2017年1月21日土曜日

運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う

21日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「解決!お金ゼミ~初心者の投信選び(3)アクティブ型ブレ大きく 5年以上の運用成績確認」という記事は、投資初心者にとって有害だ。過去の運用成績を見れば運用担当者の「」が分かるかのような幻想を振りまく罪は大きい。
筑後川(福岡県朝倉市・うきは市) ※写真と本文は無関係です

問題の部分を見てみよう。

【日経の記事】

宗羽 気になる投信がある場合、どう判断したらいいのですか。

屋久仁 まず運用会社のサイトで目論見書や運用報告書を見ることです。投資方針や組み入れ銘柄、過去の運用成績などがわかります。ただし最低5年は運用履歴があるものを選びたいですね。アクティブ型は成績を見ないと運用の腕が分からないからです

宗羽 成績を見るポイントを教えて下さい。

屋久仁 同種の投信同士で比べることが大切です。例えば中小型株指数は過去10年堅調だったので中小型株投信がTOPIXに勝っていても、運用担当者の腕とは言い切れません。

宗羽 なるほど。

屋久仁 対象期間全体の成績だけでなく、各年の成績もチェックします。特定の年だけ大きく勝ったため全体がよく見えることがあるからです。投資情報会社モーニングスターのサイトで「累積収益」という項目を見ると、SBIのジェイリバイブは同種の投信の中で上位の成績を維持した年が多かったことがわかります。成績が同じくらいなら、運用コスト(信託報酬)が低い方を優先します。

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これを読むと「過去の運用成績をチェックし、他の投信としっかり比較すれば運用担当者の腕が分かる」と思うのが自然だ。しかし、本当にそうだろうか。

学校では教えてくれないお金の授業」という本の中で、筆者の山崎元氏は以下のように記している。

【「学校では教えてくれないお金の授業」の一部】

「運用業界の不都合な真実、その2」は、「相対的に良いパフォーマンスのアクティブ・ファンドを『事前に』選ぶことはできない」ということです。

先のデータを見て、「それなら、TOPIXよりもよい成績だったアクティブ・ファンドを選べばいい」と思うかもしれません。実際に、2008年であっても、21%のアクティブ・ファンドは、TOPIXに優る成績を残していますから、その中から選べば、良い結果になったはずです。

しかし、過去の運用が優れていたファンドを「事後的に」選ぶことは簡単にできますが、将来良い結果を出すファンドを「事前に」選ぶことはできません。そのような都合のいいことができるのなら、本当に儲かって仕方がないのですが、現実にそう上手くはいきません。

また、過去に優れたパフォーマンスを収めたファンドが、今後も優れていると保証できる事実もありません。2002年にTOPIXを上回ったアクティブ・ファンドは32本ありましたが、その後もTOPIXを上回り続けたファンドは、2008年にはゼロでした。

この2つの「真実」から導き出される論理的な答えは、「手数料に大きな差がある限り、アクティブ・ファンドを買うことに経済的合理性はない」です。

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今回の日経の記事を書いたのは田村正之編集委員だと推測できる(関連コラムに「聞き手」として登場している)。田村編集委員は上記の山崎氏の主張にどう答えるだろうか。

パッシブ・ファンドの方が手数料が明確に安いのならば「アクティブ・ファンドを買うことに経済的合理性はない」と山崎氏は言い切っているし、個人的にも賛成できる。だが、日経の記事では、過去の運用成績を調べれば「運用担当者の腕」が分かるかのような説明をした上で、アクティブ・ファンドを選択肢の1つとして投資初心者に提示している。

「過去の運用成績をしっかり調べれば、運用担当者の腕前は分かる」と言うのならば、その根拠を記事で示してほしい。「運用成績が良かったとしても、それは全て運だ」とは自分も思っていない。むしろ、運用に関して本当の実力を持った人がわずかにいる可能性は高いと見ている。

ただ、本当の実力者はその能力を自分や近親者のために使うだろうから、投信のファンドマネジャーをやっている例は稀だろう。仮にいたとしても、「目論見書や運用報告書を見ること」で運か実力かを判断するのは困難だ。そう考えると、「投資初心者が過去の運用成績などを調べて運用担当者の腕前を測ろうとするのは時間の無駄」と言うほかない。

ファイナンシャルプランナーや証券アナリストの資格を持っているのが自慢の田村編集委員ならば、それぐらいは分かっているはずだ。

投資初心者向けの記事作りに参画し、アクティブ・ファンドに触れるのであれば「パッシブ・ファンドを上回る手数料のアクティブ・ファンドを買うことに経済的合理性はあるのか」をしっかり論じてほしいかった。正しく論じれば、金融業界への配慮に欠けた記事にはなってしまうが…。


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html

無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html

功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html

投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html

ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)

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