2020年7月15日水曜日

「高止まり」の使い方が気になる日経「先進国の貯蓄率、高止まりの兆し」

高止まり」とは「金利や物価が、高い状態でとどまっていること。高値安定」(大辞林)という意味だ。水準が高くても、そこそこ動いていれば「高止まり」とは言えない。15日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「先進国の貯蓄率、高止まりの兆し~コロナ禍、米は5月20%台 日本、20年ぶり高水準も」という記事では、この「高止まり」の使い方が引っかかった。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

まず米国に関する説明を見ていこう。

【日経の記事】

米商務省によると、米国の5月の貯蓄率は23.2%だった。過去最高だった4月(32.2%)からは下がったものの、1959年の統計開始以降で2番目の高い水準だ。コロナ禍が深刻になる前の2月まで8%前後で安定していたのに比べても突出して高い。

5月は各州で外出規制の緩和など経済活動が徐々に再開され、自粛の反動から「リベンジ消費」も活発になった。個人消費支出(季節調整値)は4月の前月比12.6%減から一転、5月は8.2%増と過去最大の伸び率を記録した。ただ政府の失業保険給付金などが個人所得を下支えするなか、消費の持ち直しはまだ途上で、貯蓄率も高止まりしている



◎「貯蓄率も高止まりしている」?

貯蓄率も高止まりしている」と言い切っているが、「過去最高だった4月(32.2%)」から「5月の貯蓄率は23.2%」と急落している。「」ではあるが「止まり」には当たらない。

では欧州はどうか。


【日経の記事】

欧州でも貯蓄率は急上昇している。SMBC日興証券によると、ドイツは1~3月期に12%強と約17年ぶりの高水準になった。所得が減った以上に消費が落ち込んだ。



◎「急上昇」ならば…

欧州でも貯蓄率は急上昇している」のならば「高止まり」ではない。「高止まりの兆し」が出ている可能性はあるが、「欧州」に関する説明は上記のくだりだけだ。

日本に関しては微妙ではある。


【日経の記事】

日本は内閣府が国内総生産(GDP)統計に基づき、家計の貯蓄率を推計している。直近の公表データは2019年10~12月期の6.6%。日本経済研究センターの試算では20年1~3月期に8.1%、4~6月期には8.9%と約20年ぶりの高水準に達する。



◎横ばい圏と言えなくもないが…

問題は「20年1~3月期に8.1%、4~6月期には8.9%」という動きをどう見るかだ。これを「高止まり」「高止まりの兆し」と取れなくもない。しかし上昇基調が続くとも解釈できる。

記事には「ドイツ証券の小山賢太郎チーフ・エコノミストは日本の貯蓄率が4~6月期に18%台まで急上昇した後、21年中も10~11%台とコロナ前より高い水準で推移すると予測する」との記述もある。「21年中も10~11%台」で「推移する」のであれば、これを「高止まり」と見ることはできる。しかし「18%台まで急上昇した後」に「10~11%台」へと落ちるのであれば「安定」している感じはない。

そもそも記事には日米独の3カ国しか出てこない。これで「新型コロナウイルスによる景気悪化を受け、所得のうち貯蓄に回る割合を示す貯蓄率が先進国で高止まりの兆しをみせている」と打ち出すのは、やや苦しい。表やグラフで見せるやり方でもいいので、もう少し多くの「先進国」の動向を紹介してほしかった。


※今回取り上げた記事「先進国の貯蓄率、高止まりの兆し~コロナ禍、米は5月20%台 日本、20年ぶり高水準も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200715&ng=DGKKZO61516290U0A710C2EE8000


※記事の評価はD(問題あり)

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