2017年10月26日木曜日

「金融業界の回し者」から変われるか 日経 田村正之編集委員

日本経済新聞の田村正之編集委員が24日夕刊マーケット・投資2面に書いた「マネー底流潮流~新NISA、職場で普及も」という記事について、「現行NISAは商品に制限はない」との説明が誤りであることは既に述べた。ここでは、それ以外の気になる点を述べてみたい。
キリンビール福岡工場(朝倉市)のコスモス
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

2018年から始まる積み立て方式の少額投資非課税制度(つみたてNISA)。投資額年40万円まで、運用益が20年間非課税になる。金融庁が毎月個人投資家数十人と開いている意見交換会の10月20日のテーマは職場を通じて加入申し込みなどをする「職場つみたてNISA」だった。


パネリストの一人、野村証券の森田克巳氏は日本経済新聞社の個別取材に対し、「現行NISAでも職場を通じた積み立てを推進してきたが、今後はつみたてNISAを職場NISAの中心的な普及対象としたい」と話した。


◎「意見交換会」の内容になぜ触れない?

金融庁が毎月個人投資家数十人と開いている意見交換会の10月20日のテーマは職場を通じて加入申し込みなどをする『職場つみたてNISA』だった」と切り出しているのに、「意見交換会」で「個人投資家数十人」からどんな意見が出たのかには全く触れていない。これは解せない。

代わりに「パネリストの一人、野村証券の森田克巳氏」の発言を紹介している。「意見交換会」の内容が全く分からないのであれば、その点は読者に明示すべきだ。記事に付けた写真には「金融庁と個人との対話集会。登壇者はハロウィンの衣装で参加」という説明も付けている。「ハロウィンの衣装で参加」したかどうかは、どうでもいい。そんな情報を盛り込む余裕があるのならば、「対話集会」の中身に言及してほしかった。

野村証券の森田克巳氏」が「パネリスト」として参加しているのも引っかかる。「金融庁が毎月個人投資家数十人と開いている意見交換会」であれば、参加者は「金融庁」の担当者と「個人投資家数十人」だと考えるのが自然だ。一方、「パネリスト」がいるのであれば、「意見交換会」ではなく「パネルディスカッション」の場だったと見るべきだ。両方あったのかもしれないが、記事の説明ではよく分からない。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

現行NISAは商品に制限はないが、つみたてNISAは金融庁が長期の資産形成に適すると判断した投信に絞り込まれている。例えば販売手数料は原則なしで、信託報酬も割高なものは排除された。

野村の職場つみたてNISAの対象商品は4つ。信託報酬が年0.18%台から0.23%台の超低コストのインデックス投信だ。野村がこれまで推進していた現行NISAでの職場NISAの対象商品の手数料はつみたてNISAよりやや高い。つまり採算を考えるなら現行NISAの方がいい。「しかしつみたてNISAは非課税期間も20年でコストも低く、利用者にとって職場で推進するメリットは大きい」(森田氏)


◎「職場で推進するメリットは大きい」?

田村編集委員には「金融業界の回し者」というイメージが強い。上記のくだりには、そうした面が出ている。
須賀神社(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

金融業界に属する「野村証券の森田克巳氏」が「つみたてNISAは非課税期間も20年でコストも低く、利用者にとって職場で推進するメリットは大きい」と訴えるのは分かる。だが、それを正しい見方であるかのように使うのは感心しない。

田村編集委員には考えてほしい。「つみたてNISA」を「職場で推進するメリット」が「利用者」にあるだろうか。「職場つみたてNISA」だからと言って「非課税期間」が長くなるわけでもない。自分で金融機関を選べば、100を超える投信の中から商品を選べるが、野村の「職場つみたてNISA」であれば「対象商品は4つ」しかない。これは明らかなデメリットだ。

職場と関係なく「つみたてNISA」を利用する場合と比べて「職場で推進するメリットは大きい」と判断する理由はない。投資に関心がなかった層を呼び込めるという意味で金融業界にとっては「職場で推進するメリットは大きい」かもしれないが…。

ついでに言うと「信託報酬が年0.18%台から0.23%台の超低コストのインデックス投信」という表現にも、田村編集委員の業界寄りの姿勢が見える。単に「低コスト」で十分だ。インデックス投資をする場合、ETFであれば信託報酬0.1%未満のものもある。「0.18%台から0.23%台」程度で「低コスト」に「」を付けてしまうところに、田村編集委員の本性が透けて見える。

とは言え、記事の終盤には希望も感じた。

【日経の記事】

金融機関の取り組みはまちまちだが、証券会社や一部の地銀なども職場つみたてNISAへの取り組みを始めた。ある銀行の担当者は「非課税期間が長く商品にも安心感があるので、福利厚生の一環として現行NISAより企業に受け入れられやすい」と話す。多人数に一挙に働きかけられる効率性も職場つみたてNISAに取り組む背景だ。

日本証券業協会は職場つみたてNISAの普及に向け、9月末にガイドラインを作成。金融庁自身も職員向けの職場つみたてNISA導入を決め、取扱金融機関の公募を始めた。今後他省庁や自治体に広がることを期待する。

経済評論家の山崎元氏は、現行NISAを使った職場NISAには批判的だった。「金融機関が企業との取引関係を使って従業員に高コスト・高リスクの商品をまとめて売りかねない」と懸念したからだ。しかし「つみたてNISAでは、金融庁が適切ではない商品の大半を除去しているので、そうした弊害が起きにくい。従業員が長期・分散投資を実感していく契機にもなるだろう」と期待している。


◎山崎元氏の話を参考にすれば…

経済評論家の山崎元氏」に話を聞いている点は高く評価できる。山崎氏は投資の専門家の中で「金融業界の回し者」から遠い位置にいる人物だ。投資に関する知識ももちろん十分すぎるほど持っている。田村編集委員が山崎氏の話をきちんと参考にしてくれれば、「金融業界の回し者」から変われそうな気もする。今後に期待したい。


※今回取り上げた記事「マネー底流潮流~新NISA、職場で普及も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171024&ng=DGKKZO22624570U7A021C1ENK000


※記事の評価はD(問題あり)。 田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

現行NISAは商品制限なし? 日経 田村正之編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_74.html


※田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html

無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html

功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html

投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html

ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)

運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_21.html

「お金のデザイン」を持ち上げる日経 田村正之編集委員の罪
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_61.html

「積み立て優位」に無理がある日経 田村正之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_6.html

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