2020年7月19日日曜日

問題多い日経 桃井裕理政治部次長の「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる」

19日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる」という記事は苦しい内容だった。筆者の桃井裕理政治部次長はネタに困って書いたのだとは思う。それにしても問題が多い。
道路が冠水した福岡県久留米市内
        ※写真と本文は無関係です

記事を順に見ていこう。

【日経の記事】

サイバーセキュリティー企業の米ファイア・アイによると、ベトナムのハッカー集団が1月から4月にかけ中国政府にサイバー攻撃を仕掛けた。標的は中国の応急管理省と武漢市当局。最初の攻撃は1月6日だ。

ベトナムは新型コロナウイルスへの早い対策が奏功し、感染者300人台、死者0人にとどまる。同国だけではない。コロナ禍で迅速に動いた国には常に脅威と隣接する小国が目立つ。


◎「サイバー攻撃を仕掛けた」のは政府?

中国政府」への「サイバー攻撃」は「ベトナム」政府による「新型コロナウイルスへの早い対策」の一環だと桃井次長は見ているのだろう。違うとは言わない。そうならそうと書いてくれないと、何のために「サイバー攻撃」の話を持ってきたのか分からない。「ベトナム」政府が公式には認めていないのならば「ベトナム政府の支援を受けたとみられるハッカー集団」といった説明でもいい。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

フィンランドは欧州にあって感染者を7000人台に抑え、医療崩壊も起こさなかった。同国はソ連の大軍に2度侵攻され、死闘の末に独立を保った。今も兵役が課され、多くの備蓄庫や核シェルターがある。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、戦後初めて備蓄庫の物資が放出され、医療機関に大量の防護服や医療用マスクが運び込まれた。

台湾はSARS(重症急性呼吸器症候群)の苦い経験に加え、情勢に敏感な同胞ネットワークを中国大陸に持つ。武漢便の検疫強化など当局が対策に踏み切ったのは昨年末に遡る。

感染症対策は有事の戦術や兵たんと通ずる。こうした国には備えがあった。そして、その備えや鋭敏さは「環境の必然」が生んだ。



◎台湾は「国」?

コロナ禍で迅速に動いた国には常に脅威と隣接する小国が目立つ」例として「フィンランド」や「台湾」を取り上げたのだろう。「台湾」の話の後にも「こうした国には備えがあった」と書いている。「こうした国」に「台湾」が入っているのは明らかだ。

台湾」は実質的には「」だが、日経はこれまで「台湾」に関して「地域」と表現してきたはずだ。そことの整合性が気になった。

記事はここからガラッと話が変わる。

【日経の記事】

コロナ対策で出遅れた日本にポストコロナへの備えはあるだろうか。新たな危機の一つに米中のデカップリングがある。中国からの企業買収の防衛などは当然のこと。難しさは「米国の脅威」への備えにある。

中国をサプライチェーンから切り離す動きは米大統領選の行方にかかわらず続くだろう。ローテク製品は許されても最先端分野が許されないのは間違いない。

問題はグレーゾーンにある。米中の間合いで「許されない範囲」はダークからライトグレーまで動き得る。しかも今は民生・軍事技術の境界が明確でない。情勢を読めずに地雷を踏めば「東芝機械ココム違反事件」のような事態も起きる。


◎「東芝機械ココム違反事件」の説明は?

コロナ対策で出遅れた日本にポストコロナへの備えはあるだろうか。新たな危機の一つに米中のデカップリングがある」と話が展開している。関連付けは一応しているが「ベトナム」「フィンランド」「台湾」といくつも事例を出して長々と「コロナ対策」の話をする必要性は感じられない。事例として使うにしても1つで十分だ。この辺りに行数稼ぎの臭いを感じる。

そもそも「米中のデカップリング」と「ポストコロナ」は関係が薄い。「コロナ」問題が収束しなくても「米中のデカップリング」は起こりうる。「新たな危機の一つに米中のデカップリングがある」との見方にも同意できない。米中対立という話ならば「コロナ」の前からある。

さらに言えば「情勢を読めずに地雷を踏めば『東芝機械ココム違反事件』のような事態も起きる」と注釈なしに「東芝機械ココム違反事件」に言及しているのは感心しない。「読者のほとんどはこの事件をよく知っている」との前提が桃井次長にはあるのだろう。しかし30年以上前の事件に関して、そう判断するのは無理がある。

東芝機械ココム違反事件」とは「東芝機械がココムに違反してソ連にNC工作機械を輸出した事件」(ブリタニカ国際大百科事典)だ。「ココムに違反」しなければ問題は起きなかった。「米中のデカップリング」に関して「問題はグレーゾーンにある」と捉えているのならば、明確な「違反」が問題視された「東芝機械ココム違反事件」とは話が違ってくるのではないか。

今回の記事には理解できない説明もあった。以下のくだりだ。

【日経の記事】

「自国や自社の技術が軍事技術に関わる恐れはあるか。日本政府も企業もこれまであまりに鈍感だった」。国家安全保障局次長を務めた同志社大の兼原信克特別客員教授は警告する。

日本には強い必然性がなかった事情もある。米国防総省の研究・開発・試験・評価の予算は約10兆円。巨大な市場に企業はおのずと自社技術の可能性に敏感になるランド研究所など技術を調査するシンクタンクにも優秀な人材が集まる


◎日本企業は「鈍感」?「敏感」?

日本政府も企業もこれまであまりに鈍感だった」というコメントから判断すると、日本企業は「鈍感だった」はずだ。しかし、その後に「巨大な市場に企業はおのずと自社技術の可能性に敏感になる」と出てくる。こちらを信じれば、日本企業は「敏感」なはずだ。

記事の流れとしては「鈍感」の方がしっくる来る。ただ「巨大な市場に企業はおのずと自社技術の可能性に敏感になる」との記述からは「敏感」と読み取るしかない。なので混乱してしまう。「敏感」になるのは米国企業限定と言いたいのか。しかし「巨大な市場」であれば日本企業も関わっている可能性が高いし、桃井次長も「米国企業」とは言っていない。

ランド研究所など技術を調査するシンクタンクにも優秀な人材が集まる」との説明もよく分からなかった。「ランド研究所」は米国の「シンクタンク」だ。そこに「優秀な人材が集まる」と「日本」としては「敏感」になる「強い必然性」がなくなるのか。

この因果関係が理解できなかった。桃井次長にしっかり話を聞けば「そういうことか」と納得できるのかもしれない。しかし、記事に盛り込んだ情報だけではよく分からない。

苦し紛れに書いた記事だとしても、この完成度では辛い。全体として「しっかり読者に説明しよう」という意識が低い気がする。


※今回取り上げた記事「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200719&ng=DGKKZO61639030X10C20A7EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。桃井裕理次長への評価はDで確定とする。桃井次長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「米ロ関係が最悪」? 日経 桃井裕理記者「風見鶏」に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_1.html

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