2017年10月20日金曜日

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

20日の日本経済新聞朝刊1面に載った「Deep Insight アジア安定へ『海猿』の貢献」という記事は苦しい内容だった。筆者である秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)は書くことがなくて苦し紛れに話をまとめているように見えた。説明に矛盾も感じる。記事の中身を見ながら問題点を指摘したい。
桜滝(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

中国は8月、南シナ海の紛争を防ぐための「行動規範」について、東南アジア諸国連合(ASEAN)と大筋合意を交わした。しかし、習氏が演説で号令をかけた以上、人工島を武装する動きが止まることはないだろう

米国防総省によると、中国は3つの人工島に、戦闘機24機を収められる格納庫をつくっているという。ミサイル倉庫も10カ所以上で確認された。

こうした施設が完成し、中国が戦闘機や軍艦船を配備すれば、南シナ海の秩序は大きく変わる。「中国軍がいつも全海域をパトロールし、他国を監視したり、動きを阻んだりできるようになってしまう」(日本の安全保障当局者)

そうなったときの影響は計り知れない。南シナ海は、世界でやり取りされる原油の約3分の1、日本に運ばれる原油の大半が通る。この海はいわば世界貿易にとっての大動脈なのだ。中国軍の影響下に入り、いざというとき、船の航行が妨げられる危険が生じれば、アジアの成長にも影を落とす



◎今は「影響下」にない?

南シナ海は中国本土とも接している。「人工島」にどんな施設を造るかとは関係なく、最初から「中国軍の影響下」にあるはずだ。秋田氏は「現状では南シナ海で中国軍の影響はゼロ」と見ているのだろうか。「いざというとき、船の航行が妨げられる危険」も「人工島」の施設と関係なく昔からある。例えば米国が中国に戦争を仕掛け、日本も米国とともに戦う場合、「中国の人工島に施設を造らせなかったおかげで、中国軍に邪魔されず自由に南シナ海を航行できる」という事態になるだろうか。

その点をひとまず忘れて「3つの人工島」に「戦闘機24機を収められる格納庫」や「ミサイル倉庫」を完成させると「中国軍がいつも全海域をパトロールし、他国を監視したり、動きを阻んだりできるようになってしまう」としよう。そうした事態を防ぐために秋田氏が有効だと訴えるのが見出しにもなっている「海猿」の支援だ。記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

中国に自制を求めていくことが必要なのは言うまでもない。そのうえで大切なのは、南シナ海に面した東南アジア諸国への支援をふやし、彼らが海上警備力を強めるのを助けることだ

東南アジアの国々が日本の海上保安庁にあたる海上警備機関を立ち上げ、本格的に活動するようになったのは2000年以降だ。中国に比べると、装備はかなり貧弱で、人材も十分ではない。この状況が少しずつ改善し、各国がきちんと近海を警備できるようになれば、南シナ海の中国化を防ぐ一助になるはずだ



◎辻褄が合わないような…

人工島の施設が完成すると「中国軍がいつも全海域をパトロールし、他国を監視したり、動きを阻んだりできるようになってしまう」のならば、「南シナ海の中国化を防ぐ」ためには施設の建設阻止しかないと思える。
原鶴温泉(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です

秋田氏自身がそういう書き方をしたのに、なぜか「各国がきちんと近海を警備できるようになれば、南シナ海の中国化を防ぐ一助になる」という主張になってしまう。ならば人工島に施設が完成すると「中国軍がいつも全海域をパトロールし、他国を監視したり、動きを阻んだりできるようになってしまう」と決め付ける必要はない。「各国がきちんと近海を警備できるように」対応すれば中国軍の動きを抑えられるはずだ。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

実は、日本はこの分野の支援で、多くの実績を積んでいる。07年以降、政府開発援助(ODA)を使い、ベトナムやフィリピンなどに巡視船を供与してきた。日本から贈られた巡視船が、全体で大きな比率を占める国々もある。

日本が優れているのは、きめ細かい指導だ。船を引き渡した後、海上保安庁の隊員が一定期間、その国に張り付き、領海に侵入してきた外国船への対処法や、国際法上の手続きなどを手ほどきする。要望があれば、いつでも指導に当たれるようにするため、10月から7人の専従支援チームを発足させたという。

支援は少しずつ成果を見せ始めている。フィリピンが中国と領有権を争う南シナ海の要衝、スカボロー礁(中国名・黄岩島)。これまでパトロールもままならなかったフィリピンが最近、巡視船で警戒に当たるようになった。外交筋によると、使われているのは日本が供与した船だという。



◎これが「成果」?

日本の「支援」によって「スカボロー礁(中国名・黄岩島)」では「これまでパトロールもままならなかったフィリピンが最近、巡視船で警戒に当たるようになった」という。これを秋田氏は「成果」と呼ぶが、そうだろうか。
紅葉(大分市)※写真と本文は無関係です

日経の別の記事によると「スカボロー礁」は「中国が2012年から実効支配」しているという。だとすると、既に「中国化」している。「巡視船で警戒に当たるようになった」ことが「中国化」を防いでくれるのか。「警戒に当たる」だけで実効支配が崩れるとは思えない。

もちろん、その辺りのことは秋田氏も分かっているのだろう。記事の終盤では以下のように綴っている。

【日経の記事】

軍事力をもつ自衛隊とは異なり、海上保安庁はあくまでも海の警察組織だ。自衛隊が前面に出るのに比べ、中国の反発を抑えつつ、支援を広げやすい利点もある。

もっとも、中国は巡視船数を約130隻にふやしており、南シナ海にも頻繁に送っている。日本だけがいくら援助を広げても、状況を大きく改めるのは難しい

米国は主に中南米で日本と同じような支援をしているほか、オーストラリアも一定の実績がある。日本はこうした国々とも組み、多国間で東南アジアの海上警備力を底上げしていくときだ。地道なようで、それがアジアの安定への有効な貢献になる


◎結局、あまり意味ないような…

海猿」を持ち上げておいて、最後には「状況を大きく改めるのは難しい」となってしまう。これでは辛いと思ったのか「多国間で東南アジアの海上警備力を底上げ」すれば「アジアの安定への有効な貢献になる」と解説してしまう。

貢献」にはなるかもしれないが、対中国で「状況を大きく改める」とは期待しにくい。「中国は巡視船数を約130隻にふやしており、南シナ海にも頻繁に送っている」と秋田氏は書くが、南シナ海情勢は「巡視船数」で決まるわけではないだろう。

東南アジアの「巡視船数」の合計が200隻となれば「状況を大きく改める」ことができるのか。中国は人工島での施設建設を断念してくれるのか。そんな簡単な話ではないはずだ。

あれこれ書いてはいるものの、秋田氏の記事には結局あまり意味がない。ネタに困って「海猿」のアジア支援の話で記事を作れないかと考えて、苦労して捻り出したのが今回の記事だと個人的には推測している。


※今回取り上げた記事「Deep Insight アジア安定へ『海猿』の貢献
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171020&ng=DGKKZO22461490Z11C17A0TCR000

※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価もDを据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

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