2020年3月13日金曜日

「これぞ日銀ウオッチ」と称賛すべき日経 安西明秀記者の記事

13日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「日銀ウオッチ『ちゅうちょなく緩和』封印」という記事は「日銀ウオッチ」というタイトルを体現した興味深い内容だった。筆者の安西明秀記者には今後も日銀ウォッチャーとして力を発揮してほしい。
福岡県庁(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事の前半部分を見てみよう。

【日経の記事】

必要に応じて適切な対応をちゅうちょなくとっていく」。連日、国会に呼ばれている日銀の黒田東彦総裁は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対応を問われ、繰り返しこう答弁している。いつもの光景にみえるが、実は微妙な言い回しの変化が潜んでいる

米中貿易戦争が激化し、同じく対応に苦慮していた2019年の言いぶりは「ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」だった。

当時は米連邦準備理事会(FRB)が10年半ぶりの利下げを決め、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和政策を再開していた。政策金利の引き下げ(マイナス金利の深掘り)を含め追加緩和に前向きな姿勢を強調し、円高圧力をはね返す狙いだった。なぜいま黒田総裁の発言から「追加緩和」の文字が消えたのか。


◎「微妙な言い回しの変化」こそ重要

必要に応じて適切な対応をちゅうちょなくとっていく」と「ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」。日銀の金融政策に関心がない人にとっては「何が違うの?」と思えるだろう。担当記者として「黒田東彦総裁」の発言を追ってきたからこそ気付ける変化だ。

大きな変化であれば誰でも気付く。「微妙な変化」に反応してこそ担当記者だ。そこを掘り下げるのが「日銀ウオッチ」であってほしい。

記事の後半で安西記者は以下のように分析している。

【日経の記事】

背景に浮かぶのが反面教師の存在だ。「完全なネガティブサプライズ。パウエルの判断は裏目に出た」。ある日銀幹部はこう話す。FRBは3日、臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き0.5%の利下げを決めた。ただ同日の米ダウ工業株30種平均は下落し、米長期金利は初めて1%を割り込んだ。

値動きをつぶさにみると、決定直後は株価は上昇した。ただパウエル議長が記者会見で「新型コロナの感染拡大は新たな困難とリスクをもたらす」と悪影響への懸念を隠さなかったことで株価は急落。「FRBが何か隠れた悪材料を持っているとの市場の疑心暗鬼を招いた。そんな情報なんて持っているはずがないのに」(日銀幹部)

日銀が持つ緩和の選択肢は変わらないが、株価が乱高下するなかでは「市場が想定通りに反応してくれるかはわからない」(別の日銀幹部)。副作用の大きいマイナス金利の深掘りを想起させる「追加緩和」という表現が、日経平均株価のウエートが大きい銀行株のさらなる下落を招きかねないとの懸念が去来してもおかしくない。

国会でも記者会見でも切り口を変えた問いに対し、同じ言葉を繰り返してきた黒田総裁。言いぶりの変化に込められた意図は18~19日の金融政策決定会合の結果で分かる。



◎ついに訪れた「その時」

適切な対応」はしていくが「マイナス金利の深掘り」はやらないというのが「黒田総裁」の意図だと安西記者は見ているのだろう。この分析には賛成だ。

新型コロナウイルスの問題が起きる前には「追加緩和」の必要性が低かったので「ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」とハッタリをかませられた。しかし、実際に「追加緩和」が求められる局面になるとハッタリを引っ込めざるを得なくなったのだろう。

やらないくてもいい時期に無茶な金融緩和を進めると、経済を下支えすべき時に有効な武器がなくなってしまう。異次元緩和が始まった頃から懸念されていた事態だ。その時がついに訪れた。

黒田総裁」の苦しすぎる言い訳が楽しみだ。

話が逸れたが、安西記者には注目していきたい。



※今回取り上げた記事「日銀ウオッチ『ちゅうちょなく緩和』封印
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200313&ng=DGKKZO56652900R10C20A3EE8000


※記事の評価はB(問題あり)。安西明秀記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Bへ引き上げる。安西記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「本格参入」に無理がある日経「伊藤忠、日中越境通販に本格参入」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_22.html

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