2020年3月26日木曜日

中国依存脱却が解決策? 日経 中山淳史氏「コロナ危機との戦い」

日本経済新聞朝刊1面の連載「コロナ危機との戦い」がやはり苦しい。26日の「(4)不測の時代、供給網柔軟に」という記事の筆者である中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)は中国依存の危険性を訴える。「コロナ危機との戦い」では、中国依存からの脱却は解決策にならないはずだが…。
菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

背景にあるのはグローバル化の定着と中国の急激な巨大化だ。世界銀行によると、世界の貿易が国内総生産(GDP)に占める比率は、1980年代に4割を下回っていたが、08年以降は6割前後を保っている。

一方、01年の世界貿易機関(WTO)加盟を機に「世界の工場」に変貌を遂げた中国は世界から企業の投資を受け入れ、同国が最大の貿易相手国になった国・地域の数が60に達した。米国が最大の相手国である国・地域は35だ。

中国発着の航空旅客もこの間、約10倍に増えた。世界の伸びは2倍だ。ところが通関や検疫体制、各国・企業の事業継続計画(BCP)は変化に適応し切れなかった。コロナウイルス感染は20年前なら「風土病」にとどまった可能性があるが、世界は同国の急激な工業化、都市化の中で生じた衛生管理の不備を見落とし、拡散を許した。

IATAの予測では、24年には中国発着の航空旅客が米国を抜き世界一になる。まずは検疫体制の見直しや強化を各国で急ぐべきだ。

次に徹底したリスクの分散が必要だろう。今回のコロナ禍でも自動車産業や米アップルを中心にサプライチェーン(供給網)は止まった。

原因は中国への過度な依存だ。企業は12年の尖閣諸島問題を機に「チャイナ・ファースト」から中国以外の国・地域をかませる「チャイナ・プラス・ワン」にカジを切る動きを見せたが、不十分だったということだ。

う一歩踏み込むとしたら「チャイナ・アズ・ワン・オブ・メニー(多数の中の一つ)」だろう。東欧、インド、イスラエルなど中国を代替できる選択肢を2つ3つと育てたい。供給網は企業によっては地球と月を往復するほどの総延長距離がある。米中摩擦も念頭に置き、製品や部品がどこを通ればボトルネックを起こさないか、一つ一つ丁寧に点検する時だ。

政府や一部企業には「供給網を国内に戻せば」との声もある。だが、中国市場の重要性や投資の負担を考えれば「巣ごもり生産」は現実的ではない。企業は事件や災害の度に供給網の引き出しを増やし、質を高めてきた。今回もあり得べきグローバル体制を模索する重要な機会にすべきだ。



◎中国を代替できる?

コロナ危機」が地域限定の「危機」ならば、リスク回避の手段として「分散」は重要だ。しかし世界全体の「危機」だとすると「分散」に大した意味はない。

記事の冒頭で「『まるで世界中が戒厳令下のよう』と大手航空会社の幹部は話す」と中山氏も書いている。なのに「もう一歩踏み込むとしたら『チャイナ・アズ・ワン・オブ・メニー(多数の中の一つ)』だろう。東欧、インド、イスラエルなど中国を代替できる選択肢を2つ3つと育てたい」と訴える気が知れない。記事には「インドが25日に全土を封鎖し、タイも26日に非常事態宣言を出すなど、影響はさらに拡大する」との記述もある。少なくとも現状では「インド」は「中国を代替できる選択肢」にはならない。

ついでに言うと「世界銀行によると、世界の貿易が国内総生産(GDP)に占める比率は、1980年代に4割を下回っていたが、08年以降は6割前後を保っている」との記述は引っかかった。「占める比率」ではなく「対する比率」とした方がいい。

細かい説明は省くが、3月15日の記事では日経も「世界銀行などによると国内総生産(GDP)に対する貿易の比率は、世界全体として1990年ごろに30%台だったのが2010年代には60%前後に高まった」と書いている。


※今回取り上げた記事「コロナ危機との戦い(4)不測の時代、供給網柔軟に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200326&ng=DGKKZO57222400V20C20A3MM8000



※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight.html

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