2020年3月1日日曜日

東洋経済の特集「資産運用マニュアル」の「心得7カ条」に異議あり

週刊東洋経済3月7日号の特集「資産運用マニュアル」の中に、経済評論家の加谷珪一氏が書いた「長期投資のメリットをすべて享受する~資産運用の心得7カ条」という記事が載っている。この「心得」にいくつか異議を唱えたい。
博多リバレインモール(福岡市)※写真と本文は無関係

まず「(1)とにかく継続する」について見ていく。

【東洋経済の記事】

長期積み立て投資の最大のメリットは、長期的な経済成長の恩恵をそのまま享受できることである。過去60年における日本の名目GDP(国内総生産)成長率は平均7%程度だが、日本の株式市場の平均利回りも6%を超えており、経済成長とほぼ等しくなっている。つまりコツコツと投資を続けていれば、経済成長分の利益をかなりの確率で享受できる。6%のリターンというのは、高度成長、バブル経済とその崩壊、リーマンショックなどあらゆる相場を平均したものであり、投資期間が長ければ長いほど、平均的なリターンに近づいてくる。途中で投資をやめないことが重要である。



◎なぜ「積み立て」?

加谷氏によれば「長期的な資産形成を目指す場合には、コツコツと投資残高を積み上げていくやり方がベストだ」そうだ。しかし、記事を読んでも「積み立て」にこだわる理由はよく分からない。

長期的な経済成長の恩恵をそのまま享受」したいのなら、なるべく早めに投資金額を膨らませておくのが得策だ。平均すれば株式投資で「6%のリターン」を得られるとしよう。相続か何かで急に1000万円の資金を得たとする。これを全額すぐに株式投資に充てるのと、毎年100万円ずつ「コツコツと投資残高を積み上げていく」のと、どちらが「長期的な経済成長の恩恵」を「享受」しやすいだろうか。

もちろん前者だ。後者では最後の100万円を9年間も預金か何かで寝かせておくことになる。株式投資に充てるべきだと判断している金額が決まり、手元にその資金があるのなら「積み立て」にこだわる必要はない。

次は「(3)自身の価値観をしっかり持つ」を取り上げる。

【東洋経済の記事】

毎年100万円を積み立て、これに6%の利回りを当てはめてみると、30年後にはなんと8300万円を超える。富裕層入りが見えてくる数字だが、実際はどうだろうか。左ページ図は1985年から毎年100万円ずつ投資した場合の資産額推移だが、30年経過した2015年時点で8300万円とまさに理論値とぴったり一致している。これはバブル崩壊やリーマンショックといった大暴落を含んだ結果であり、少なくとも過去については理論どおりに推移したことを示している。



◎ご都合主義の臭いが…


なぜ「過去」を振り返る時に「1985年」を起点にしたのか。「30年」単位で考える場合、今なら「1990~2019年」にするのが自然だ。しかし、これだと「バブル崩壊」の影響はもろに受けるが「バブル」の恩恵は得られない。そこで「1985年から」にしたのではないか。だとしたらご都合主義の誹りは免れない。

最後に「(4)優良銘柄への投資を徹底する」にも注文を付けたい。

【東洋経済の記事】

具体的な投資対象だが、長期投資を試みる以上、10年で消滅してしまうような企業には投資できないので、必然的に著名な大企業が対象となる。こうした銘柄は高配当であることが多く、配当を再投資に回せば累積のリターンはさらに大きくなる。配当は使ってしまわず、再投資に回すのが原則である。近年、配当ではなく株主優待で還元する企業が増えているが、これは小売店に例えれば、お店で売っている商品を店主が消費してしまうことと同義であり、本当の意味での株主還元にはなっていない。株主優待を過度に重視する企業には注意したほうがよい



◎配当も大差ないのでは?

株主優待」に関して「小売店に例えれば、お店で売っている商品を店主が消費してしまうことと同義であり、本当の意味での株主還元にはなっていない」と加谷氏は言う。だったら「配当」も大差ない。「小売店に例えれば、お店のレジに入っているカネを店主が自分の財布に移す」ようなものだ。なのに「配当」だと「本当の意味での株主還元」になるのか。

個人的には、「配当」に着目するのはほぼ意味がないが「株主優待」は内容次第だと感じる。問題は身を削っているかどうかだ。

配当は企業が手持ちの資金を株主に配るので、必ず身を削る。配当を受け取ると、企業の価値が目減りして株価が下がるので、株主にとって基本的にプラスはない。しかし「株主優待」はそうとは限らない。

株主優待」で生活する著名投資家の桐谷広人氏の行動をテレビ番組で見ていると、株主優待券があるから頑張って映画を観ているのだと思える。映画館の運営会社が株主に優待券を配る場合、会社が負担する直接的なコストはほぼゼロだ。

ただ、本来ならば自腹で映画を観る人が株主だった場合、映画館の運営会社は得られるはずだった利益を優待券の配布で失う。この場合は身を削っていると言える。

ただ、桐谷氏のような株主の場合、運営会社は身を削らなくて済む。空いている席を無料で提供しただけだ(満席の場合は話が変わってくるが、ここでは無視する)。本来得られるべき利益は存在しない。

桐谷氏が映画を観ることに価値を感じている場合、そこで得られた価値は株式投資で得られたものだ。しかも投資対象の企業は身を削っていない(優待券の発送費用などはあるだろうが…)。

優待券をもらっても使わない株主も多いだろう。そう考えると「株主優待」を必ず使う人にとって、企業が身を削らない「株主優待」は魅力的だ。「株主優待」を「本当の意味での株主還元にはなっていない」などと否定的に捉える必要はない。


※今回取り上げた記事「長期投資のメリットをすべて享受する~資産運用の心得7カ条
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23062


※記事の評価はD(問題あり)。加谷珪一氏への評価も暫定でDとする。

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