2022年4月10日日曜日

色々と問題目立つ日経1面「チャートは語る~地方回帰 女性なお慎重」

10日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~地方回帰 女性なお慎重 男性は『東京転出超』 働きやすさで差」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

生月大橋

【日経の記事】

人口動態で男女の違いが鮮明になっている。全国から人を吸い寄せ続けてきた東京都は2021年、男性だけみれば25年ぶりに流出する人が多くなった。女性はなお流入が勝る。女性が大都市に集まりがちな傾向は、性別による暮らしやすさの差が地方社会に根強く残ることを映す。男女を問わず希望や能力に応じて多様なキャリアを実現できる環境を整えなければ地域経済の活性化はおぼつかない。

新型コロナウイルス禍でテレワークが広がり、東京の求心力は低下した。総務省によると、都内は転入者が転出者を上回る転入超過が21年に5433人と前年の6分の1近くに縮小した。性別にわけるとベクトルの違いが浮かぶ。男性は1344人の転出超過に転じ、女性は転入超過(6777人)のままだった。


◎「ベクトルの違い」ある?

記事に付けた「東京は女性の転入超過が続き、男性は転出超過に転じた」というタイトルのグラフを見ると「性別」による「ベクトルの違い」はない。男女ともに「東京の求心力は低下」している。

コロナ前との比較をグラフでは強調している。それによると2019年時点での「東京都の転入超過数」の男女差は1万2300人(女性の方が多い)。それが21年には8100人に縮小している。「東京の求心力」の「低下」は女性により強く出ているとも言える。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性の流入先は首都圏が目立つ。転入超過数が最も多かったのは神奈川県の1万7555人だった。埼玉県の1万4535人、千葉県の8473人が続く。転出超過は広島県の3580人、福島県の3572人など地方の県だ


◎地方の範囲は?

地方の県」と書いているが、今回の記事では「地方」の定義が分かりづらい。「大都市で女性が増えている」とのタイトルを付けたグラフを見ると札幌市が入っている。ならば北海道は「地方」に含めないのか。あるいは北海道の中で札幌だけが「非地方」なのか。

転出超過は広島県の3580人、福島県の3572人など地方の県だ」と言うが、県庁所在地の広島市は「大都市」に入る。その辺りをどう見ているのかは明確にしてほしい。

さらに見ていく。


【日経の記事】

全国で緊急事態宣言が解除された21年10月、関西出身の女性(23)は都内の企業で働き始めた。地元の大学で関東出身の同級生から伝え聞く東京の生活に憧れていた。「女性でもキャリアアップできる企業が多い」ことも上京の決め手になったという。一般に都市部は地方に比べ就労環境が整っている。総じて賃金水準が高く、求人も多い。


◎関西は非「都市部」?

記事に出てくる「関西出身の女性(23)」の話も苦しい。「一般に都市部は地方に比べ就労環境が整っている」としよう。だからと言って「関西出身の女性(23)」が「都内の企業」を選ぶ理由にはならない。「関西」には大阪、京都、神戸といった大都市もある。

関西」の大都市よりも首都圏の方が「就労環境が整っている」ということならば、そう書いてほしい。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

最新の20年の国勢調査をみると特に大都市で人口に占める女性の割合が10年前に比べ高まっている。上昇幅が大きいのは横浜市(0.71ポイント)、さいたま市(0.69ポイント)、川崎市(0.67ポイント)などだ。下落幅は愛知県知立市(0.65ポイント)、三重県いなべ市(0.92ポイント)など大都市圏周辺の地方の自治体で大きい。

もともと日本は都市への集住度が高い。国連によると人口に占める都市住民の比率は1950年は53%だったのが2020年には92%に上昇した。米国の83%、ドイツの78%などを上回り、主要先進国で唯一90%台にのる。50年には95%に高まる見通しだ。


◎愛知県は「地方」?

上記のくだりでは「愛知県知立市」を「地方の自治体」と見なしている。筆者らは「愛知県」を「地方」と見ている可能性が高い。なので「三大都市圏以外が地方」という区分ではないのだろう。だとすると「地方」と対比させるべきなのは、筆者らにとっては「首都圏」ではないのか。しかし、そうはなっていない。

札幌市、仙台市、福岡市などの「大都市」を「地方」ではないと見なすのは無理がある。筆者らは、その辺りをきちんと区分けできているのか。

さらに見ていく。


【日経の記事】

地方回帰の流れが強まったコロナ下で、女性がなお都市に集まり続けるのはなぜか。

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏は「今の若い女性はやりたい仕事が明確だが、希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題だ」と指摘する。実際、進学や就職を機に東京に移る例が多く、年代別では10代後半や20代前半の流入が際だつ。


◎男性限定の仕事とは?

希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題だ」との「ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏」のコメントが引っかかる。「男性に限定されて」いる仕事とは何だろう。

例えばホストは「男性に限定」されるが、代わりにホステスは女性限定だ。接客業という意味では男女とも就業の機会はある。「若い女性」にとって、「地方」では「男性に限定されて」いるのに「東京」だと女性でも就ける「やりたい仕事」がそんなにあるものなのか。

さらに見ていく。


【日経の記事】

地方の一部に残る古い性別役割意識も影響している。国土交通省のま20年の調査で、上京した女性の15%は出身地の人たちが「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛同すると回答した。この割合は全体の8%の倍近い。

地方の若い女性の流出は少子化を加速させる」(ニッセイ基礎研の天野氏)。なにかと便利な都市での暮らしに慣れるほど地方に戻ろうという気持ちは薄れる。


◎「少子化を加速」?

地方」には「古い性別役割意識」が残るとしよう。この前提で「地方の若い女性の流出は少子化を加速させる」としたら「古い性別役割意識」があった方が「少子化」を食い止められるとの結論になる。実際に都道府県別で最も出生率が低いのは東京都だ。

これは日経にとっては都合が悪いのではないか。7日の夕刊くらしナビ面に載った「日本と韓国 少子化の共通点は~結婚・出産ためらう性別役割」という記事で「(日韓では)性別役割分担意識の強さが女性に結婚・出産をためらわせる元凶になっている」と石塚由紀夫編集委員が解説していた。

石塚編集委員の見立てが正しければ「古い性別役割意識」が希薄な「東京」に女性を集めた方が「結婚・出産」に積極的になるはずだ。しかし現実はそうなっていない。

今回の記事の筆者である塩崎健太郎記者と松尾洋平記者(マクロ経済エディター)にも、その辺りの問題をぜひ考えてほしい。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~地方回帰 女性なお慎重 男性は『東京転出超』 働きやすさで差

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220410&ng=DGKKZO59866430Q2A410C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。塩崎健太郎記者と松尾洋平記者への評価は暫定でDとする。

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