2017年9月7日木曜日

堀内亮記者の説明下手が目立つ週刊ダイヤモンド「Inside」

週刊ダイヤモンド9月9日号の「Inside~産ガス国に反旗を翻した日韓『LNG取引』主導権争いが勃発」という記事の問題点をさらに指摘したい。まずは「産ガス国への根強い不信感」について。筆者である堀内亮記者の説明では、なぜ「根強い不信感」が生まれるのかよく分からない。
豪雨被害を受けた筑前岩屋駅(福岡県東峰村)
        ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

日本は世界1位の、韓国は同2位のLNG輸入国だ。そのツートップが時を同じくして、産ガス国に反旗を翻した。その背景には、産ガス国への根強い不信感がある。

日本の場合で説明しよう。まず、「価格」が高い。2008年以降、天然ガスの価格は米国・欧州で下がる一方なのに、原油価格と連動する日本では高止まりしている。

次に、日本の電力会社やガス会社のそれぞれが、どの程度の「量」を調達すべきなのかが読みにくくなっている。電力・ガスの自由化で競争が激化したことにより、各社の需給の見通しが不透明化しているからだ。仮にLNGが余ってしまった場合、仕向け地条項により転売が制限されているため、電力会社・ガス会社の経営へのインパクトは甚大だ。


◎「不信感」を抱く理由はないような…

不信感を抱く第一の理由は、価格の高さらしい。「原油価格と連動する日本では高止まりしている」という。原油価格と連動する値決め方式を日本側も同意して契約を結んだのならば、原油価格が下がらない限り、LNG価格も安くならないのは当然だ。日本側に読み違いがあったとしても、「産ガス国への根強い不信感」を抱く理由にはならない。「産ガス国」が契約通りの価格でLNGを供給している場合、「不信感」を持つ日本側にこそ問題がある。

「日本の電力会社やガス会社のそれぞれが、どの程度の『量』を調達すべきなのかが読みにくくなっている」という第二の理由も謎だ。「電力・ガスの自由化で競争が激化したことにより、各社の需給の見通しが不透明化している」ことに「産ガス国」は何の責任もない。「仕向け地条項」の存在が日本側にとって困ったものなのは分かるが、日本の市場環境が変わってきたから「産ガス国への根強い不信感」を抱くというのは、おかしな話だ。

次に「仕向け地条項」が撤廃されたかどうかを見ていきたい。堀内記者の説明だと、どちらとも取れる。まず、最終段落を見てみよう。

【ダイヤモンドの記事】

ある業界関係者は、「今回の仕向け地条項の撤廃は、日本がLNG市場を形成するための大きな第一歩」と歓迎する。とはいえ、長期契約から短期契約・スポット取引への移行、トレーダーの育成など、日本がLNG取引の主役となるための課題は山積している。



◎仕向け地条項は撤廃された?

「今回の仕向け地条項の撤廃は~」というコメントを使っているので「仕向け地条項は既に撤廃された」と理解したくなる。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

しかし、その前には以下の解説もある。

【ダイヤモンドの記事】

韓国に先んじて、日本も同様の見解を示したばかりだ。この6月末、日本の公取委はLNG取引に関する調査報告書をまとめている。それには、LNGの引き渡し地点を出荷基地とするFOB(Free On Board)契約において、「(産ガス国が)仕向け地条項を規定することは独占禁止法上問題となる恐れがある」と盛り込まれた。

◇   ◇   ◇

これを読むと、話が違ってくる。「今後は仕向け地条項を含む契約をしてはいけない」と決まったわけではなさそうだ。既に存在する仕向け地条項が無効になるとも考えにくい。なのに「今回の仕向け地条項の撤廃」と言い切ってしまってよいのか。他社の報道などを見ると「仕向け地条項の撤廃」は実現していないと思える。

今回の記事を読む限り、堀内記者は経済記事の書き手として必要最小限の実力を身に付けていないと推測できる。今回のような記事を再び世に送り出すことがないよう対策を考えてほしい。


※今回取り上げた記事「Inside~産ガス国に反旗を翻した日韓『LNG取引』主導権争いが勃発」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21183

※記事の評価はD(問題あり)。堀内亮記者への評価は暫定でDとする。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

天然ガスは「高止まり」? 週刊ダイヤモンド堀内亮記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_6.html

2017年9月6日水曜日

天然ガスは「高止まり」? 週刊ダイヤモンド堀内亮記者に問う

週刊ダイヤモンド9月9日号の「Inside~産ガス国に反旗を翻した日韓『LNG取引』主導権争いが勃発」という記事におかしな説明があった。「2008年以降、天然ガスの価格は米国・欧州で下がる一方なのに、原油価格と連動する日本では高止まりしている」と筆者の堀内亮記者は言うが、08年に比べれば原油価格は大きく下がっている。なのに「原油価格と連動する日本で」天然ガス価格が「高止まり」するだろうか。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市※写真と本文は無関係です

以下の内容でダイヤモンド編集部に問い合わせを送ってみた。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 堀内亮様

9月9日号の「Inside~産ガス国に反旗を翻した日韓『LNG取引』主導権争いが勃発」という記事についてお尋ねします。

記事には「2008年以降、天然ガスの価格は米国・欧州で下がる一方なのに、原油価格と連動する日本では高止まりしている」との記述があります。08年と言えば、WTI相場が1バレル当たり147ドルの最高値を付けた年です。最近はこの高値を100ドルほど下回る水準で推移しています。日本の天然ガス価格が「原油価格と連動する」のならば、「2008年以降」に「高止まりしている」のは不可解です。

新電力ネットによると、08年以降に日本の天然ガス価格は大きく下げているようです。08年は100万BTU当たり11.59ドルでしたが、17年6月には5.52ドルと半値以下になっています。年次の推移を見ると、09年に大きく下げた後、12年に18.15ドルまで上げ、その後は下げ基調が続く展開になっています。「高止まり」とは「高水準で横ばい」という意味ですが、実際にはかなり激しく上下しています。

「米国・欧州で下がる一方」との説明にも問題がありそうです。例えば欧州の場合、10年の8.22ドルが12年には11.98ドルまで上昇しており「下がる一方」とは言えません。17年6月の価格を前年同月比で見ても、米国は14%、欧州は23%のプラスです。

08年以降の天然ガス価格について「米国・欧州で下がる一方」なのに「日本では高止まりしている」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が目立っています。日本を代表する経済メディアとして、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Inside~産ガス国に反旗を翻した日韓『LNG取引』主導権争いが勃発」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21183


※記事の評価はD(問題あり)。堀内亮記者への評価も暫定でDとする。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

堀内亮記者の説明下手が目立つ週刊ダイヤモンド「Inside」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/inside.html

2017年9月5日火曜日

「懸念」の必要なし 日経社説「小売り値下げに2つの懸念」

4日の日本経済新聞朝刊総合・政治面に載った「小売り値下げに2つの懸念」という社説はあまり意味のない中身だった。「2つの懸念」が気になって読んでしまったが、「懸念」すべき状況にあるとは思えなかった。まずは最初の「懸念」から見ていこう。
九州北部豪雨後の筑前岩屋駅(福岡県東峰村)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大手小売り各社が安売り志向を強めている。イオン、セブン&アイ・ホールディングス、西友は食品や日用品を相次ぎ値下げした。専門店チェーンでもイケア・ジャパンや良品計画が家具や衣料品の価格を引き下げている。

ユニー・ファミリーマートホールディングスがドンキホーテホールディングスと資本提携し、不振のスーパーをディスカウントストアに衣替えすると決めたのも、こうした流れと無縁ではない。

消費者の節約志向が理由だという。ネット通販に対抗する狙いもあろう。しかし安売り頼みの小売り経営には2つの懸念がある。

第1は値下げの原資だ。家具のニトリホールディングスや大手100円ショップ各社は、商品調達先の育成や物流自動化などの努力を重ね価格競争力を築いた。今の値下げ合戦はビジネスモデルの改革を伴っているか。従業員や納入先に過剰な負担を与える値下げだとしたら、長続きしない。


◎あやふやな前提に基づく「懸念」では…

社説では「従業員や納入先に過剰な負担を与える値下げだとしたら、長続きしない」と訴えるものの、今回の動きが「従業員や納入先に過剰な負担を与える値下げ」に当たるかどうかは教えてくれない。あやふやな前提に基づいて「懸念がある」と言われても困る。それに、「長続きしない」のならば「懸念」する必要もあまりなさそうだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

2番目の「懸念」も納得できなかった。

【日経の記事】

第2は値下げする対象だ。一般的な普及品の値下げが目立つが、チェーンストアの原点は「良いものをより安く」にある。欲しいが高くて手が出ないものを工夫で値下げしてこそ、消費者の満足度が高まり需要喚起につながる。

米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムは買収した高級スーパー、ホールフーズ・マーケットの商品を大幅に値下げした。有機野菜や産直の肉などのぜいたく品を手の届く価格で提供し、健康志向の中間層に歓迎されている。


◎「良いもの=高級品」?

「チェーンストアの原点」が「良いものをより安く」かどうか知らないが、仮にそうだとしよう。だが「良いもの=高級品」ではないはずだ。「一般的な普及品の値下げ」が「良いものをより安く」に反しているとは言えない。例えばビール類の値下げは「一般的な普及品の値下げ」でもあり、同時に「良いものをより安く」する動きにもなり得る(「良いもの」かどうかの判断は難しいが…)。

また、「欲しいが高くて手が出ないものを工夫で値下げしてこそ、消費者の満足度が高まり需要喚起につながる」という認識も誤りだ。牛丼やハンバーガーは「欲しいが高くて手が出ないもの」ではないが、過去に大幅値下げで「需要喚起」に成功している。「一般的な普及品」であっても、値下げによる「需要喚起」は期待できる。改めて説明するまでもない当たり前の話だ。


※今回取り上げた社説「小売り値下げに2つの懸念」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170904&ng=DGKKZO20711550U7A900C1PE8000


※社説の評価はD(問題あり)。この社説に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小売り値下げで「納入先」に過剰な負担? 日経社説の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_4.html

2017年9月4日月曜日

小売り値下げで「納入先」に過剰な負担? 日経社説の誤り

4日の日本経済新聞朝刊総合・政治面に載った「小売り値下げに2つの懸念」という社説に誤りと思える記述があった。「仕入先」と「納入先」を間違えている気がする。日経に送った問い合わせの内容は以下の通り。
豪雨被害を受けた大行司駅(福岡県東峰村)
          ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

4日付の朝刊に掲載された「小売り値下げに2つの懸念」という社説についてお尋ねします。社説では「大手小売り各社が安売り志向を強めている」と述べた上で、「今の値下げ合戦はビジネスモデルの改革を伴っているか。従業員や納入先に過剰な負担を与える値下げだとしたら、長続きしない」と問題提起しています。

ただ、「値下げ」が「納入先に過剰な負担を与える」可能性はほぼゼロです。「納入先」とは「金品を納める相手」(実用日本語表現辞典 )です。「大手小売り各社」の場合は、主に消費者が「納入先」に当たります。消費者としては、値下げによって従来より安く買えるようになるので、基本的に「負担」は減ります。

当該部分の「納入先」は「仕入先」などとすべきではありませんか。「納入業者」ならば「仕入先」を指すとの解釈もできますが、小売りに関して「仕入先」を「納入先」と呼ぶのはかなり無理があります。

記事の説明は誤りと判断してよいのでしょうか。問題ないとすれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティジャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

「納入先=金品を納める相手」であり、小売り各社は仕入れ先に代金を「納める」ので仕入先も「納入先」だとの弁明は不可能ではない。ただ、一般的に仕入先を「納入先」と呼ぶかと言えば違う。なので、社説の記述は「誤り」と考えてよいだろう。

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた社説「小売り値下げに2つの懸念」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170904&ng=DGKKZO20711550U7A900C1PE8000

※社説の評価はD(問題あり)。この社説に関しては以下の投稿も参照位してほしい。

「懸念」の必要なし 日経社説「小売り値下げに2つの懸念」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_5.html

2017年9月3日日曜日

メキシコは「低税率国」? 日経1面「税収 世界で奪い合い」

3日の日本経済新聞朝刊1面に載った「税収 世界で奪い合い 各国、企業誘致へ税率下げ 不均衡是正の動きも」という記事では、法人税に関してメキシコを「低税率国」と見なしている。だが、調べてみるとどうも怪しい。日経に以下の内容で問い合わせを送ってみた。
小倉井筒屋(北九州市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 富田美緒様 中村亮様

3日朝刊1面の「税収 世界で奪い合い 各国、企業誘致へ税率下げ 不均衡是正の動きも」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

「法人実効税率を比べると日本は第2次安倍政権発足後に36.99%から29.97%に低下した。英国は19%と10年で11ポイント引き下げた。税率の引き下げは自国企業の競争力を高めるためだが、低税率の国では外国から企業を誘致して税収を増やす狙いもある。メキシコは税優遇で米国向けに自動車などを製造する企業を誘致し、法人税収は2015年までの10年で4倍に増えた」

ここからは「メキシコ=低税率国」と読み取れます。記事には「低税率国の法人税収が伸びている」とのタイトルのグラフが付いており、この中でメキシコの伸びは他国(韓国、アイルランド、米国、日本)を圧倒しています。

しかし、OECDの資料で法人税の実効税率を見ると、メキシコは30.00%で日本(29.97%)をわずかに上回っています。OECD加盟国の中では五指に入る「高税率国」のようです。メキシコを「低税率国」に含めるのは誤りではありませんか。記事の説明で問題ないとすれば、その根拠も併せて教えてください。

グラフの「低税率国の法人税収が伸びている」との説明も成り立っていないと思えます。圧倒的に税収の伸びが大きいメキシコは、既に述べたように「低税率国」ではありません。

「2007年を100として指数化」した記事中のグラフで見ると、「税率を先進国最低水準の12.5%まで下げたアイルランド」は、税率がOECD加盟国で中位にある韓国の後塵を拝しています。2015年時点で高税率国の米国と比べても、アイルランドは指数でほぼ同水準にとどまっています。

グラフで取り上げた5カ国だけを見ても「低税率国の法人税収の伸びが大きく、高税率国の伸びが小さい」という傾向は読み取れません。「低税率国の法人税収が伸びている」とのタイトルは、控え目に言っても「読者に誤解を与える」と思えますが、いかがでしょうか。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティジャーナリズムを目指す新聞社として、掲げた旗に恥じない対応を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

以上が問い合わせの中身だ。記事では「メキシコの税率は低い」と言い切っている訳ではないが、書き方からして「メキシコを低税率国に含めていない」とは考えにくい。不正確な解説だとは言ってよいだろう。

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「税収 世界で奪い合い 各国、企業誘致へ税率下げ 不均衡是正の動きも」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170903&ng=DGKKASGD27H7E_Y7A800C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。富田美緒記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。中村亮記者への評価は暫定でDとする。冨田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

データの扱いが恣意的な日経「企業の現預金、世界で膨張」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_3.html

2017年9月2日土曜日

参考にするな! 北沢千秋QUICK資産運用研究所長の記事

2日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に北沢千秋QUICK資産運用研究所長が書いた「相場転機に備え守り固める 為替ヘッジや分散重視」という記事はツッコミどころが多い。どう解釈すべきか迷う記述も散見される。投資初心者にとっては参考にする必要のない記事と言える。
九州北部豪雨後のJR日田彦山線(福岡県東峰村)
       ※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

【日経の記事】

 米国株式の長期上昇相場は8年を経過した。株高を支えた量的金融緩和策の転換を控え、国内外の金融資本市場の一部では先行き警戒感も出始めている。いつかはやって来る相場の転機に備え、個人の資産運用も少しずつ守りを固めたい。

 「すでに一部の資産では調整が始まっている」。ピクテ投信投資顧問の萩野琢英社長はそう指摘する。

米連邦準備理事会(FRB)は今月にも資産の縮小を決める見通し。米金融政策はリーマン危機後の量的緩和から正常化に向かう。足元で米国上場のMLP(共同投資事業)や不動産投資信託(REIT)の相場がもたついているのは、金融機関の貸し出し態度が先々厳しくなる可能性をにらんでのことという。



◎今も「量的金融緩和策」が続いてる?

言いたいことは分かるが、米国に関して「量的金融緩和策の転換を控え」と説明するのは感心しない。「米国は今も量的金融緩和策を採用している」とのニュアンスを感じるからだ。実際には2014年に量的緩和策を終了させている。

「今月にも資産の縮小を決める見通し」となったことを受けて「量的金融緩和策の転換を控え」と書いたのだろうが、正確さに欠ける。

今度は後半部分を見ていこう。記事の中で最も理解に苦しんだのが以下の記述だ。

【日経の記事】

萩野氏はMLPやREITなど、レバレッジ(借金活用による利益極大化)をかけた資産からの撤退に加え、今後は資産分散の徹底、資産全体のリスク抑制、株式や債券とは異なる値動きをするヘッジファンドの組み入れなどが大事になると指摘する。

これらを個人が実行するのは難しく、こうした運用をするバランス型投信に一部、資金シフトするのが現実的な対応になる。「相場の急変時には現金の組み入れ比率を5割程度に引き上げるような、機動的に資産配分を変更できるバランス型投信を選びたい」と話す。



◎「レバレッジ」がダメなら…

「ピクテ投信投資顧問の萩野琢英社長」は「MLPやREITなど、レバレッジ(借金活用による利益極大化)をかけた資産からの撤退」が大事だと言っているらしい。REITは「借金」も活用して不動産を購入するので「レバレッジをかけた資産」と呼んでいるのだろう。だとしたら、株式もダメではないか。多くの上場企業では「借金活用」によって事業展開している。なのに「バランス型投信を選びたい」とは、どういう考えなのか。バランス型投信を選んでしまうと、ほとんどの場合は株式も投資対象に入ってしまう。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市※写真と本文は無関係です

さらに言うと、「MLPやREITなど、レバレッジ(借金活用による利益極大化)をかけた資産からの撤退」は分散投資の観点からはマイナスだ。「資産分散の徹底」を図るならば、REITなども入れた方がよい。

「バランス型投信に一部、資金シフトするのが現実的な対応になる」という北沢所長の説明も納得できない。記事の中で北沢所長は「物価上昇や今後の消費税率引き上げを想定すると、現金を保有し資産の実質的な目減りを放置するのは得策ではない」と訴えてきた。なのに「相場の急変時には現金の組み入れ比率を5割程度に引き上げるような、機動的に資産配分を変更できるバランス型投信」を選んでどうする。「現金を保有」するのは「得策ではない」と言ったのを忘れてしまったのか。

「現金の組み入れ比率を5割程度に引き上げるような」バランス型投信を保有するぐらいならば、現金そのものを持っていた方がマシだ。バランス型投信の現金部分には信託報酬がかかる。仮に2%とすると、金利マイナス2%の預金を抱えているようなものだ。積極的に保有資産を減らしたい人以外には薦められない。

さらに問題点の指摘を続けたい。次は以下のくだりだ。

【日経の記事】

では、これから資産づくりを始めるとしたら、今は時期が悪いのだろうか。龍谷大学の竹中正治教授は「定時定額の積み立て投資なら、スタートをためらう理由は何もない」と話す。

資産価格が最高値圏にあると仮定した場合、ここで一括投資をすれば単なる高値づかみ。しかし長期の積み立て投資なら、相場が今後下落しても安値で資産を仕込む好機になるからだ。


◎何が言いたいのか…

ここは何が言いたいのか解釈に迷った。まずは「最高値圏=未来も含めた最高値圏」との前提で考えてみよう。
鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市)
         ※写真と本文は無関係です

その場合「ここで一括投資をすれば単なる高値づかみ」とは言える。しかし、「長期の積み立て投資なら、相場が今後下落しても安値で資産を仕込む好機になる」とは思えない。今の相場が「未来も含めた最高値圏」にあるのに、これから「長期の積み立て投資」をしようとするのは、かなり奇特な人ではないか。

「安値で資産を仕込む好機になる」になったとしても、元の相場に戻るのが精一杯では投資対象として魅力がなさすぎる。投資に関して「スタートをためらう理由」にはなるはずだ。

では「最高値圏=現在まででの最高値圏」としたらどうか(記事の書き方から判断して可能性としては低い)。これだと「ここで一括投資をすれば単なる高値づかみ」とは言い切れない。さらに値上がりが続いて大きな利益を得る可能性も十分にある。

記事には他にもツッコミどころがあるのだが、この辺りで終わりにする。北沢所長の言うことが投資初心者にとってあまり参考にならないのは分かってもらえたと思う。

今回の記事は「いつかはやって来る相場の転機に備え、個人の資産運用も少しずつ守りを固めたい」時にはどうすべきかがテーマだった。これに関しては、リスク資産の比率を減らせばいいだけだ。例えば、リスク資産(株式など)7割、安全資産(国債など)3割で運用している人は、その比率を五分五分にするといった具合だ。

リスク資産に投資するために信託報酬の高いバランス型投信などに手を出す必要はない。と言うか手を出してはダメだ。今回の記事でバランス型投信を推薦していたのは「ピクテ投信投資顧問の萩野琢英社長」だった。そしてもちろん、ピクテではバランス型投信を手掛けている。


※今回取り上げた記事「相場転機に備え守り固める 為替ヘッジや分散重視」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170902&ng=DGKKZO20639970R00C17A9PPE000

※記事の評価はD(問題あり)。北沢千秋QUICK資産運用研究所長への評価はDを維持する。北沢所長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 北沢千秋編集委員への助言(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_30.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_11.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_38.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_62.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_15.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_1.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_81.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_17.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_18.html

生存者バイアス無視の日経「定説覆す?アクティブ投信」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_23.html

2017年9月1日金曜日

W杯最終予選の解説記事で日経 武智幸徳編集委員に注文

サッカーのワールドカップ(W杯)アジア最終予選で日本がオーストラリアに快勝した。これを受けた1日の日本経済新聞朝刊スポーツ2面に武智幸徳編集委員が「ハリルJ、新布陣が突破口開く 世代交代の加速急務」という解説記事を書いている。この内容にいくつか疑問が残った。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

まずは最初の方を見ていこう。

【日経の記事】

試合数が違い、単純な比較はできないが、今予選の1試合を残してのW杯出場決定は特別遅かったわけではない。

前回のブラジル大会(ザッケローニ監督)は最終予選8試合中7試合目のオーストラリア戦に引き分けて決まった。前々回の南アフリカ大会(岡田武史監督)は8試合中6試合目に、さらにその前のドイツ大会(ジーコ監督)は6試合中5試合目の決定だった。

それが今回、いつにも増して危機感が募ったのは、過去3大会の最終予選がドイツ大会はイランと日本、南ア大会、ブラジル大会はオーストラリアと日本の2チームで2つの椅子を争う構図が早々に見えたからだ。今回は日本とオーストラリアとサウジアラビアの三つどもえになり、最後までハラハラドキドキが続くことになった。



◎「最後までハラハラドキドキ」?

読者に誤解を与える可能性はほぼないが「最後までハラハラドキドキが続くことになった」との説明はおかしい。「今予選の1試合を残してのW杯出場決定」となったので、サウジアラビアとの最終戦を前に「ハラハラドキドキ」は終わっている。
豪雨で橋が流されたJR久大本線(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です

「今予選の1試合を残してのW杯出場決定は特別遅かったわけではない」と言えるかどうかも微妙だ。武智編集委員は過去3大会の最終予選と比較している。

・ロシア大会=10試合中9試合目

・ブラジル大会=8試合中7試合目

・南アフリカ大会=8試合中6試合目

・ドイツ大会=6試合中5試合目


「特別」をどう見るか次第ではあるが、今回は過去3大会と比べて「W杯出場決定が特別遅かった」と言えなくもない。

さらに問題を感じたのが記事の中盤だ。

【日経の記事】

それはW杯出場常連の韓国が苦戦しているA組も同様だった。本命の韓国、イランの間にウズベキスタンが割って入り、レースは混沌とした。

日韓豪の苦戦は海外組が多く、代表強化に準備期間がまともに取れないという点が共通するように思われる。サウジをはじめとする中東勢は国内リーグに主力選手がいて、代表をチームとして強化する“自国ファースト”の道を歩む。日本などは欧州の先進リーグに選手を送り、個を伸ばすことが最終的に代表にも還元されると考える。

今のところ、予選の戦いは後者の勢力が優勢だが、両者の差が詰まっているのは確かだろう。


◎中東勢は“自国ファースト”?

「サウジをはじめとする中東勢は国内リーグに主力選手がいて、代表をチームとして強化する“自国ファースト”の道を歩む」との解説は正確さに欠けるのではないか。例えばイラン代表には10人以上の海外組がいるらしい。記事の書き方だと最終予選に残った「中東勢」は例外なく「“自国ファースト”」だと取れる。
豪雨で被害を受けた福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

ちなみに「ウズベキスタン」も「“自国ファースト”」ではないようだ。だとすると「本命の韓国、イランの間にウズベキスタンが割って入り、レースは混沌とした」A組に関して、韓国の苦戦を「海外組が多く、代表強化に準備期間がまともに取れないという点」に求めても、あまり説得力がない。

ついでに言うと「予選の戦いは後者の勢力が優勢」という部分の「後者」が分かりにくい。「日韓豪」の後に「中東勢」が出てきて、さらに「日本など」と話が戻ってくる。最初に読んだ時は「後者=中東勢」と思ってしまったが、おそらく「後者=日韓豪」だ。

さて、記事の終盤も見ていこう。やはりツッコミは入れたくなる。

【日経の記事】

そういう大枠の構造問題に加え、日本は代表の新旧交代期が今予選ともろにぶつかった。長らくチームを支えてきた本田(パチューカ)ら北京五輪世代が下降期に入り、大迫(ケルン)、清武(C大阪)、原口(ヘルタ)らロンドン五輪世代、久保(ヘント)らリオデジャネイロ五輪世代がチームを上昇気流に乗せるまでの間、タイムラグが存在した。その間のもたつき、小さなミスが勝ち点を思うように伸ばせなかった一因だ。

最終予選初戦でアラブ首長国連邦(UAE)によもやの敗北を喫した日本の苦境を切り裂いたのは、第2戦のタイ戦からの原口の4戦連続ゴールであり、正念場のアウェーのUAE戦でたたき込んだ久保の先制ゴールだった。W杯出場を決めた試合でもリオ五輪組の浅野、井手口が躍動。国際試合の経験不足からくる波はまだあるが、来年の本大会に向けた世代交代はさらに加速させる必要がある。


◎世代交代を「さらに加速させる必要がある」?

「世代交代の加速急務」と見出しでも打ち出しているが、「来年の本大会に向けた世代交代はさらに加速させる必要がある」と最後に書いているだけで、その根拠は見当たらない。オーストラリア戦では川島、長友、吉田、長谷部といったベテラン勢が先発し、勝利に貢献している。

「世代交代はさらに加速させる必要がある」のだから、彼らを外して若い世代で本大会を戦うべきだと武智編集委員は考えているのだろう。それを否定するつもりはない。ただ、現状程度の「世代交代」ではなぜダメなのかは触れてほしかった。


※今回取り上げた記事「ハリルJ、新布陣が突破口開く 世代交代の加速急務」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170901&ng=DGKKASDH31H1H_R30C17A8UU2000

※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価もDを据え置く。