2020年7月18日土曜日

「スウェーデンは日常を変えない集団免疫戦略」? 日経 矢野寿彦編集委員に問う

矢野寿彦編集委員は日本経済新聞の編集委員の中では評価できる書き手だ。ただ、18日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~解なき時代の科学と政治」という記事には、スウェーデンに関して引っかかる記述があった。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

パンデミックに対しスウェーデンは日常を変えない「集団免疫」戦略をとった。高齢者を中心に当初、大勢の死者を出した政策は、世界から批判を浴びた。だが、自国民からの信頼は変わらず厚い。公衆衛生庁の責任者でコロナ対策を指揮する疫学者が連日のように記者会見し、最新のデータを使って丁寧に説明する。政治と科学がうまく結びつき、適切なリスクコミュニケーションが貫かれる。



◎「スウェーデンは日常を変えない『集団免疫』戦略」?

パンデミックに対しスウェーデンは日常を変えない『集団免疫』戦略をとった」と断言している。一方、医師・疫学研究者の上田ピーター氏は文藝春秋8月号の「スウェーデン『集団免疫作戦』のウソ」という記事で、矢野編集委員のような見方を否定している。

記事の一部を見てみよう。

【文藝春秋の記事】

まずスウェーデンの政策に関して、世界では『強制的なロックダウンを避けて独自路線を採った」「集団免疫の獲得を目指して、なるべく多くの人が感染することで事態を早期に収束させようとしたが、結局、失敗に終わった」と報じられています。しかし、こうした「集団免疫論」は、公式には一度も表明されていません。その対策は、実はそれほど“独自”なものではなかったのです。

対策の中身を具体的に見ていくと、まず法律で強制したのは、「高齢者施設の訪問と50人以上の集会の禁止」「飲食店において、客同士の距離をとるための制限」です。「少しでも症状のある人の隔離」は、法的拘束力のない「勧告」として定められ、それを促すために、「医師の診断なしで病気欠勤が許容される期間」が3週間に引き上げられました。

中略)法律や警察によってすべてを強制するのではなく、国が情報を提供し、具体的な対応は国民に委ねるという点は、徹底的なロックダウンを行った国とは異なります。しかし、政府の要請と国民の自発的な自粛で対応した日本とは、かなり近いのではないでしょうか。

中略)例えば、4月のストックホルム市内では、車の数が30%減少し、歩行者の数は70%減少しています。公共交通機関の利用は3月から4月にかけて、60%減少しています。つまり実質的には、ほぼ「ロックダウン状態」。

70歳以上の高齢者の9割以上は、自主的に外出を控え、ストックホルムの労働人口の45%は、フルタイムでの在宅勤務でした。労働人口の27%は、リモートワークがしにくい教育、医療、介護の仕事ですから、かなり高い割合だと言えます。

ストックホルムマラソン、サッカーリーグ、春祭りなどのイベントもすべて中止。通常なら4月中旬のイースター休暇には、国民の多くが国内旅行に出かけるのですが、前年比で90%減。ある調査では、「何も特別なことはせず普段通りに行動した」と答えたのは、わずか1%でした。

◇   ◇   ◇

上田氏の説明が間違っている可能性ももちろんある。ただ「スウェーデンの首都ストックホルムで、医師として」働いている上田氏が詳細に同国の状況を伝えているのだから、信頼度は高そうだ。

文藝春秋の記事が大筋で事実を正しく伝えているとすれば「パンデミックに対しスウェーデンは日常を変えない『集団免疫』戦略をとった」という矢野編集委員の解説は間違いとなる。「ストックホルムマラソン、サッカーリーグ、春祭りなどのイベントもすべて中止」となれば「日常」は自ずと変わってくる。「集団免疫論」も上田氏によれば「公式には一度も表明されて」いない。

自分の説明に問題がなかったのか矢野編集委員はしっかり検証してほしい。

ついでに1つ注文。今回の記事では平仮名表記が多過ぎる。

誰も正解をもたない」「透明性にもとづく科学」「政策責任の所在がみえなくなる」「薬の効果をめぐって正反対の結果がでることもある」「科学者の間で意見がわれる」などと書いているが「持たない」「基づく」「見えなくなる」「巡って」「出る」「割れる」と漢字表記しない意図が分からない。無駄に平仮名が多いと読みにくさを感じる。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~解なき時代の科学と政治
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200718&ng=DGKKZO61660010X10C20A7TCR000


※記事の評価はC(平均的)。矢野寿彦編集委員への評価もCとする。

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