2017年1月3日火曜日

第2回も予想通りの苦しさ 日経1面連載「断絶を超えて」

日本経済新聞朝刊1面で連載している「Disruption 断絶を超えて」が予想通りの苦しい展開になっている。第2回には「『協争』の時代が来た 昨日の敵は今日の友」という見出しが付いているが、ここにきて時流が変わって「『協争』の時代が来た」ようには見えない。
成田山新勝寺 平和の大塔(千葉県成田市)
               ※写真と本文は無関係です

具体的にツッコミを入れてみたい。

【日経の記事】

「どうしてくれるんだ」。取引先の怒鳴り声が耳に痛い。ハウス食品物流子会社の担当者はうなだれるしかなかった。

アベノミクス景気が盛り上がった2014年3月。トラックの運転手が確保できず、約束の期日に配達できない食品メーカーが相次いだ

動かない物流網に震え上がったのはハウスだけではない。「将来、商品を運べなくなってしまう」とカゴメの寺田直行社長。売る商品もお客さんもいるのに売り上げが減る。そんな悪夢に食品各社はうなされた。

バブル崩壊後、企業再編は余剰人員の削減が主な目的だった。ところが、1995年の8726万人をピークに生産年齢(15~64歳)人口は1千万人以上減った。10年後には働き手が7千万人を割り込む。急ピッチで進む労働力供給の減少という断絶が、新たな再編を呼び起こす。

ハウスなど食品メーカーの挫折から3年弱。昨年暮れに北海道を訪れると、混乱は消えていた。ハウスやカゴメ、味の素の3社を軸に大手が配送で手を組んだからだ。味の素が管理する倉庫に商品を集め、配達する。

北海道での配送件数は2割弱減り、その分の人手も減った。販売の最前線でしのぎを削っても、助け合えるところは手を組む。そんな戦略に転換した。2年後には3社が物流子会社を統合する


◎疑問その1~なぜ「北海道」?

2014年3月」に物流の混乱が起きたのが「北海道」だと書いてあれば、「ハウスなど食品メーカーの挫折から3年弱。昨年暮れに北海道を訪れると、混乱は消えていた」と言われても納得できる。だが、今回の記事の構成では、筆者がなぜ「北海道を訪れる」のか分からない。3年前の「挫折」の場所を明示していないからだ。

さらに言えば、「ハウスやカゴメ、味の素の3社を軸に大手が配送で手を組んだ」のが、北海道限定なのか、全国規模なのか判然としない。調べてみると、北海道に限って「手を組んだ」ようだ。その辺りはしっかり説明してほしい。


◎疑問その2~どこが「断絶」?

この連載に付いて回る「どこが断絶?」問題がやはり横たわる。上記のくだりでは、「急ピッチで進む労働力供給の減少という断絶」と表現している。例えば、年間1%のペースで減少していた「生産年齢人口」が急に年間10%以上減るのならば「断絶」と言われてもまだ分かる。

しかし、「生産年齢人口」の減少は基本的に緩やかで予測も容易だ。「断絶」というよりは「連続」ではないか。


◎疑問その3~「物流子会社を統合」は決定?

記事では「2年後には3社が物流子会社を統合する」と言い切っているが、大丈夫なのか。2016年12月1日のニュースリリースには「2019年の物流子会社の統合も視野に入れた全国展開の検討を始めます」としか書いていない。その後の取材で「確定」と確認したのならば問題ないのだが…。

次の事例も苦しい。

【日経の記事】

協力しながら競争する「協争」の動きは、需要急減という断絶にも呼応する。2020年には人口に加えて国内の世帯数も減少に転じる。もう「一家に一台」という発想ではモノが売れない。

「一緒にやりませんか」。昨年1月、ヤマハ発動機の渡部克明取締役はホンダの青山真二取締役にささやいた。

ホンダに50ccスクーターの開発と生産を委ねたい。簡単に切り出せる話ではなかった。ホンダとヤマハ発は1980年代に「HY戦争」と呼ばれる乱売合戦を繰り広げ、ヤマハ発は経営危機に陥ったこともあるからだ。

渡部氏自身、競争真っただ中の82年4月に入社し、2カ月後に5%の減俸になった。しかし、そんな因縁にはもうこだわっていられない。

「断られたら最悪、撤退もあるかもしれない」。HY戦争当時から50ccスクーターの国内需要は9割減。蒸発するかのような需要減に腹をくくった。両社は2018年から協業を始める。



◎疑問その4~再び「どこが断絶?」

需要急減という断絶」も辛い。ここで言う「需要急減」とは「HY戦争当時から50ccスクーターの国内需要は9割減」という事態を指しているのだろう。しかし「1980年代」と比べて「9割減」ならば、「大幅減」ではあっても「急減」とは言い難い。30年もかけての「9割減」を「蒸発するかのような需要減」と表現するのは大げさすぎる。


◎疑問その5~「協争」の何が新しい?

協力しながら競争する『協争』の動き」を新たなトレンドのように紹介しているのも引っかかる。自動車業界でのOEMなど、「協力しながら競争する」動きは昔からある。「『協争』の時代が来た」と見出しで打ち出しているが、そんな時代は何十年も前から続いているはずだ。繊維や電機での「協争」の歴史を取材班は知らないのだろうか。

最後の地銀の事例でも苦しさは変わらない。

【日経の記事】

再編は消費者利益を損ねる寡占の恐れをはらむ。長崎県で首位の十八銀行が、2位の親和銀行を抱えるふくおかフィナンシャルグループ(FG)と経営統合する計画。昨夏に最終契約を結ぶ予定だったが、公正取引委員会の「待った」で中ぶらりんのまま越年した。

それでも、ふくおかFGの柴戸隆成社長は「統合を取り下げる考えはない」。地域が衰退する中での過当競争は共倒れを招く。従来型の競争を求める公取との攻防は続く

人口減による「協争」は企業が生き残るための入り口にすぎない。手を組んだ後の成長こそ、断絶に勝つ原動力だ。


◎疑問その6~経営統合も「協争」?

長崎県で首位の十八銀行が、2位の親和銀行を抱えるふくおかフィナンシャルグループ(FG)と経営統合する」のは「協争」なのか。「協力しながら競争する」というより、経営統合によって競争をやめると見るべきだろう。

従来型の競争を求める公取との攻防は続く」と書いているので、この「経営統合」は「従来型ではない競争」を目指すものだと取材班は判断しているようだ。しかし、経営統合は「協争」には見えないし、仮に「協争」だとしても、それが「従来型の競争」と一線を画すとも思えない。

正直言って、この出来では1面に大きなスペースを割いて記事を載せる意味はない。取材班の今後の奮起を期待したい。


※記事の評価はD(問題あり)。

※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

失敗覚悟? 「断絶」見えぬ日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post.html

肝心の「どう戦う」が見当たらない日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_5.html

「メガヨット」の事例が無駄な日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_25.html

そもそもファストリは「渡り鳥生産」? 日経「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_7.html

最後まで「断絶」に無理がある日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_8.html

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