2017年1月20日金曜日

「我々は皆リフレ派」?苦し紛れ日銀・原田泰氏の無理筋

リフレ派として知られる日銀政策委員会審議委員の原田泰氏は非常に賢い人なのだとは思う。だが、不利な状況に追い詰められると、賢い人でも愚かな主張をしてしまうということか。週刊エコノミスト1月24日号の「『我々は皆リフレ派である』 金融緩和の効果は絶大だ」という記事の中で、原田氏はかなり無理のある主張を展開している。
グラン・プラス(ブリュッセル)にそびえる市庁舎
            ※写真と本文は無関係です

まず「我々は皆リフレ派である」に無理がある。記事の最後で「リフレ政策とはデフレから脱却し、日本経済を活性化しようという政策である。あなたはデフレ派ですかと問われて、『はいそうです』と答える人はいないと思う。そういう意味では、いまやすべての人がリフレ派である」と原田氏は述べている。

あなたはインフレ派ですかデフレ派ですか」と聞かれたら、迷わず「デフレ派」と答える。正確に言えば「物価安定派(物価上昇率で-2~+2%)」だが、物価安定圏の中でプラスとマイナスのどちらが好ましいかと問われれば、個人的にはマイナス(つまりデフレ)を選ぶ。

預金金利がマイナスにならない前提で言えば、デフレが続いている限り預金金利ベースの実質金利はマイナスにならない。しかし、物価上昇率がプラスになると、実質金利はマイナスになり得る。言い換えれば、預金の実質的な価値が目減りしてしまう。これを歓迎しないのは、そんなに変わった考え方ではないはずだ。

物価上昇率が2%に近付いた段階でも今のような金融緩和が続くと考えると、預金ベースの実質金利はマイナス2%に近くなる。預金の価値が年間2%近く実質的に減価するような政策を圧倒的多数が支持するとは思えない。「リフレ派」の主張を正しく理解すれば、反対に回る人は少なくないはずだ。

原田氏の説明に「ズル」がある点も指摘したい。「リフレ政策とはデフレから脱却し、日本経済を活性化しようという政策である」と言われると、「だったら自分もリフレ派かな」と思ってしまう人は多いだろう。だが、「リフレ派」の定義に問題がある。

同じ記事の中で原田氏はこうも述べている。「リフレ派とは、大胆な金融緩和によって予想物価上昇率を引き上げ、実質金利を引き下げて、日本経済をデフレから脱却させ、新たな成長軌道に乗せようという考え方に賛同する人々である」。この定義だとかなり話が変わってくる。

デフレ脱却が望ましいとしても、市場の価格発見機能を喪失させるような規模の「大胆な金融緩和」をやってまで「脱却」させるべきなのか、そもそも「大胆な金融緩和」でデフレ脱却は可能なのか--との疑問が生じる。また、デフレ脱却ができれば「新たな成長軌道」に乗るかのような考え方に賛同できない人もいるだろう。

そうなると「我々は皆リフレ派である」との主張には説得力がなくなってくる。そんなことは原田氏自身が一番分かっているのだろう。それでも、こんな主張に走ってしまうのが哀れだ。

原田氏の主張には、他にも首を傾げたくなるものがあった。

【エコノミストの記事】

95年から現在まで、就職氷河期と言われなくなったのは小泉純一郎政権時代の量的金融緩和期と安倍政権時代の量的・質的金融緩和期だけである。失業率は生産年齢人口減少時代に上がり続け、02年8月には5.5%まで上昇したのに、QQEによって、今や3%を切る勢いである。

◎金融緩和で「就職氷河期」をなくせる?

2008年のリーマン・ショックの後に「就職氷河期の再来」と言われた時期があった。上記のくだりを読むと「量的金融緩和」や「量的・質的金融緩和」をこの時期にやっておけば、雇用情勢も悪化しなかったと思える。だが、常識的に考えれば、リーマン・ショックの影響の大部分を量的緩和で打ち消すのは難しい。この時期も「超」が付くほどの金融緩和を続けていたのに就職氷河期は再来した。雇用に限っても「金融緩和の効果は絶大」だとは思えない。

最後に以下の記述を見てほしい。

【エコノミストの記事】

確かに、1970年代にはほとんどの先進国で数十%のインフレが起きた。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士氏によると、そうなるまで、1年から1年半の時間がかかっている。金融を引き締める時間は十分にあったのにそうしなかったということだ。それに、そもそも2%インフレ目標とは、それを上にも下にも大きく違わないようにすることだから、ハイパーインフレになるはずがない。

◎金融を引き締める時間は十分にある?

数十%のインフレ」になるまでに「1年から1年半の時間がかかっている」から「金融を引き締める時間は十分にあった」と原田氏は書いている。だが、逆に「そんなに時間がないのか」と思ってしまった。

数%の物価上昇率が1年で「数十%」になるとしよう。1年様子を見て金融を引き締めても物価上昇率は既に「数十%」になっている。未然に防ごうと思えば、物価上昇が顕著になる前に手を打つ必要がある。その猶予期間は数カ月しかないはずだ。かなり短い。

そもそも2%インフレ目標とは、それを上にも下にも大きく違わないようにすることだから、ハイパーインフレになるはずがない」との説明もおかしい。日銀は「オーバーシュート型コミットメント」を採用している。これは「物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」ものだ。物価上昇率が3%や4%になっても「あくまで一時的なものだ。安定的に2%を超える状況にはなっていない」と判断すれば金融緩和は継続となる。

ハイパーインフレになるかどうかはともかく、結果としてインフレへの対応が後手に回る可能性は高い。「あえて後手に回る」と現時点で日銀自身が宣言しているのだ。

2%インフレ目標とは、それを上にも下にも大きく違わないようにすること」との説明も苦しい。「安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」のであれば、今の日銀による「2%インフレ目標」とは2%を下限としてそれより上の物価上昇率を目指していると言うべきだ。


※記事の評価はD(問題あり)。原田泰氏の書き手としての評価も暫定でDとする。

1 件のコメント:

  1. 預金金利は実質でマイナスでないといけません。
    デフレのままだと明治時代から発展しません。
    明治時代に100万円持っていたら大富豪ですが
    今100万円貯金があっても「全然だね」で終わるでしょう。
    では明治より現代は貧しいですか?
    経済は緩やかなインフレのみが是であってデフレは悪なのです。

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