2017年6月13日火曜日

基本情報が欠けた日経「三菱地所、欧州で事業拡大」

13日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「三菱地所、欧州で事業拡大 ビル取得、独に進出 米国依存脱却めざす」という記事には基本情報が欠けている。話の柱は「欧州で事業拡大」のはずだが、現状でどの程度の事情規模なのかも、いつごろまでにどの程度の拡大を見込んでいるのかも触れていない。
夜明駅(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

三菱地所が欧州事業を拡大する。ドイツで初めての物件となるミュンヘンのオフィスビルを取得。2010年に子会社化した英不動産ファンド運営会社の情報網を活用しながら、今後も欧州全域で不動産の開発・賃貸物件の展開を視野に入れる。米子会社のロックフェラーグループに依存した海外事業の構造転換を目指す。

取得したのは「フェリンガーストラッセ」。地上5階、地下2階建てで、貸し付け有効面積は約2万2000平方メートル。ミュンヘン国際空港と中心部を結ぶ幹線道路に近く、空港まで車で20分と好立地だ。完成は03年で、IT(情報技術)や金融、メーカーなど幅広い企業が入居している。取得額は非公表。ミュンヘンは独シーメンスやBMW、半導体大手のインフィニオンテクノロジーズ、保険大手のアリアンツなどが本社を構えるドイツ有数の産業集積都市だ。三菱地所は今後もオフィス需要が底堅く推移するとみている。

◇   ◇   ◇

「フェリンガーストラッセ」の取得については13日に三菱地所が発表しているので、事前にニュースリリースを得ていたのだろう。それはそれでいい。だが、今回の記事の内容ならば「三菱地所はドイツに進出した」とでも書き始めるべきだ。

話を大きく見せるために「三菱地所が欧州事業を拡大する」と書いたのならば、それに合わせた内容にする必要がある。「欧州事業をいつまでにどのぐらい拡大するのか」は絶対に入れるべき基本情報だ。それを丸ごと抜いて読者に提供する気が知れない。記者の責任も重いが、企業報道部のデスクの責任はさらに重い。

基本情報を盛り込む行数は簡単に捻り出せる。「ミュンヘンは独シーメンスやBMW、半導体大手のインフィニオンテクノロジーズ、保険大手のアリアンツなどが本社を構えるドイツ有数の産業集積都市だ。三菱地所は今後もオフィス需要が底堅く推移するとみている」というくだりは、削っても何の問題もないはずだ。

「米子会社のロックフェラーグループに依存した海外事業の構造転換を目指す」と書いたのだから、海外事業でどの程度を「米子会社のロックフェラーグループに依存」しているかも触れたいところだ。

必須でない情報を盛り込んで必須の情報を省く--。記事の書き方の基礎を記者もデスクも身に付けていないと言うほかない。


※今回取り上げた記事「三菱地所、欧州で事業拡大 ビル取得、独に進出 米国依存脱却めざす」

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170613&ng=DGKKZO17593370S7A610C1TJ1000

※記事の評価はD(問題あり)。

衝撃を感じない 日経ビジネス特集「空飛ぶクルマの衝撃」

日経ビジネス6月12日号の特集「『空飛ぶクルマ』の衝撃~見えてきた次世代モビリティー」には何ら「衝撃」を感じなかった。特集の冒頭で「『空飛ぶクルマ』の登場すら現実味を帯びる」と謳うが、特集を最後まで読んでも「空飛ぶクルマ」はほとんど出てこない。中身としては「クルマの未来」といったタイトルが合っている。特集の担当者(池松由香、寺岡篤志、山崎良兵、蛯谷敏の各記者)も、そこは分かっているはずだ。
小倉井筒屋(北九州市)※写真と本文は無関係です

特集はPART1~4に分かれているが、まともに「空飛ぶクルマ」を論じているのはPART1「グーグル創業者、エアバス、トヨタも~始まった『空中戦』ヒト、モノ、カネが殺到」ぐらいだ。PART2の「規格外のEVベンチャー、日本を猛追する部品メーカー~産業ピラミッドが崩壊、震源地は中国」では、早くも「空飛ぶクルマ」から離れてしまう。

PART3とPART4は「空飛ぶクルマ」に触れた部分が少しあるが、「空飛ぶクルマ」の話は実質的にPART1で終わっている。しかもPART1の最後の方には「水陸両用車」の事例まで出てくる。これでは辛い。

では、PART1の途中まではどうだったのか。実は結局、「空飛ぶクルマ」は一例しか出てこない。まず「空飛ぶクルマ=自動車として使える上に空も飛べる乗り物」と定義しよう。そんなに無理のある定義ではないはずだ。

記事にはまず「米ボストン郊外に本社を置くベンチャー企業のトップ・フライト・テクノロジーズ」が出てくる。

【日経ビジネスの記事】

同社は今年4月、空飛ぶクルマを想定した小型の試作機「エアボーグH810K」の飛行実験を成功させた。機体の大きさは、全長195cm、全幅160cm、全高150cm。現時点で既に15kgの物資を1時間運べる能力を持つが、ファン氏は「4~5年後には最大8人を乗せ、3時間飛ばせるようにする」と自信を見せる。

◇   ◇   ◇

記事に付いた写真を見る限り、これは「空飛ぶクルマ」の「試作機」ではない。見た目はドローンで、自動車として使えそうな感じはない。「4~5年後には最大8人を乗せ、3時間飛ばせるように」なったとしても、「空飛ぶクルマ」とは別物だ。

次は「米グーグル創業者のラリー・ペイジ氏」が出資する「キティホーク」だ。これに関しては記事でも「空飛ぶクルマというより『水面から少し浮く水中バイク』といった様相」と書いており、問題外だ。

3番目の事例は最もまともだ。

【日経ビジネスの記事】

スロバキアのベンチャー、エアロモービルは4月、20年にも市販する予定の2人乗り空飛ぶクルマの先行予約を始めた。小型飛行機のような見た目で、地上走行時は翼を折り畳む。

全長5.9m、全幅2.2m、全高1.5m。自動運転ではなく乗員が操縦するタイプで、飛び立つ際は滑走が要る。価格は120万~150万ユーロ(約1億4000万~約1億7500万円)を予定している。

◇   ◇   ◇

これは「地上走行」するのだから「空飛ぶクルマ」と言える。ただ「滑走が要る」のが難点だ。その場合、少なくとも着陸には空港を利用するのだろう。だとすると「プライベートジェット+自動車」とあまり差はない。「空飛ぶクルマ」と聞くと、駐車場からそのまま飛び立っていくようなイメージがあるが、そういうものではなさそうだ。だとすると「金持ちの道楽」以上の「衝撃」はない気がする。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

4番目は「ドイツの西部カールスルーエを拠点にするイーボロ」だ。この会社が開発しているのは「大型ドローン『ボロコプター2X』」。「ドローン」と言い切っている時点で「空飛ぶクルマ」ではない。

5番目は「ドイツで15年に創業した」という「リリウム・アビエーション」。これも「5人乗り電動小型飛行機」なので「空飛ぶクルマ」ではなさそう。6番目の「エアバスが開発中の空飛ぶタクシー」も、記事に付けた写真を見る限り小型飛行機に過ぎない。7番目の「米ウーバーテクノロジーズが4月下旬に発表した空飛ぶタクシー『電動VTOL(ヴィートール)』の開発計画」もやはり小型飛行機だ。

トヨタが支援する「若手有志が中心となり12年に立ち上げた空飛ぶ自動車開発プロジェクト」に至っては、「目標は20年の東京オリンピックの開会式で飛ばすこと」なのに「あと何回か奇跡が起きないと、オリンピックには間に合わない」らしい。写真を見る限りでは「クルマ」としての機能もなさそうだ。

結局、本物の「空飛ぶクルマ」は滑走が必要な「エアロモービル」のみ。駐車場から飛び立った「空飛ぶクルマ」が都会のビルの間を行き交うといった光景が現実になるのは、かなり先のことになりそうだ。この内容では「空飛ぶクルマの衝撃」など感じられない。


※特集全体の評価はC(平均的)。担当者への評価は以下の通りとする。

池松由香記者(暫定C→C)
寺岡篤志(暫定D→暫定C)
山崎良兵(暫定C)
蛯谷敏(D→C)

2017年6月11日日曜日

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解

元日本経済新聞編集委員でジャーナリストの大西康之氏は東芝の問題を正しく理解できていない--。文藝春秋7月号の「東芝 深層ドキュメント『倒産』までのシナリオ~技術と雇用を守る唯一の方法は法的整理だ」という記事を読んで改めてそう思った。大西氏は産業革新機構による東芝メモリへの出資に関して、大きな勘違いをしているようだ。問題のくだりを見た上で、具体的に指摘してみる。
ヒシャゴ浦・姉妹岩(大分市)
     ※写真と本文は無関係です

【文藝春秋の記事】

5月17日、国会の経済産業委員会で民進党議員の近藤洋介が世耕に噛み付いた。

「東芝は現在、決算について監査法人から同意意見をもらえない異様な状況にある。その会社に産業革新機構を通じて公的資金を投入するのは、大いに問題だ」

銀行の融資継続すら危ぶまれる会社に、何千億円もの血税を投入しようというのだから、野党が懸念するのも当然だろう。世耕はこう答弁した。

「東芝の会計に問題があることは承知しているが、産業革新機構が投資する東芝メモリは子会社として成長性がある。投資によってオープンイノベーションが進むと産業革新機構が判断し、その件が経産省に上がってきたら、私はその判断を認めるだろう」

詭弁だ。

東芝が東芝メモリを売却するのは、オープンイノベーションを促進するためではなく、原子力事業の失敗によって陥った債務超過を解消するため。すなわち「東芝救済」だ。しかも再建が成功する見込みは薄く、何千億円もの血税が泡と消えかねないギャンブルなのだ。

東芝の「原子力敗戦」は、官民癒着が招いた途上国型資本主義の破綻を意味する。今や「疑惑とリスクのデパート」になった東芝を公的資金で救済すれば、日本の前近代性を世界にさらけ出すことにもなる。しかも一時的に公的資金で救っても、潜在的に2つの危機が残る東芝はいずれ再び危機を迎え、血税が焦げ付くことになる。


◎根本的に分かってない?

世耕氏の答弁を大西氏は「詭弁だ」と斬って捨てる。「東芝が東芝メモリを売却するのは、オープンイノベーションを促進するためではなく、原子力事業の失敗によって陥った債務超過を解消するため」というのはその通りだろう。だが、「(東芝の)再建が成功する見込みは薄く、何千億円もの血税が泡と消えかねないギャンブルなのだ」との解説は奇妙だ。

「産業革新機構が投資する東芝メモリは子会社として成長性がある」と世耕氏は述べているのだから、「何千億円もの血税」は東芝メモリに投じられるはずだ。この「血税が焦げ付く」かどうかは、東芝メモリの経営がどうなるかにかかっている。東芝の「再建が成功する」かどうかとは基本的に関係ない。

なのに大西氏は「(東芝の)再建が成功する見込みは薄く、何千億円もの血税が泡と消えかねないギャンブルなのだ」「潜在的に2つの危機が残る東芝はいずれ再び危機を迎え、血税が焦げ付くことになる」と憂慮する。

産業革新機構が東芝本体に出資するのならば、大西氏の憂慮も分かる。だが、産業革新機構の出資対象はあくまで東芝メモリだ。東芝の再建が失敗する一方で、出資した東芝メモリが順調に成長した場合「血税が焦げ付くことになる」だろうか。むしろプラスのリターンが期待できる。大西氏は根本的に分かっていないのではないか。

それは記事の結論部分からも窺える。

【文藝春秋の記事】

中途採用を斡旋する人材会社の社長は「東芝関連の仕事が殺到して、大忙しだ」と顔を綻ばせる。倒産の危機を察知した東芝社員の大量流出が始まっているのだ。転職先に韓国、台湾、中国企業を選ぶ技術者も少なくない。経産省は東芝メモリへの公的資金投入で「技術者流出を防ぐ」と言うが、技術者の流出を止める手立てはない。

今、守るべきは東芝の優良事業と技術、そして従業員の雇用であり、「東芝」という会社ではない。それを実現する唯一の方法は、日本航空と同じ、会社更生法の申請である。経営陣は総退陣すべきだし、東芝の暴走を止められなかった銀行も債権カットの痛みを引き受けるべきだ。痛みを先送りするのは、やめたほうがいい。


◎法的整理で「雇用」を守る?

「今、守るべきは東芝の優良事業と技術、そして従業員の雇用であり、『東芝』という会社ではない。それを実現する唯一の方法は、日本航空と同じ、会社更生法の申請である」という主張も的外れだ。
グランドパレス小倉香春口(北九州市)
      ※写真と本文は無関係です

「従業員の雇用」を守る「唯一の方法は、日本航空と同じ、会社更生法の申請」だと言えるだろうか。わざわざ例に出している日航は、会社更生法の適用を申請した後に整理解雇を含む人員削減に踏み切っている。「法的整理を避ければ雇用が守れる」とは言わない。だが、法的整理で「従業員の雇用」が守れるとも考えにくい。法的整理になれば、思い切った人員削減をやりやすくなるのは確かだ。

では「東芝の優良事業と技術」はどうか。これが東芝メモリのことならば、売却してグループ外に出すと考えれば、東芝が法的整理になるかどうかとは基本的に関係ない。東芝メモリ以外にも「優良事業と技術」がある場合、これを他社に売却する手はある。東芝という会社は守れなくても「優良事業と技術」は残る。

「守る=外国企業に渡さない」という意味ならば、国内企業に売却すればいい。「会社更生法の申請」が「東芝の優良事業と技術」を守る「唯一の方法」とは思えない。

大西氏は「倒産の危機を察知した東芝社員の大量流出が始まっているのだ。転職先に韓国、台湾、中国企業を選ぶ技術者も少なくない」とも書いている。そういう状況で実際に会社更生法の適用を申請して「倒産」したらどうなるのか。「倒産の危機を察知した」だけで「大量流出が始まっている」のに、「倒産」が現実になったらこうした動きが収まるとでも考えているのか。

「技術者の流出を止める手立てはない」のは法的整理でも同じことだ。なのに「東芝の優良事業と技術」を法的整理で守れると訴えるのは、それこそ「詭弁」ではないか。


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

2017年6月10日土曜日

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ

常盤橋(北九州市)※写真と本文は無関係です
「元TBSテレビ報道局ワシントン支局長のジャーナリスト山口敬之氏(51)」に関する問題を、日経ビジネス6月12日号の「小田嶋隆の『Pie in the sky』~絵に描いた餅ベーション」というコラムで「いま、テレビ局にできること」との見出しを付けて取り上げている。小田嶋氏は優れた書き手だと思うし、記事の主張にも基本的に賛同できる。ただ、山口氏の問題を「テレビ各局がほぼ黙殺している」と述べているのは引っかかった。自分はこの件をテレビの報道で知ったからだ。

まず、コラムの中身を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

(週刊新潮の)記事の細部にわたる真偽はともかくとして、私が個人的に違和感を覚えているのは、週刊新潮の報道と、5月29日の被害女性による記者会見を、テレビ各局がほぼ黙殺していることだ。

◇   ◇   ◇

では、実際どうだったのか。この件を報じているニフティニュースの5月30日付の記事では、以下のように説明している。

【ニフティニュースの記事】

さらに、テレビのほうは、NHKは無論、民放キー局でも、山口氏の古巣であるTBSの『NEWS23』や『ひるおび!』、コメンテーターとして山口氏を重宝していたフジテレビの『とくダネ!』『直撃LIVEグッディ!』はスルー。フジと同様に山口氏を番組で起用していたテレビ朝日は、29日の『報道ステーション』は報道しなかったが、30日朝の『羽鳥慎一モーニングショー』と『ワイド!スクランブル』は伝え、番組でバラツキがあった。

 唯一、山口氏を起用してこなかった日本テレビは、29日夕の『news every.』にはじまり、夜の『NEWS ZERO』、30日朝の『ZIP!』『スッキリ!!』でも紹介。読売テレビ制作の『情報ライブ ミヤネ屋』までが取り上げた。

◇   ◇   ◇

この記事の説明が正しいのならば、山口氏の問題を「テレビ各局がほぼ黙殺している」とは言い難い。「テレビ各局で対応が分かれている」辺りが適当だと思える。「黙殺するテレビ局が多かった」ぐらいならば分かるが、「ほぼ黙殺」は不正確だ。例えば1社がごく小さく報道しただけならば「ほぼ黙殺」だろう。だが、複数のテレビ局が様々な番組で取り上げているのに「ほぼ黙殺」では、苦しい。

自分が見たのは「NEWS ZERO」だったような気がする。日本テレビには「山口氏を起用してこなかった」という事情があるのかもしれないが、少なくとも遠慮がちに報道しているとは感じられなかった。

「黙殺」ではなく「ほぼ黙殺」だから、小田嶋氏としては何とでも弁明できる。ただ、今回のコラムで小田嶋氏はテレビ局の在り方を問うている。そして「テレビ各局がほぼ黙殺している」という点は、小田嶋氏が主張を組み立てる出発点にもなっている。なのに「ほぼ黙殺」が事実として怪しければ、説得力は足元から崩れてしまう。

日本テレビがきちんとこの問題を報じているのであれば、その事実は小田嶋氏もコラムの中で尊重すべきだ。各社の対応に大きな差があるのに、十把一絡げに「テレビ各局がほぼ黙殺している」とまとめるのは雑すぎる。そこは反省してほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏への評価はA(非常に優れている)を維持するが、弱含みではある。

2017年6月9日金曜日

「保護主義の波」に無理あり 日経「市場の力学(下)」

8日の日本経済新聞朝刊1面に載った「市場の力学~ゆがむ秩序(下)保護主義の波、いつか来た道? 内向き志向 リスク増す」という記事は展開に無理があった。「保護主義の動きが強まっている→市場はその動きに戸惑っている」という筋書きを立てたのはいい。だが、それに合う材料が出なかったならば柔軟に修正すべきだ。なのに強引に押し通している。
佐賀関の黒ヶ浜(大分市)※写真と本文は無関係です

まず「保護主義の波」は押し寄せているだろうか。記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

米石油エクソンモービルの株価が現地時間の2日、1年3カ月ぶりに80ドルを割った。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱するとトランプ米大統領が前日に表明。資源開発規制の緩和で原油が値下がりするとの観測が広まった。

実は、この前から米エネルギー株は総じて弱含んでいた。5月下旬発表の予算教書に、国が備蓄する石油の半分を段階的に売る方針が盛り込まれたからだ。その規模は今後10年で166億ドル(約1兆8千億円)。資産運用会社エレメンツキャピタルの林田貴士社長は「メキシコ国境の壁の建設などに必要な資金作りが目的では」と推測する。

国際世論の反発や市場の懸念をよそに米国は「自国第一」の道を突き進む。だが歴史的にみて、内向き志向を強めるのは今に始まったことではない。世界恐慌翌年の1930年、関税を大幅に上げるスムート・ホーリー法を米議会は可決した。同法は報復関税を招き、世界を大戦に導いた。


◎「保護主義」と関係ある?

「『パリ協定』から離脱」すると表明し、「国が備蓄する石油の半分を段階的に売る方針」だとしても、保護主義と直接の関係はない。備蓄削減が「メキシコ国境の壁の建設などに必要な資金作りが目的」だと言うのはあくまで「推測」だし、不法移民対策の強化は「保護主義」とは言い難い。なのに「保護主義の荒波を食い止めるには今が踏ん張りどころだ」と訴えても、説得力は乏しい。
久留米工業高等専門学校(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

以下の記述にも無理を感じる。

【日経の記事】

4月中旬、米株式市場の値動きの大きさの予想を示す「恐怖指数」は1カ月先が上昇し、3カ月先を逆転した。「近い将来ほど見通しにくい」というひずんだ状況は、一寸先すら分からない市場の不安を映している。



◎「不安」なのに恐怖指数は低水準?

「『恐怖指数』は1カ月先が上昇し、3カ月先を逆転した」という動きから「一寸先すら分からない市場の不安」を感じ取っているが、これは非常に苦しい。まず、時期が「4月中旬」だ。6月の記事で、なぜ2カ月近く前の話を持ち出しているのか。

それに「恐怖指数」を使って「市場の不安」を見るならば、指数の水準にまず目を向けるべきだ。そして、恐怖指数は低位で推移している。日経電子版の5月11日付には「嵐の前の静けさか 株の恐怖指数、23年ぶり低水準が示す未来 」という記事が出ている。

素直に受け取れば、恐怖指数からは「市場の楽観」が読み取れるはずだ。なのに、今回の連載では恐怖指数の水準の低さをあえて無視して、強引に「市場の不安」を読み取っている。「恐怖指数」が「一寸先すら分からない市場の不安を映している」と言うのならば、なぜ指数の水準が低いのかは解説すべきだ。

 
※今回取り上げた記事「市場の力学~ゆがむ秩序(下)保護主義の波、いつか来た道? 内向き志向 リスク増す」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170608&ng=DGKKZO17441720Y7A600C1MM8000

※連載全体の評価はD(問題あり)。連載の担当者らの評価は以下の通り。

土居倫之記者(Dを維持)
松崎雄典(C→D)
森田淳嗣(暫定D→D)


※今回の連載については以下の投稿も参照してほしい。

日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」に感じた誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_6.html


問題多い日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_7.html


1930年は世界恐慌翌年? 日経「市場の力学(下)」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/1930.html

2017年6月8日木曜日

1930年は世界恐慌翌年? 日経「市場の力学(下)」の誤解

8日の日本経済新聞朝刊1面に載った「市場の力学~ゆがむ秩序(下)保護主義の波、いつか来た道? 内向き志向 リスク増す」という記事に「世界恐慌翌年の1930年」という記述があった。だが、「1930年」は「世界恐慌翌年」とは思えない。この連載は「土居倫之、松崎雄典、森田淳嗣が担当」したらしいが、3人は世界恐慌の時期を誤解しているのではないか。
関埼灯台(大分市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送ってみた。

【日経への問い合わせ】

「市場の力学~ゆがむ秩序(下)」という記事についてお尋ねします。記事には「世界恐慌翌年の1930年、関税を大幅に上げるスムート・ホーリー法を米議会は可決した」との記述がありますが、「1930年」は「世界恐慌翌年」に当たるでしょうか。

「世界恐慌翌年の1930年」という場合、「世界恐慌は1929年に終わった」と解釈できます。例えば、太平洋戦争(1941~45年)に関して、「太平洋戦争翌年の1942年」とは言わないはずです。では「世界恐慌(1929年に始まった大恐慌)」はその年のうちに終わったのでしょうか。

大恐慌については「1933年ごろまで続いた」(デジタル大辞泉)と思えます。恐慌の終わりを1936年頃とする場合もありますが、29年内に恐慌が終息したとは考えられません。「1930年」は「世界恐慌翌年」ではなく「世界恐慌の真っただ中」だったのではありませんか。「世界恐慌に陥った翌年の1930年」ならば分かりますが、そうは書いていません。

記事中の「世界恐慌翌年の1930年」との説明は誤りと判断してよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

書き方が上手くないだけとの可能性もなくはないが、連載の担当者らは「世界恐慌=1929年で完結する出来事」と認識していると考える方が自然だ。記事では問題のくだりの後で以下のように説明が続く。

「米シティグループの投資戦略部門を率いるロバート・バックランド氏は『大恐慌後の30年代は経済の不均衡が広がり、ポピュリズム(大衆迎合主義)が強まった。今も似た状況にある』と話す」

断定はできないが、「経済の不均衡が広がり、ポピュリズム(大衆迎合主義)が強まった」傾向は大恐慌の期間中にも見られただろう。大恐慌の期間を1933年(あるいは1936年)までと認識していたら、取材相手が「大恐慌後の30年代」と言ったとしても、そのまま記事にはしないと思える。だが、取材班に「世界恐慌=1929年で完結する出来事」という誤解があるとすると、コメントで「大恐慌後の30年代」という書き方をしたのも納得できる。

日経からの回答は期待できないので、実際にどうだったのかは謎のままだが…。

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「市場の力学~ゆがむ秩序(下)保護主義の波、いつか来た道? 内向き志向 リスク増す」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170608&ng=DGKKZO17441720Y7A600C1MM8000


※この連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」に感じた誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_6.html


問題多い日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_7.html


「保護主義の波」に無理あり 日経「市場の力学(下)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_9.html

2017年6月7日水曜日

問題多い日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」

6日の日本経済新聞朝刊1面に載った「市場の力学~ゆがむ秩序(上) 読めぬ世界 惑う投資家 マネー滞留 危うい株高」について、さらに問題点を指摘していく。まずは記事の冒頭部分。説明の辻褄が合っていない。
小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

保護主義色の強いトランプ米政権が世界をかき乱し、政治や経済の秩序が揺らいでいる。そのリスクを見て見ぬふりをするように株高が続く。経験したことのない力学が市場を覆っている。

先週末に日経平均株価は2万円を回復し、2000年以降の高値(2万0868円)が視野に入る。そんな上げ相場でも「株安対応ファンド」が保険会社や年金基金向けに売れ続けている。

英ヘッジファンドのキャプラ・インベストメント・マネジメントが運用し、「日経平均が5割下がっても損失を1割以下にとどめる」という商品だ。先に米国株向けで運用を始めたところ引き合いが強く、顧客の要望で日本株版もつくった。年内に1000億円の資金獲得を見込む。


◎「リスクを見て見ぬふり」?

「そのリスクを見て見ぬふりをするように株高が続く」と述べた上で、「そんな上げ相場でも『株安対応ファンド』が保険会社や年金基金向けに売れ続けている」と紹介している。これは奇妙だ。

「株安対応ファンド」で相場下落に備える動きが活発になっているのであれば、「そのリスクを見て見ぬふりをするように株高が続く」のではなく「そのリスクに備える動きとともに株高が続く」でも言うべきではないか。

この後の記述はさらに問題がある。

【日経の記事】

世界的株高でも投資家は大きな「謎」に不安を感じている。世界景気は回復しているのに賃金・物価が上がらず、米国では経済の体温とされる金利が上昇しない。この謎にこそ株高の理由が潜む。


◎「物価が上がらず」?

景気が回復すれば「賃金・物価」は上向きになりやすくなるが、連動しない場合も珍しくない。なので「謎」というほどでもない。ただ、ここでは受け入れて「謎」だとしよう。だが、本当に「世界景気は回復しているのに賃金・物価が上がらず」なのか。物価に関して検証してみる。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

ユーロ圏では昨年5月に前年同月比マイナス0.1%だった消費者物価指数が今年2月にはプラス2.0%となった。5月も1.4%だ。

米国でも今年2月の消費者物価指数が前年同月比2.7%の上昇となり「2012年3月以来で最も大幅な伸びとなった」(ブルームバーグ)。4月でも前年同月比2.2%の上昇となっており、「世界景気は回復しているのに物価が上がらず」とは感じられない。

取材班は間違った前提に基づいて記事を作っているのではないか。

さらに指摘を続けよう。

【日経の記事】

米主要企業が16年に自社株買いや配当で株主に返した金額は設備投資の1.5倍。低成長で新たな投資先が限られるうえ、「トランポノミクス」の柱のインフラ投資に実現のメドが立たない。


◎株主還元と設備投資を比べても…

「米主要企業が16年に自社株買いや配当で株主に返した金額は設備投資の1.5倍」だというデータを基に「米企業の設備投資は低調」との結論を導いているようだが、この比較にあまり意味を感じない。記事に付けたグラフによると、米企業の「1.5倍」に対し、日本企業は50%にも満たない。

だからと言って「日本企業の設備投資への意欲は米企業に比べて非常に旺盛だ」と判断してよいだろうか。「米企業は設備投資にも積極的だが、それ以上に株主還元への意欲が強い」という可能性もあるはずだ。

ここからは言葉の使い方に注文を付けたい。

【日経の記事】

政策の見通しにくさを示す「経済政策不確実性指数」は高止まりし、企業は稼いだお金を実体経済に投資できないでいる。


◎「高止まり」してる?

「高止まり」とは「高水準で横ばい」という意味だ。しかし、記事に付けた「経済政策不確実性指数」のグラフを見ると、大きな上下動を繰り返しながら、2017年に入ってからはかなり下げている。これで「高止まり」は苦しい。

言葉の使い方をさらに見ていこう。

【日経の記事】

緩やかな世界経済の成長が株高を支えているが、運用難や投資不足で底上げされた面がある。企業の長期の利益水準からみた米国株の割高さは、大恐慌が始まった1929年の「暗黒の木曜日」に迫ってきた。


◎「投資不足」と言うより…

「投資不足」と聞くと「本来あるべき投資額に届いていない状態」だと感じる。だが、文脈から判断すすと、上記のくだりで言う「投資不足」とは「投資対象の不足」という意味だろう。だとすると、かなり舌足らずな説明だ。



※今回取り上げた記事「市場の力学ゆがむ秩序(上) 読めぬ世界 惑う投資家 マネー滞留 危うい株高」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170606&ng=DGKKZO17341520W7A600C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載については以下の投稿も参照してほしい。

日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」に感じた誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_6.html


1930年は世界恐慌翌年? 日経「市場の力学(下)」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/1930.html


「保護主義の波」に無理あり 日経「市場の力学(下)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_9.html