへの確認(1月22日)】

回答ありがとうございます。

確認ですが「資産が3000万円から1億円の人たちです。日本に1000万世帯あり、金融資産は合計500兆円という最大のボリュームゾーンになっています」という荻野氏の発言のうち「最大のボリュームゾーン」との説明は誤りだと理解してよいのでしょうか。

この点に関しては、御誌としての見解を明確にしてください。よろしくお願いします。


【エコノミストからの回答(1月23日)】

お世話になっております。週刊エコノミスト編集部の池田です。

ご質問いただいた件ですが、荻野社長が、財産ネットの「ターゲット層」として最大のボリュームゾーンを、資産3000万円から1億円未満と考えているということです。

この層は、余裕資金(生活費を除き資産形成のために投資に回せるお金)という点では、3000万円未満の層よりもたくさん持っていると荻野社長は見ています。従いまして、ターゲット層として最大のボリュームゾーンと表現しました。

ご指摘いただき大変ありがとうございます。引き続きご指導のほど何卒よろしくお願いします。

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付け加えるならば、この苦しすぎる回答は、部下に任せるのではなく金山編集長自らが返してほしかった。


※この件に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html

週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_14.html


※金山隆一編集長については以下の投稿も参照してほしい。

FACTAに「声」を寄せた金山隆一エコノミスト編集長に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_25.html

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