2020年7月27日月曜日

東洋経済での「今の体制」批判が強引な法政大学教授の山口二郎氏

基本的にはヨイショ記事が嫌いで、批判精神に溢れた記事が好きだ。しかし批判的であれば何でもいい訳ではない。説得力は欲しい。その点では週刊東洋経済8月1日号に法政大学教授の山口二郎氏が書いた「フォーカス政治~コロナ医療体制『日本モデル』の限界」という記事は苦しい気がした。
冠水したTSUTAYA合川店周辺(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

まず気になったのが以下のくだりだ。

【東洋経済の記事】

最も驚くべきニュースは、東京女子医大病院で夏のボーナスがカットされたことで400人に上る看護師が退職を希望しているという話である。京都大学医学部附属病院は、手術室や検査室を陰圧化する工事費用をクラウドファンディングで集めると発表した。国民の一人として恥ずかしく、日本は先進国だとはいえない状況である



◎「先進国」だからこそとも言えるような…

京都大学医学部附属病院」の話から「日本は先進国だとはいえない状況」と読み取るのがよく分からない。国が出すべき資金を「クラウドファンディング」で集めさせるなんてということか。

個人的には「国民の一人として恥ずかしく」はない。むしろ良い傾向ではないか。山口氏が言うように「既存の体制で新型コロナウイルス感染者を引き受ければ、病院は付随する対策のために追加的支出を余儀なくされ、経営が厳しくなる一方、医師や看護師も一層疲弊する」のかもしれない。だからと言って、国が何でも面倒を見るのが「先進国」的だとは思えない。

国の補助金は使途が決まっているので、「クラウドファンディング」で資金を集めて問題に対応しようと国立大学系の病院が考えるなど一昔前ならあり得なかった。「京都大学医学部附属病院」の件は「日本は先進国だ」と言える根拠にもなり得るのではないか。しかし山口氏に言わせると「インパール作戦の現代版」にまでなってしまう。

その部分も見ておこう。

【東洋経済の記事】

一連の動きを見ていると、兵士は勇敢で優秀だが、指揮官は無能という大日本帝国の軍隊を連想させられる。指揮官は、兵站を無視し、精神主義だけで兵士を戦わせ、膨大な犠牲を出した。京大病院の話を聞くと、インパール作戦の現代版だと思う。医療だけではなく、学校、保育所、介護施設など対人サービスを行う現場では職員が超人的頑張りを続けてきたが、それも限界である。第一線の職員の滅私奉公で世の中を維持するという「日本モデル」はここで止めなければならない。



◎「インパール作戦の現代版」と言うなら…

京大病院の話」を「インパール作戦の現代版」とまで言うならば「膨大な犠牲を出した」例が欲しい。「手術室や検査室を陰圧化する工事費用をクラウドファンディングで集める」だけでは「兵士」に「膨大な犠牲」が出ている感じはしない。

記事の冒頭で「今の体制は、精神主義で膨大な犠牲を出した大日本帝国の軍隊を連想させる」と山口氏は言う。この手の対比は上手くいけば美しい仕上がりになる。しかし、強引さが目立つと記事の説得力を損なう結果になる。今回はやはり後者だと感じた。


※今回取り上げた記事「フォーカス政治~コロナ医療体制『日本モデル』の限界
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24189


※記事の評価はD(問題あり)

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