2020年7月16日木曜日

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…

株式市場で市場平均を上回る高いリターンを得るのは容易ではない。しかし日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)には秘策があるようだ。16日の朝刊オピニオン2面に載った「Deep Insight~気象予測 投資の新常識に」という記事で、その方法を惜しげもなく教えてくれている。しかし有効な助言とは思えなかった。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

筆者が投資家なら、気象予測の力を磨くだろう。台風シーズンの前には進路と災害を予測し、そこに工場を持つ企業の備えを調べる。そして準備が万全な企業と、その工場の製品に依存する世界の企業を抽出しておく。

いざ台風が来たら、それらの企業の株もパニック売りにさらされる。実態を下回る株安になったら工場の無事を確認して買う。

逆もまた真なりだ。気象予測の専門家は、今のうちに証券アナリストの力を身につけたらどうか。気象は投資の必須科目に浮上した。気象感度がまだ弱い兜町では、独自の視点を持つ投資家として大暴れできるだろう


◎きちんと「進路と災害を予測」できる?

まず引っかかったのが「売り」から入らないことだ。「パニック売りにさらされる」と事前に予測できるのならば、空売りしておいて「パニック売りにさらされ」た後に買い戻せば大きな利益を期待できる。この場合、「準備が万全な企業と、その工場の製品に依存する世界の企業を抽出しておく」といった手間は省いてもいい。「パニック売り」が起きると分かっていれば、それだけで利益を上げられるからだ。

梶原氏の教えでより問題なのは「気象予測の力を磨く」ことで「台風シーズンの前」に「進路と災害を(かなり正確に)予測」できると見ている点だ。

台風シーズン」を7~10月だとしよう。梶原氏はその前に「予測」するので、予測対象となる期間はかなり長くなる。気象予測に関しては、わずかな初期値の違いで結果が大きく異なるバタフライ効果が働くことが知られており、「予測」する期間が長くなればなるほど、精度の高い「予測」は原理的にできなくなる。これは「気象予測の力を磨く」ことでは解決できないとされる。

梶原氏の「予測」の場合、「台風」がいつ来るのかは重要ではない。ただ「進路」と「威力」はきちんと「予測」する必要がある。バタフライ効果の壁を乗り越えて、そうした「気象予測の力」を獲得できるのか。そこが気になるが、記事では言及していない。

気象予測は短期であれば高い精度が期待できるので「気象予測の専門家」が「投資家として大暴れ」する余地はある。ただ、「逆もまた真なり」との説明から判断すると、「気象予測の専門家」も梶原氏と似たような手法を用いると想定しているのだろう。であれば成果は期待薄だ。

気象予測の力を磨く」ことで自分は他の投資家を出し抜けると梶原氏が考えているのならば、あまりに無邪気だと思えるが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~気象予測 投資の新常識に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200716&ng=DGKKZO61545750V10C20A7TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

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