2020年3月15日日曜日

「最悪の事態」が起きない前提で「最悪シナリオ」を描く東洋経済 野村明弘氏

最悪シナリオ」は「最悪の事態」を想定して考えるものだと思っていたが、週刊東洋経済の野村明弘氏(本誌コラムニスト)は違うようだ。3月21日号の緊急特集「コロナ恐慌 最悪のシナリオ」からはそう読み取れる。
筑後川橋と菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

2020年のGDP」が「マイナス3.4%成長」という大和総研の「リスクシナリオ」に「五輪中止」の影響を加えたのが東洋経済による「最悪シナリオ」で、「マイナス3.6%成長」となっている。

五輪中止」が「GDPを0.2%程度押し下げる」から「リスクシナリオ」よりマイナス幅を0.2ポイント大きくしたというだけだ。リスクシナリオの差はとわずかで「最悪シナリオとしては甘いのでは?」とは感じたが、それが東洋経済の想定する「最悪の事態」の下での「シナリオ」ならば仕方がない。

だが記事を読むとどうもおかしい。気になった部分を見てみよう。

【東洋経済の記事】

米国では低格付け社債に投資するETFからの資金流出が始まっている。投信などの解約が加速すれば、原資産である低格付け社債やレバレッジドローンの換金投げ売りで、投信やETFと連鎖した価格下落が起きかねない。パニック的な取り付けが起きれば、行き着く先は、企業の資金繰り危機や運用会社の破綻だ。それが、さらに金融機関の決済システム不全へ波及してシステミックな危機を引き起こす、というのが想定される最悪の事態だ。

中略)金融危機が起こらなければ、実体経済の悪化はどの程度になるのか

大和総研の試算によると、20年の日本の実質GDP成長率はメインシナリオで前期比1.1%減。東日本大震災のあった11年(0.1%減)以来のマイナス成長となる(右ページ上図)。

メインシナリオの前提は、ウイルスの流行が4月ごろまで続くというものだ。これに対し、21年1月ごろまで長引くと仮定したリスクシナリオでは、3.4%減までマイナス幅が広がると予想される

大和総研の小林俊介シニアエコノミストは「春闘や新卒採用活動が停滞しており、今後の所得環境の悪化も懸念材料だ」と語る。

国民の関心を集める東京五輪の行方だが、本誌の試算では、仮に中止になると、7947億円のGDP減少となるとはじき出された。東京都が昨年4月に公表した「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」を基に直接的な今年の需要見込額を絞り込んだ結果だ。これはGDPを0.2%程度押し下げるもので、さほど大きくないが、不動産業やスポーツ産業などでは大きな問題を引き起こす。社会的なインパクトも巨大だ。

日本政府は3月10日、緊急対応策の第2弾を決定した。中小企業や個人事業主への無利子無担保融資制度の導入などが柱だ。金融危機が起きれば、先の成長見通しが一段と低下するのは必至。世界の中央銀行や財務省が連携して金融危機を抑え込めるか、闘いは待ったなしだ。


◎「最悪シナリオ」と呼ぶなら…

金融機関の決済システム不全へ波及してシステミックな危機を引き起こす、というのが想定される最悪の事態」なのに「金融危機」が起きない前提の「リスクシナリオ」に「五輪中止」の影響を加えて「最悪シナリオ」を描いている。

金融危機が起きれば、先の成長見通しが一段と低下するのは必至」とも書いている。つまり東洋経済は「最悪シナリオ」を「最悪の事態」にはならない前提で描いている。矛盾していないか。

最悪シナリオ」と打ち出すのならば「想定される最悪の事態」でどの程度のマイナス成長になるかを予測すべきだ。それが難しいのならば、今回の「最悪シナリオ」は「五輪中止シナリオ」とでも名前を変えるべきだ。

最悪シナリオ」が「マイナス3.6%成長」といった甘いものではないことは野村氏も分かっているはずだが…。


※今回取り上げた記事「コロナ恐慌 最悪のシナリオ
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23183


※記事の評価はD(問題あり)。野村明弘氏への評価もDを据え置く。野村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

アジア通貨危機は「98年」? 東洋経済 野村明弘記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/98.html

「プライマリーケア」巡る東洋経済 野村明弘氏の信用できない「甘言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html

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