2017年1月5日木曜日

「メガヨット」の事例が無駄な日経1面連載「断絶を超えて」

日本経済新聞朝刊1面で連載している「Disruption 断絶を超えて」を今回も取り上げる。5日に載った第4回の見出しは「石油の世紀の終わり 国境を越える『新結合』」。予想通りの問題山積みとなっている。まず、冒頭の「メガヨット」の話が無駄だ。記事の最初の方を見ていこう。
成田山表参道(千葉県成田市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

船体は全長134メートル、前方にはヘリポート。いくつものプール、室内で岩登りを楽しめる崖までしつらえてあるという。夢の「メガヨット」の価格は5億ユーロ(約600億円)。購入客が分かると、中東ウオッチャーたちは騒然とした

客の名はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子。31歳と若く王位継承の順位は2位だが、型破りな行動で世界に名をはせる。

2015年に国防相に就くや隣国イエメンの内戦で軍事介入に踏み切り、自ら国境近くの前線に赴いたこともある。経済の司令塔である経済・開発評議会議長も兼務し、時価総額2兆ドル(約230兆円)とされる国営石油、サウジアラムコの上場プランを進める。



◎疑問その1~「メガヨット」の話は要る?

メガヨット」の話は何のために持ってきたのだろう。今回の記事では「サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子」を改革の旗手として描いている。「5億ユーロ」で「メガヨット」を買ったことから「副皇太子」をどう理解すればいいのか。

大金をポンと出して「メガヨット」を買うのは、古くからあるアラブの王族のイメージそのままだ。「型破り」というより「型にはまっている」ように見える。

中東ウオッチャーたちは騒然とした」という説明も謎だ。なぜ「騒然とした」のか、記事には説明がない。例えば「高い買い物をしないことで有名な副皇太子が大金をつぎ込んだから騒然とした」などと書いてあれば理解できるのだが、相変わらずの説明不足だ。

次の記述も問題が多い。

【日経の記事】

型破りの副皇太子とサウジを襲う断絶は、20世紀に生まれた「石油の時代」の終わりだ。北米発のシェール革命でサウジは石油市場の価格決定権を失った。石油需要そのものも次世代エコカーなどの普及で頭打ちになりかけている。



◎疑問その2~「石油の時代」の終わりはいつ?

上記の説明では、「石油の時代」が既に終わっているようにも、これから終わるようにも解釈できる。ここは明確にしてほしかった。そして「断絶」に相変わらず無理がある。数年後には石油消費量が現在の100分の1ぐらいに減って「石油の時代」が終わるのならば「断絶」と呼ぶのも分かる。だが、その可能性はほぼゼロだ。

ついでに言うと「副皇太子とサウジを襲う断絶」と書いてあると、副皇太子とサウジの関係に大きな亀裂が入ると解釈したくなる。最初に読んだ時はやや戸惑った。書き方を工夫すべきだ。


◎疑問その3~サウジは価格決定権を持ってた?

記事の説明を信じれば、シェール革命の前まで、サウジは「石油市場の価格決定権」を持っていたことになる。しかし、信用する気にはなれない。例えば「エネルギー白書2007」には以下の記述がある。

1990年代に入ると、世界の石油価格を特定の指標原油の先物価格にリンクさせて決定するという現在の価格決定方式が定着しました。このようにして、OPECが一方的に石油価格を決定するという時代は終わりを告げ、市場メカニズムが石油価格を決定するというマーケットの時代が到来しました

これが一般的な見方だろう。90年代にはOPECも価格決定権を失っていたと思える。21世紀に入ってからもサウジ1国が価格決定権を保持していたとの取材班の見解には同意できない。

さらに問題点の指摘を続ける。

【日経の記事】

車種によっては売値が22%も下がった」。サウジの首都リヤドで、ある自動車ディーラーは天を仰ぐ。昨年9月に政府が公務員の手当を削減すると、個人消費が冷え込んだ。国民の暮らしはさえないが、副皇太子は改革の手を緩めない。

世界有数の投資国に変わる。アジアと欧州、アフリカの物流の要になる。自らが描く国家経済計画「ビジョン2030」は大胆、そしてスピーディーだ

「2020年までに石油がなくてもやっていけるようにする」。副皇太子は豪語する。大胆な構想には「夢物語だ。どうせ、失敗する」という外野の声が付きまとうが、一向に気にしない。



◎疑問その4~「国民の暮らしはさえない」?

車種によっては売値が22%も下がった」「政府が公務員の手当を削減」という事実から「国民の暮らしはさえない」と言われても、「さえない」感じがあまり伝わってこない。日本で置き換えてみれば分かりやすい。「トヨタ系のディーラーは在庫処分のために国内で2割前後の値下げを始めた」「日本の財政難に対応するため公務員の手当が一部削減された」--。こうした話を聞いて「日本国民の暮らしってさえないなぁ…」と実感できるだろうか。


◎疑問その5~「投資国」って何?

投資国」とは何なのか。さらに言えば、サウジは現状で何番目ぐらいの「投資国」なのか。その説明なしに「世界有数の投資国に変わる」と言われても困る。「アジアと欧州、アフリカの物流の要になる」との説明にも同様の問題がある。現状では「」に程遠いのかどうか、読者の多くは知らないはずだ。

現状を教えてくれないと、「ビジョン2030」に関して「大胆、そしてスピーディーだ」と言われても、判断のしようがない。

長くなるので、指摘はこの辺りで終わりにしたい。次は第5回。そろそろ完成度の高い記事を持ってきてほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。

※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

失敗覚悟? 「断絶」見えぬ日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post.html

第2回も予想通りの苦しさ 日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_3.html

肝心の「どう戦う」が見当たらない日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_5.html

そもそもファストリは「渡り鳥生産」? 日経「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_7.html

最後まで「断絶」に無理がある日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_8.html

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