2017年10月14日土曜日

最後まで苦しい日経「砂上の安心網~未来との摩擦(3)」

日本経済新聞朝刊1面で連載している「砂上の安心網~未来との摩擦」は、14日の第3回「わずかな年金、頼らぬ覚悟 生涯現役が究極の自助」も最初から最後まで苦しい内容だった。言いたいことがないのに無理して話を作り上げている印象も受ける。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

まずは記事の前半を見ていこう。

【日経の記事】

年金には期待していません」。企業に所属しないフリーランスのIT(情報技術)エンジニアとして働く斉藤真二郎さん(40、仮名)。「老後に不安はありませんか」。取材班の問いかけにきっぱりと答えた。

国民年金のみを納付する斉藤さんが老後に受け取る年金は月7万円程度。生活に十分な額とはいえないが、気にしない。ITエンジニアとしての技術を磨きながら生涯働き続けるライフプランを描く。

何歳になっても学び、働くことを続けていく社会に――。英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授が提唱した「人生100年時代」。約20年後には、日本人の3人に1人を65歳以上が占める。生涯現役で働けるフリーランスは究極の自助であり、人生100年時代を生き抜く答えのひとつだ。

フリーランスとして働く人の数は推定1100万人を超え、いずれ労働人口の半分を占めるとの見方もある。遠くない未来。斉藤さんが思い描く「生涯現役」の生き方を多くの人がするようになるはずだ。



◎問いと答えが…

いきなり問いと答えが合っていない。「老後に不安はありませんか」との問いに「年金には期待していません」と答えられても、不安があるかどうか判断できない。記事の書き方だと「不安なし」に近い気もする。ただ、常識的に考えれば80代や90代で「IT(情報技術)エンジニア」として働くのは体力・知力の両面から難しいだろう。
九州北部豪雨後の朝倉光陽高校(福岡県朝倉市)
           ※写真と本文は無関係です

あくまで想像だが、取材では「不安がある」と答えたのではないか。それだと話の趣旨に合わないので「年金には期待していません」という部分だけ切り出したのではないか。だとすれば腑に落ちる。

ついでに言うと「生涯現役で働けるフリーランスは究極の自助であり、人生100年時代を生き抜く答えのひとつだ」との解説には同意できない。フリーランスには仕事が全くもらえず収入ゼロが続くリスクがある。高齢になればスキルも体力も落ちる。様々な病気のリスクも高まる。取材班では、「人生100年時代」になると健康寿命も100歳近くにまで伸びるとでも思っているのだろうか。だとしたら、あまりに非現実的だ。

記事の後半部分も引っかかるところが多い。

【日経の記事】

上場企業で役員を務めた経験を持つ有賀貞一さん(70)は10社近い企業の経営に携わり、経営相談で収入も得る。同僚の多くが年金生活に入ったというが、「90歳になっても働き続けたい」。稼いだお金は健康維持などの自己投資に回す。

シニアだけでなく、主婦などの現役世代も私生活と両立しながらフリーランスとして働くことで人材の流動性が高まり、日本経済を力強くする


◎この人は「フリーランス」?

有賀貞一さん(70)」は「フリーランス」なのかどうか判然としない。「10社近い企業の経営に携わり」と聞くと会社役員のようでもあるが、「経営相談で収入も得る」のであれば経営コンサルタントのようでもある。こんな漠然とした事例では困る。取り上げるならば、しっかり描いた方がいい。紙幅が足りないのならば、思い切って省くべきだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

シニアだけでなく、主婦などの現役世代も私生活と両立しながらフリーランスとして働くことで人材の流動性が高まり、日本経済を力強くする」という説明も納得できなかった。例えば専業主婦が「フリーランスとして働く」と「人材の流動性」が高まるだろうか。基本的に「流動性」に変化は生じない。「流動性」を高めるためには、属する組織を変えたり、組織を抜けてフリーになったりする必要がある。

人材の流動性」が高まると「日本経済を力強くする」かどうかも微妙だ。大卒の3年以内離職率は約3割と言われる。これを例えば9割にすれば「人材の流動性」は高まるだろう。だが、そのことが「日本経済を力強くする」という期待は持ちにくい。

記事では、フリーランスの増加に対応した年金制度についても触れている。しかし、取材班が何を訴えたいのかは判然としない。

【日経の記事】

平均寿命が男性で60歳代半ばだった1960年代に確立された現行の年金制度。念頭にした働き方は会社員と自営業者のふたつだけだった。平均寿命が80歳を超え、働き方も多様化していく日本の姿に年金は向き合えているだろうか

ヤフーに勤めながら、週末は副業のウェブデザイナーとして働く岡直哉さん(28)。年収は専業の時よりも3割増えた。厚生年金と確定拠出年金で老後に備え、一生涯働き続けるつもりだが「老後は不安」と漏らす

政府も2年前に多様な働き方に対応した総合的な個人・企業年金の議論を始めたが、現在、検討が進んだ形跡はない。「権益を守りたいという各省庁の防衛本能が制度改革を進めづらくしている」(政府関係者)

高齢化社会のリスクを個人だけが負う」。ニッセイ基礎研究所の金明中氏は警鐘を鳴らす。



◎自分たちはどうしたい?

取材班は「働き方も多様化していく日本の姿」を見て、年金制度をどう変えていくべきだと考えているのか。せっかく1面の記事でそれを訴える機会を得ているのに「自分たちの考え」が見えてこない。「多様な働き方に対応した総合的な個人・企業年金の議論を始めたが、現在、検討が進んだ形跡はない」などと書いているだけだ。
九州北部豪雨後の朝倉光陽高校(福岡県朝倉市)
         ※写真と本文は無関係です

岡直哉さん」の事例を見ても、今の年金制度が「多様な働き方に対応」できていないとは思えない。「厚生年金と確定拠出年金で老後に備え、一生涯働き続ける」のならば、特に大きな問題は感じられない。「不安」はあるだろうが、制度的な欠陥には記事では何も触れていない。

政府内の「議論」は進んでいないのかもしれないが、記事からは「働き方も多様化していく日本の姿に年金は向き合えて」いないとは感じられなかった。取材班が制度のどこに問題を感じているのかも不明だ。なのに「『高齢化社会のリスクを個人だけが負う』。ニッセイ基礎研究所の金明中氏は警鐘を鳴らす」と話をまとめてしまう。

このコメントも、上手くはまっているとは思えない。企業は「高齢化社会のリスク」と無縁だとも考えにくいし、このコメントを使うならば、「個人vs個人以外(企業など)」という図式を描き出すべきだ。しかし、そういう図式にはなっていない。

記事の終盤はさらに漠然とした話になる。

【日経の記事】

支え手である現役世代は減り、長くなる老後を年金が支えることは難しくなる。10日公示された衆院選で、社会保障政策が十分に議論されるか不安も残る。

多様な働き方を選ぶ個人が増えていく中、年金は頼れる制度として残るのか。議論を先送りしてはいけない。


◎こんな一般論で済ますのならば…

結論部分に至っては、フリーランスの問題との関連がかなり薄れている。「社会保障政策の問題はちゃんと議論しなきゃダメだよね」といった類の、当たり前で誰でも分かっているような結論に導くために連載を重ねてきたのか。せっかく朝刊1面を大きく使えるのだから「自分たちが本当に訴えたいことは何なのか」をもっと真剣に考えてほしい。


※今回取り上げた記事「砂上の安心網~未来との摩擦(3)わずかな年金、頼らぬ覚悟 生涯現役が究極の自助
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171014&ng=DGKKZO22246070T11C17A0MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載については以下の投稿も参照してほしい。

センサーで排尿回数が減る? 日経「砂上の安心網」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_13.html

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