2017年1月7日土曜日

「ソニーがフル生産しない理由」が謎の日経「会社研究」

7日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「会社研究~経営者が選んだ注目銘柄(3)ソニー スマホカメラ部品、第3の柱に 20年ぶり最高益の成否占う」という記事には色々と疑問が残った。特に分からなかったのが「需要増に生産が追いついておらず、機会損失が発生しているとみられる」画像センサーの話だ。そこまで言うのならば、工場はフル生産が当然だ。しかし、なぜかそうはなっていない。
佐賀県立美術館(佐賀市) ※写真と本文は無関係です

記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

「“バブル”というと言い過ぎかもしれないが、我々の想定よりかなり強い」。スマートフォン(スマホ)メーカーからの画像センサーの引き合いの多さに、ソニーのある幹部は目を丸くする。成熟産業と揶揄(やゆ)されるスマホ業界だが、カメラなどに使う画像センサーで世界シェアの半分近くを握るソニーは事情が異なる。スマホ1台あたりに搭載するカメラの数が増え、画像センサーの一段の成長が見込めるからだ。

 ソニー全体の画像センサーの生産規模は昨秋時点で月7.3万枚(300ミリメートルウエハー換算)。長崎県の工場では、1個でも多く作ろうと作業時間を秒単位で削っている。2017年3月期中には生産規模が能力いっぱいの8.5万枚に達する可能性もある

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1個でも多く作ろうと作業時間を秒単位で削っている」のに、「ソニー全体の画像センサーの生産規模は昨秋時点で月7.3万枚」止まりらしい。「2017年3月期中には生産規模が能力いっぱいの8.5万枚に達する可能性もある」というが、なぜさっさと「能力いっぱいの8.5万枚」を生産しないのか。

人手などの問題で頑張ってもフル生産できない場合はある。だが、記事にその辺りの説明はない。8.5万枚の能力に対して7.3万枚しか造っていないのに「需要増に生産が追いついておらず、機会損失が発生している」と言われても困る。

ついでに他の問題もいくつか指摘しておこう。

◎過去との比較を見せよう

画像センサーの引き合いの多さ」に触れた後で「ソニー全体の画像センサーの生産規模は昨秋時点で月7.3万枚」と書いているが、これだと引き合いが増えている様子が伝わらない。例えば「昨秋時点で月7.3万枚と前年同期に比べて倍増した」などとなっていれば、読者も「確かにちょっとしたバブルかも…」と納得できる。

記事では生産能力が「8.5万枚」とは書いているので、この数字との比較はできる。ただ、それでは生産余力が分かるだけで、引き合いの増加は読み取れない。


◎「スマホ業界」ってあるの?

成熟産業と揶揄(やゆ)されるスマホ業界」という説明は2つの意味で引っかかる。まず「スマホ業界」という業界はあるのか。「業界」の括りに明確な決まりはないので「ある」との主張を否定はできないし、他のメディアでも使用例はありそうだ。ただ、あまり聞き慣れない「業界」ではある。「スマホ業界」があるのならば「ガラケー業界」もあるのだろうか。

一方、「成熟産業と揶揄(やゆ)される」との表現には整合性の問題を感じた。記事に付けたグラフを見ると、「世界のスマホ出荷台数」は2016年から2020年まで順調に伸びる見通しとなっている(テクノ・システム・リサーチ調べ)。「伸びが小さいから成熟でいいんだ」などと弁明はできるかもしれないが、記事の説明とグラフが食い違っている感じはする。


※記事の評価はD(問題あり)。筆者である浜岳彦記者への評価も暫定でDとする。ただ、きちんとした記事を書ける資質はありそうだ。説明の仕方などをもう少し丁寧にすれば、「可もなく不可もなく」のレベルにはすぐに達するだろう。

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