2022年4月17日日曜日

兼原信克氏の判断力に疑問あり! 日経ビジネス「米国の核の傘は機能するか?」

元国家安全保障局次長で同志社大学特別客員教授の兼原信克氏はまともな判断ができない人なのか。日経ビジネス4月18日号に載った「米国の核の傘は機能するか?」という記事(兼原氏の発言で構成)を見た上で、兼原氏の判断力に疑問を感じた理由を述べたい。

錦帯橋

【日経ビジネスの記事】

ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻開始から間もない2月27日、核抑止部隊に高度な警戒態勢を取るよう指示した。核兵器の使用をほのめかし始めたわけだ。これを機に日本のメディアで、米国との核シェアリングに関する言及が一気に増えた。

欧州ではNATO(北大西洋条約機構)の領域内に米国の核弾頭を配備している。これを使用して、いつ、どこを攻撃するか、NATO加盟国が協議して決める。そのため情報と作戦、装備を共有する。

日本はこれまで恵まれた環境にあり、核抑止の問題を真剣に考える必要がなかった。第2次世界大戦の後、最大の脅威であるソ連の主力は欧州方面。日本は対ソ戦に備えてはいたが、極東で最初に戦闘が起きる可能性は大きくなかった。加えて、中国と米国および日本が1970年代に国交を正常化し、中国が事実上西側にくみした。日本を取り巻く国際情勢はいっそう楽なものになった。

72年に沖縄が本土復帰する際、米軍は沖縄から核を撤去した。当時の佐藤栄作政権が「核抜き本土並み」を要求したことが背景にある。そう要求できるほど、緊張のレベルが低くなっていた。

しかし、時代が変わった。中国が強くなり、台湾有事は絵空事ではなくなった。台湾有事となれば、高い確率で日本有事となる。米国には台湾関係法があり、米国は台湾の防衛に乗り出すだろう。そして米軍が行動を起こせば日米同盟が発動されることになる。

そのような事態になれば、中国が日本に核の脅しをかけてくる可能性がある。「米軍に基地を使わせるな」「自衛隊は介入するな」「言うことを聞かないと核を使うぞ」と。中国は、日本に届く短中距離ミサイルを1600発保有している。「低出力の核ならば、中国が使用しても、米国は報復しない」と思うかもしれない。

戦争が始まれば、日本が核で破壊されることはない、という100%の保証はない。東京は中国に近い。中国が核ミサイルを発射すれば、数分で東京に着弾する。米国の大統領が、中国による対日核攻撃の一報を米戦略軍司令官から受ける時には東京は消えている。東京が壊滅すれば、それは日本の死を意味する。そうなった日本は、米国にとって同盟国としての価値はない。従って防衛する価値もない

台湾有事に際して中国から核で恫喝(どうかつ)されたら、日本政府はどうするのか。核で攻撃されたら、いかにして国民に責任を取るのか。首相は「米国は必ず守ると言っていた」とでも言うのか。それでは無責任だ。日本人の命を守るのは日本政府の役割。米大統領の責任ではない。

以上の状況に鑑みて、日本も核シェアリングについて議論する必要がある。日本に核が配備されれば、抑止力は向上する。「米国の核を日本に配備すれば、敵の核攻撃の対象になる」という議論があるが、核抑止はそもそも相互に核を構え合うこと。通常兵力だけで頑張っている時に、核の恫喝を受けることの方がよほどリアルな脅威だ。こちらに通常兵器しかなければ、敵方は核の使用をためらう理由がない。(談)


◎「核シェアリング」に意味ある?

中国が核ミサイルを発射すれば、数分で東京に着弾する。米国の大統領が、中国による対日核攻撃の一報を米戦略軍司令官から受ける時には東京は消えている。東京が壊滅すれば、それは日本の死を意味する。そうなった日本は、米国にとって同盟国としての価値はない。従って防衛する価値もない」という見立てに異論はない。この前提で考えてみよう。

日本も核シェアリング」に踏み切り、例えば沖縄の米軍基地に配備されるとしよう。この状況で「中国が核ミサイルを発射」して「東京が壊滅」する。この時に「シェアリング」していた「核兵器」を使って中国に報復できるだろうか。

東京が壊滅」しているのだから「米国にとって同盟国としての価値はない。従って防衛する価値もない」という結論になる。なので生き残った日本政府関係者から「核兵器」の使用を求められても米国が拒否するはずだ。米国が日本を守らないという点では「核シェアリング」しない時と変わらない。

核抑止はそもそも相互に核を構え合うこと」であり「核シェアリング」でそれが実現するから中国の「対日核攻撃」を未然に防げるのだと兼原氏は反論するかもしれない。しかし、これは米国に「核兵器」使用の意思がない場合は成立しない。

東京が壊滅」すれば沖縄配備の「核兵器」による報復はないと中国が認識している場合、「核シェアリング」による「抑止」は期待できない。

東京が壊滅」するような事態になれば米国は確実に「核兵器」を中国に向けるとの前提であれば、当然に「核抑止」は成立する。ただ、この前提だと「核シェアリング」が要らなくなる。「核シェアリング」の有無に関係なく米国は中国に「核兵器」を使うからだ。

結局、問題は米国の意思だ。「対日核攻撃」には「核兵器」で対抗するという意思が強固からば「核シェアリング」に関係なく「核抑止」は機能する。

東京が壊滅」する事態になれば米国が日本を見捨てる前提では「核シェアリング」に何の価値もない。少し考えれば分かるはずだ。

兼原氏はそれが理解できないのか。あるいは「核シェアリング」を推進したいから無理のある主張をしているのか。いずれにしても問題ありだ。


※今回取り上げた記事「米国の核の傘は機能するか?」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00200/?P=3


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