2017年10月31日火曜日

山一破綻「本当に悪かったのは誰」の答えは?日経 小平龍四郎編集委員

31日の日本経済新聞朝刊 投資情報2面に小平龍四郎編集委員が「一目均衡~山一破綻、20年の教訓」という記事を書いている。山一破綻から20年で何か書きたい気持ちは分かるが、説得力はなかった。記事を順に見ながら注文を付けていきたい。
キリンビール福岡工場(朝倉市)のコスモス
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】  

11月がやってくる。ある程度以上の世代の証券市場関係者には、古傷がうずくような感覚にとらわれる季節ではないか。1997年11月24日、山一証券が営業休止を届け出た。

野村、大和、日興と並ぶ四大証券の一角が突然、自主廃業を宣言したことの衝撃は、「社員は悪くありません」の号泣記者会見の情景とともに、歴史に深く刻まれる。

本当に悪かったのは、だれなのか

日本取引所グループの前最高経営責任者である斉藤惇氏が「私の履歴書」のなかで、山一自主廃業にふれている。世間一般には予期せぬできごとだった破綻劇を、斉藤氏は「とうとう、この時が来てしまった」と受け止めた。

山一破綻の原因は、顧客企業の財テクで生じた損失を簿外ファンドなどに移す隠蔽工作が、行きづまったことにある。それは兜町で「飛ばし」と呼ばれ、山一が深くかかわっていると半ば公然と語られていた。山一破綻を知らされ「とうとう、この時が……」と覚悟を決めた人は、1人や2人ではなかった。

山一が簿外で抱えた債務は、自主廃業の記者会見で約2600億円とされた。経営陣が早く表に出して手を打っておけば、必ずしも処理しきれない金額ではなかった。特に96年末に系列ノンバンクの支援を優先し、簿外損失の対応を先送りした経営判断は、山一再建の最後の芽を摘んだ。


◎問題提起したならば…

本当に悪かったのは、だれなのか」と問題提起しておきながら、記事を最後まで読んでも答えらしきものは出ていない。「本当に悪かった」と言える人物の候補さえ出てこない。「経営陣」に責任があるのは当然だが、「顧客企業の財テクで生じた損失を簿外ファンドなどに移す隠蔽工作」に関わった「経営陣」は何人もいるはずだ。その中で「本当に悪かったのは、だれなのか」。あるいは社外に「本当に悪かった」人物がいたのか。改めて小平編集委員に問うておきたい。

ついでに言うと「日本取引所グループの前最高経営責任者である斉藤惇氏」の話は完全に無駄だ。この段落を記事から丸ごと抜いても何の問題もない。「山一破綻を知らされ『とうとう、この時が……』と覚悟を決めた人は、1人や2人ではなかった」のならば、なおさら「斉藤惇氏」を取り上げる意味は乏しい。

また、どうしても「斉藤惇氏」の話を入れたいならば、同氏が当時どういう立場にあったのか記事中で説明すべきだ。

記事には他にも疑問を感じた。続きを見ていこう。

【日経の記事】

ではなぜ、簿外に飛ばした損失の処理を先送りできたのか。

理由のひとつは、会計だ。当時の会計基準は単独主体で、金融商品の時価評価も不十分だった。今のように連結・時価主義の会計監査が徹底されていれば、「宇宙遊泳」と称された簿外取引にも情報開示の圧力がかかったはずだ


◎オリンパス事件をどう考える?

上記の解説を読むと、「連結・時価主義」の会計制度の下では「簿外に飛ばした損失の処理を先送り」するのは難しいと思える。山一が破綻した当時より難しくはなっているのだろう。だが、同様の問題は近年も起きている。例えばオリンパス事件を小平編集委員はどう見ているのか。
筑後川サイクリングロード(福岡県うきは市)
            ※写真と本文は無関係です

今年4月27日付の「オリンパス粉飾決算事件とは」という記事で、日経は「バブル期の運用失敗で抱えた約1千億円の含み損を隠すため、連結対象外の海外ファンドに移し替える『飛ばし』で損失を簿外処理し、企業買収を利用して捻出した資金で穴埋めするなどした」と事件を説明している。

オリンパスにも「情報開示の圧力がかかったはず」だが、問題が発覚したのは2011年になってからだ。今のような「連結・時価主義」の下でも「飛ばし」は起こり得ると訴える方が説得力はある。

社外取締役に関する解説も甘過ぎると思えた。

【日経の記事】

もうひとつの理由は、企業統治(コーポレートガバナンス)の弱さだ。90年代の山一の役員陣は、「飛ばし」の暗い秘密を共有する人物が取り立てられ、お友達クラブの様相を強めた。市場の声を代弁する社外取締役がそこにいたとしたら、どうか。少なくとも、ぎりぎりになってメインバンクに泣きつき、突き放されるという事態は避けられたのではないか。



◎社外取締役がいれば「お友達クラブ」にならない?

市場の声を代弁する社外取締役がそこにいた」ら、確かに違った展開になったかもしれない。だが、「社外取締役市場の声を代弁する」と言えるわけではない。事件発覚当時のオリンパスにも社外取締役がいたのに、有効には機能しなかった。記事の書き方からは「山一にも社外取締役がいれば…」というニュアンスを感じるが、社外取締役でも社内取締役でも「お友達クラブ」のメンバーにはなり得る。
「おとしよりが出ます注意」の看板(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

記事の終盤の解説にも気になる記述があった。

【日経の記事】

山一破綻を経験した日本では2000年から会計ビッグバンが加速し、現在はガバナンス改革が進む。今、山一のようなずさんな損失隠しが長続きするとは思えない。不正経理などの不祥事は後を絶たないが、それが日本企業全体の問題と見なされ、日本売りを招くといった事態も減った。会計・ガバナンス改革の成果と言えるだろう

惜しむらくは、改革の着手が遅かった。米国年金をはじめとする外国人投資家はバブル崩壊直後の90年代初めから、日本企業の経営や財務の不透明さを鋭く指摘していた。

現実を直視し改革は早く。山一破綻が20年を経て、日本の経済と市場に突きつける教訓だ。


◎「日本売り」が減ったのが「成果」?

オリンパスや東芝の問題は小平編集委員も当然知っているはずだ。だから「不正経理などの不祥事は後を絶たない」と書いているのだろう。ならば、「2000年から会計ビッグバンが加速し、現在はガバナンス改革が進む」ものの依然として問題が多いと評価する方が自然だ。しかし「日本売りを招くといった事態も減った。会計・ガバナンス改革の成果と言えるだろう」と前向きの評価を与えてしまう。かなり甘い。

最近では日産自動車や神戸製鋼所で不祥事が起きて日本の製造業への信頼も揺らいでいるが「日本売りを招くといった事態」にはなっていない。だからと言って問題を軽視すべきではない。「不正経理などの不祥事」も同じだ。「日本売りを招くといった事態」になっていなくても厳しく見ていくべきだ。

日本売りを招くといった事態も減った。会計・ガバナンス改革の成果と言えるだろう」と甘い評価をしていて「現実を直視し改革は早く」となるだろうか。小平編集委員にはその辺りをじっくり考えてほしかった。


※今回取り上げた記事「一目均衡~山一破綻、20年の教訓
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171031&ng=DGKKZO22883380Q7A031C1DTC000


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。小平編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 小平龍四郎編集委員  「一目均衡」に見える苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_15.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_73.html

日経 小平龍四郎編集委員の奇妙な「英CEO報酬」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_19.html

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html

やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html

ネタが枯れた?日経 小平龍四郎編集委員「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html

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