2020年7月25日土曜日

「積極的安楽死」への踏み込み不足が残念な日経 前村聡記者の解説記事

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の林優里さん(当時51)に薬を与えて死亡させたとして、医師2人が嘱託殺人容疑で逮捕された」事件に関し、日本経済新聞の前村聡記者(社会保障エディター)が24日の朝刊社会面に「回復難しい患者 ケアは十分か」という解説記事を書いている。ダメな記事とは言わないが、肝心なところに踏み込んでいない気はした。
冠水したTSUTAYA合川店周辺(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

最初の段落を見てみよう。

【日経の記事】

医師が薬を投与するなどして患者の死期を早める「積極的安楽死」は、日本では患者が希望しても嘱託殺人罪などに問われる。終末期ではなく回復の見込みのない患者が死を望むことがあるが、精神的・社会的援助が不足しているケースも多く、支援体制の整備が求められている。



◎そういう問題じゃ…

自分が「終末期ではなく回復の見込みのない患者」で「死を望む」場合、前村記者の記事を読んだら「そういう問題じゃないんだよ」と嘆きたくなるだろう。「支援体制の整備」をいくら進めても「死を望む」患者はいるはずだ。その場合にどう対処すべきかが問題なはずだ。

記事では、この問題に触れているくだりもある。

【日経の記事】

必ずしも終末期ではないが、回復の見込みのない患者が死を望むことはある。オランダや米国の一部の州などでは患者の安楽死を認めている。

日本医師会の「医師の職業倫理指針」(16年10月改訂)では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を例示し、終末期ではない患者の延命治療の中止について「容認する意見がある一方、かなり強い反対意見もあり、国民的な議論が必要とされる」と認めていない。

医療倫理に詳しい慶応大学の前田正一教授は「薬物を投与して患者を死亡させる積極的安楽死は、耐えがたい肉体的苦痛などがない限り、日本では法的にも倫理的にも許容されていない。まして診療せずSNSを通じて依頼を受けたとすればありえない」と指摘する。


◎で、前村記者はどう思う?

必ずしも終末期ではないが、回復の見込みのない患者が死を望む」場合にどうすべきか、前村記者の考えを打ち出してほしかった。

日本では法的にも倫理的にも許容されていない。まして診療せずSNSを通じて依頼を受けたとすればありえない」という「慶応大学の前田正一教授」のコメントで記事を締めていることから推測すると「オランダや米国の一部の州など」のようにするのは反対なのだろうが、曖昧に逃げている感は否めない。

積極的安楽死」について「法的にも倫理的にも許容されていない」と「前田正一教授」は言うが、「倫理的」に「許容」する人はそこそこいそうだ。「医師の職業倫理指針」にも「容認する意見がある」と記事でも書いている。自分も「容認」派だ。

同じ面のメインの記事によると「当初、林さんは自殺ほう助による安楽死が認められているスイスに渡ることを希望していたとみられるが、病状が進行」したために断念し「医師2人」に「嘱託殺人を依頼していた」らしい。

日本に「スイス」と同じ仕組みがあれば、「林さん」は普通に「安楽死」できただろう。「医師2人が嘱託殺人容疑で逮捕され」るような事態も起きなかった。それではダメなのか。嫌がる人を強引に「安楽死」させる訳ではない。苦しむ本人が強く望むのに「支援体制の整備」を進めて「それでも生きろ」と強いるのが「倫理的」に正しいのか。

そこを前村記者には正面から論じてほしかった。


※今回取り上げた記事「回復難しい患者 ケアは十分か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200724&ng=DGKKZO61889530T20C20A7CC1000


※記事の評価はC(平均的)。前村聡記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。

0 件のコメント:

コメントを投稿