2015年4月26日日曜日

日経 瀬能繁編集委員のほとんど何も分析しない記事(1)

「わざわざ朝刊1面で100行以上も使ってこの記事を載せる必要があるのか」と思わせる出来だったのが、24日付日経の「株高 持続の条件(下)」だ。まず、気になった表現を指摘しておく。


【日経の記事】

安倍政権の誕生から2年あまり。異次元の金融緩和で物価上昇率への期待を高め、財政出動で景気を下支えした。成長戦略で岩盤規制の一部に風穴も開けた。そして賃上げでデフレ脱却へ最後の一押しを政権は狙う。


ブルージュ(ベルギー)の中心部  ※写真と本文は無関係です
「物価上昇率への期待」とはあまり言わない。「率」を抜いて「物価上昇への期待」とする方が自然だ。さらに言えば、ここで「期待」を用いるのは、できれば避けたい。「物価上昇に対する期待」とは、経済学的には単に「物価上昇に対する予想」という意味になる。しかし、一般的には「物価上昇への期待」と言われると、「物価上昇は良いこと」との前提を感じてしまうので、読者に誤解を与えかねない。幅広い層を対象にする記事なのだから、上記の場合「異次元の金融緩和で予想インフレ率を高め~」といった表現の方が好ましい。


細かい話から入ったが、この記事の最大の問題点は「ほとんど何も分析していない」点にある。冒頭では政府による賃上げ要請に触れた後で、「企業が賃上げで家計に資金を還元すれば消費拡大→収益拡大→賃上げ→さらなる消費と収益拡大、という好循環が実現しやすくなる」と当たり前のことを書いている。それを是とするとしても、流れはここで途切れて、次の段落では「バブル崩壊からほぼ四半世紀がたった。この間に国全体の正味資産である『国富』は400兆円あまり消失した」と、あまり関連のない話題へ移ってしまう。その後も「ほとんど何も分析しない」展開は変わらない。実際の記事を見てみる。


【日経の記事】

消費増税の下押しを乗り越え日経平均株価が2万円に乗せた今、改めて問われるのは「失われた四半世紀」から日本経済が決別できるかどうか。デフレ脱却と、国富を再び大きくしていく挑戦の主役はやはり企業だ。


 焦点の一つは省力化、合理化などを目的とした設備投資だ。「企業がもうちょっと前向きになれるかがポイント」とみずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは心理の変化に期待する。


「主役が企業」で「焦点の1つは設備投資」なのは良しとしよう。しかし、なぜ「省力化、合理化などを目的とした設備投資」に限定しているのかは教えてくれない。「企業がもうちょっと前向きになれるかがポイント」というコメントを使うのであれば、「なぜ企業が前向きになれないのか」「それを打破するにはどうすればいいのか」ぐらいは論じてほしい。もう1つの焦点である「グローバル化への対応」も、実質的にはほぼ何も論じていない。記事では以下のように記述している。


【日経の記事】
ノートルダム大聖堂(アントワープ)
          ※写真と本文は無関係です

もうひとつは、グローバル化への対応だ。15年前の日本の国内総生産(GDP)が世界全体に占める割合は14%だったが、足元で6%程度にとどまる。外需を取り込むことなく、日本企業は収益力を高められない。

 製造業の生産拠点の国内回帰が相次ぐとはいえ、海外生産比率の基調は上昇を続ける見通しだ。「国内事業を維持しつつ海外事業を拡大させ、そのすみ分けを図ることで高い収益性を獲得している」。日銀は日本のグローバル企業の新しい姿をこう分析する。

「内需か外需か」の二分法ではなく「内需も外需も」追う必要がある。株価を過度な金融緩和や予算のばらまきで押し上げるのではなく、自然に押し上がっていくために政府がやるべきことはたくさん残っている。


普通に解釈すれば、「外需を取り込むことなく、日本企業は収益力を高められない」と訴える根拠は「15年前の日本の国内総生産(GDP)が世界全体に占める割合は14%だったが、足元で6%程度にとどまる」ことだろう。しかし、このつながりがよく分からない。「過去15年にわたって日本企業は外需を取り込まなかった。だから、GDPシェアが低下した」と言いたいのだろうか。しかし、日本企業全体で見れば、外需も内需も懸命に取り込もうとするのは15年前も今も変わらないだろう。そもそも外需を取り込んだとしても、それが輸出ではなく海外生産であれば、日本のGDPには寄与しないはずだ。しかし記事からは、海外事業を拡大すると日本のGDPシェアも高まっていくような印象を受ける。


内需も外需も追う必要がある」という当たり前の主張をわざわざしている意義が記事を読んでも理解できない。「日本企業は外需を無視しすぎだ」との問題意識があるならば、そういう現状を少しは描いてほしい。しかし、記事中で「海外生産比率の基調は上昇を続ける見通しだ」と書いているのだから、日本企業は外需を追ってきたし、今後も追い続けると考えるべきだろう。結局、まともな分析はほとんどしていないと言うほかない。


※記事、記者の評価はともにD。筆者の瀬能繁編集委員は過去にも問題のある記事を書いていた。次回はその内容を紹介しよう。


(つづく)

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