2020年3月6日金曜日

岩村充 早大教授が東洋経済オンラインで展開した「MMT」否定論に疑問

6日付の東洋経済オンラインに早稲田大学大学院経営管理研究科の岩村充教授が「はたして『MMT』は画期的な新理論なのか暴論か~経済学主流派の欺瞞を暴いた新理論の正体」という記事を書いている。岩村教授は「MMT」を頭から否定している訳ではないが、結局は問題ありの理論だと結論付けている。その論理展開に納得はできなかった。
メディアモール天神(福岡市)※写真と本文は無関係です

問題点を指摘している部分を見てみよう。

【東洋経済オンラインの記事】

経済学主流派の面々がケルトンに最もてこずっている点は、彼女がこうした「安全装置」を付けて、「安全装置が付いているから財政を拡張してもいいでしょう」という議論を展開しているところにあるようですが、私からすればこれが最も危険な主張に思えます。

それはインフレに増税で対処することを自動化すれば、財政を拡張しても問題ないという発想自体が危ういからです。

育児支援や教育無償化などと言うと論点が錯綜するので、この際、少なくとも簡単には将来の富を生まない財政活動を思い浮かべてください。

ケインズ経済学の有名なたとえ話である「道路に穴を掘って埋め戻すという工事でも、失業を解消し総需要を拡大するから、経済にプラスになる」というのでもいいのですが、ややたとえが古臭いので、「毎年百万人の高校生を修学旅行として宇宙ステーションに招待し、そこで青い地球をながめることで環境問題の重要さを感じてもらう」というあたりでどうでしょうか。

こんなプロジェクトを国が始めたら。まあ、普通はインフレが起こるでしょう。それが費用に見合うほどの将来税収を生まないことはまず間違いないからです。

そこでケルトンの議論に従えば増税することになります。そうして増税すれば物価決定式が示すとおりでインフレは抑え込めそうです。でもインフレが抑え込まれれば、宇宙修学旅行計画は合理的であるとされ、次には月世界旅行や火星旅行に計画は拡大するということになるかもしれません。それでインフレが起こればまた増税、というサイクルになります。

この辺りで私たちはケルトンの議論の問題点に気づくことになるでしょう。「インフレ率が限度を超えたら増税」というMMT派のルールは、インフレが起こるような財政活動自体を制約するものではないので、そんな単純なルールを作って安心していると、経済学的には効率が悪い政策の自己拡大サイクルに財政運営が引きずり込まれかねないのです

そして、それは「インフレ率が限度を超えるまでは緩和」という単純なルールで株価を不自然なまでに釣り上げる一方で、貧富の格差拡大に目を背け続けてきた主流派経済学者や中央銀行たちの姿に重なります。

単純なルールによる副作用の自己拡大というリスクを見逃しているのはケルトンの幼さですが、自分たちが主張するルールに潜む同じ問題に気がつかない主流派経済学者たちや中央銀行たちの問題は、幼さではなく傲慢さが背景にあるだけに、実はケルトンより厄介かもしれません。


「安全装置」は機能しているような…

岩村教授の主張には2つ疑問がある。

まず「MTT」を信じて「宇宙修学旅行計画」を実行しても大きな問題が起きていない。「増税すれば物価決定式が示すとおりでインフレは抑え込めそうです」という見立てが正しければ「インフレは抑え込め」る。「増税」するので財政破綻にもつながらない。大不況に陥る訳でもなさそうだ。一体、何が問題なのか。

経済学的には効率が悪い政策の自己拡大サイクルに財政運営が引きずり込まれかねない」と岩村教授は言うが、経済的に大きな問題が起きないのならば、それでいいのではないか。

宇宙修学旅行計画」で「火星」に行ける国にしたいと国民の多くが望んでいる場合、それが「経済学的には効率が悪い」としても、財政破綻やハイパーインフレといった大きな代償を払わずに実現できるのならば、願ったり叶ったりだ。

もう1つ気になるのは「インフレが抑え込まれれば、宇宙修学旅行計画は合理的であるとされ」るとの前提だ。「宇宙修学旅行計画」のせいで「インフレ」になったから「増税」になると聞いて、国民はどう感じるだろうか。「インフレが抑え込まれ」たとしても、それで「宇宙修学旅行計画は合理的」だと判断して「火星旅行」などに「計画」が「拡大する」とは限らない。

宇宙修学旅行計画」のせいで「増税」になるのは許せないから、「計画」を廃止して減税しろと主張する人もいるだろう。そうした声が多数派になれば「インフレが抑え込まれ」たとしても「計画は拡大」しない。「経済学的には効率が悪い政策の自己拡大サイクルに財政運営が引きずり込まれ」ずに済む。

結局、税金で「宇宙修学旅行計画」の費用を賄うことを国民が許容するかどうかの問題に収斂していく。岩村教授が挙げた事例に関して言えば、「MTT」の「安全装置」はきちんと機能しているのではないか。

MTT」を個人的に支持している訳ではない。ただ、否定が難しい理論だとは感じる。多くの記事で否定論を目にしてきたが、その主張に納得できたことはない。今回の岩村教授の説明も例外ではなかった。



※今回取り上げた記事「はたして『MMT』は画期的な新理論なのか暴論か~経済学主流派の欺瞞を暴いた新理論の正体
https://toyokeizai.net/articles/-/333243


※記事の評価はC(平均的)。岩村充教授への評価も暫定でCとする。「MTT」に関しては以下の投稿も参照してほしい。


MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html

「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html

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