2020年9月8日火曜日

日経ビジネス佐伯真也・奥貴史記者の「キオクシア」ヨイショ記事は「スクープ」のお礼?

 「待っていれば発表になるネタは原則として発表を待て」と訴えてきた。発表前に報道しようとするとメディアとしての自由度が低下してしまうからだ。「ネタをくれた相手でも遠慮なく批判できる」という記者もいるかもしれないが、極めて稀だろう。日経ビジネス9月7日号に載った「時事深層~故・成毛氏が守った独立の道、キオクシアHDが上場へ」という記事を読んで、発表前に報じることの弊害を改めて感じた。

大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。


【日経ビジネスの記事】

半導体メモリー大手のキオクシアホールディングスが10月に上場する。上場時の時価総額は2兆円を超える見通しで、今年最大のIPO(新規株式公開)となる。東芝から独立して2年4カ月でかなう悲願。その立役者が初代社長を務めた故・成毛康雄氏だ。

日経ビジネス電子版が8月25日にスクープした通り、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)が10月6日に上場する。東京証券取引所が8月27日、キオクシアの上場を承認した。上場時の時価総額が2兆1300億円になるとみられる大型案件だ。

「成毛さんにいい報告ができる」。キオクシア関係者からは、東芝メモリの初代社長を務めた故・成毛康雄氏をしのぶ声が聞こえてくる。今年7月に病気のため死去した成毛氏は、東芝のメモリー事業を守り、独立への道筋をつけた立役者だった

1984年の東芝入社後、半導体畑を歩んだ成毛氏は、東芝の不正会計問題が発覚した2015年に半導体事業担当の副社長に就任した。16年末に米原子力大手ウエスチングハウスの巨額損失が明らかになった東芝は債務超過の解消策としてメモリー事業の売却を決断。「社会インフラなどとスピード感が全く違うメモリー事業は独立すべき」。かねてそう考えていた成毛氏は、ベストな独立の形を選ぶために奔走した

時には強硬手段にも打って出た。四日市工場でフラッシュメモリーを共同生産するパートナーであり、メモリー事業の買い手として名乗りを上げた米ウエスタンデジタル(WD)には特に厳しく対応した。17年6月にはWDによる東芝メモリの情報へのアクセスの遮断を決めたほどだ

東芝は00年から米サンディスクと四日市工場に共同投資してきた。そのサンディスクを16年に買収したのがWDだ。買収を機に合弁契約を見直す予定だったが、東芝の経営危機のさなかで中ぶらりんになっていた。

17年に東芝がメモリー事業の売り出しに動いたことで東芝とWDの関係がこじれ始める。WDは売却手続きの即時停止と独占交渉権を主張した。「協業してきたのはサンディスクであって(買収した)WDではない」。当時、成毛氏が周囲にこう漏らしていたように、強引にメモリー事業を買収しようとするWDに対してじくじたる思いがあったようだ。後に成毛氏は「WDの提示額は市場の評価に対してかなり低く、選ぶ理由がなかった」と強硬手段に出た理由を日経ビジネスに語っている。

成毛氏が身をていして守ったメモリー事業は、18年に米投資ファンドのベインキャピタル率いる日米韓連合に約2兆円で売却することで決着。売却後は市場の好不況の波にさらされつつも「3年以内のIPOを目指す」との当初計画通りに上場を決めた。

フラッシュメモリー市場では世界首位の韓国サムスン電子が積極投資を続けて2位のキオクシアを引き離しにかかる。キオクシアは成毛氏の後を継いだ早坂伸夫社長の下、単独で世界の競合企業と渡り合えることを示していく必要がある。


◎「成毛氏」を手放しに称えるが…

記事は「キオクシアホールディングス」の「初代社長を務めた故・成毛康雄氏」を手放しに称える内容になっている。そして「日経ビジネス電子版が8月25日にスクープした通り、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)が10月6日に上場する」。嫌な臭いを感じずにはいられない。「成毛康雄氏」を含む「キオクシアホールディングス」関係者と日経ビジネスの記者が良好な関係を築き、その結果として「スクープ」が実現したのではないかと勘繰りたくなる。

記事の内容が「キオクシアホールディングス」に厳しいならば別だが、実際は露骨なヨイショだ。佐伯真也記者と奥貴史記者は「キオクシアホールディングス」関係者に取り込まれてしまったように見える。ヨイショ記事でも、その内容に説得力があればいい。しかし、これも怪しい。

今年7月に病気のため死去した成毛氏は、東芝のメモリー事業を守り、独立への道筋をつけた立役者だった」と両記者は言う。ここでの「独立」とは「東芝から」の「独立」だろう。

16年末に米原子力大手ウエスチングハウスの巨額損失が明らかになった東芝は債務超過の解消策としてメモリー事業の売却を決断」したのだから、「独立」は「成毛氏」がそうすべきと考えなくても実現していたはずだ。

成毛氏」がこの問題で動いたと取れるのは「WDによる東芝メモリの情報へのアクセスの遮断を決めた」件だけだ。「米投資ファンドのベインキャピタル率いる日米韓連合に約2兆円で売却することで決着」したことに「成毛氏」が直接的に貢献したと取れる記述はない。

成毛氏」が動かなければ「WD」に売却されていたのならば、まだ話は通る。しかし「WDの提示額は市場の評価に対してかなり低く、選ぶ理由がなかった」のならば「成毛氏」がいなくても「WD」には売却されなかったと見るのが自然だ。

結局、「成毛氏」がどういう決定的な役割を果たしたのかよく分からない。

売却後は市場の好不況の波にさらされつつも『3年以内のIPOを目指す』との当初計画通りに上場を決めた」とあくまで「成毛氏」に寄り添う姿勢を両記者は見せるが、「キオクシアホールディングス」の2020年3月期の営業損益は1731億円の赤字。なのに記事では、赤字にも「成毛氏」の責任にも触れていない。

他のメディアに先駆けて記事にするのは記者として快感ではある。だが、それと引き換えに失うものも大きい。佐伯記者と奥記者は「キオクシアへの遠慮なんて微塵もない。いくらでも厳しい記事を書ける」と胸を張って言えるだろうか。かなり難しそうな気はするが…。


※今回取り上げた記事「時事深層~故・成毛氏が守った独立の道、キオクシアHDが上場へ」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00735/?P=1


※記事の評価はD(問題あり)。佐伯真也記者への評価はDを据え置く。奥貴史記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。


※佐伯記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「見えてきたクルマの未来」で見えなかったこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_10.html

33%出資の三菱製紙は「連結対象外」? 日経ビジネスに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33.html

「33%出資は連結対象外」に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33_21.html

日経ビジネスに問う「知的障害者は家庭では必要とされない?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_17.html

「知的障害者は家庭では必要とされない?」に日経ビジネスが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_21.html

「みんなのタクシー」は本当に「順調」? 日経ビジネス佐伯真也記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_17.html

取材不足では? 日経ビジネス「上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_23.html


※奥記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「修会長」には「資本提携がゴール」と日経ビジネス奥貴史記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_7.html

並立助詞「や」の使い方が上手くない日経ビジネス奥貴史記者https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_20.html

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