2017年10月18日水曜日

運用業界への思いやりが過ぎる日経 山下茂行次長「一目均衡」

運用業界の言い分に説得力が乏しくても、何とか業界に寄り添ってあげたい--。17日の日本経済新聞朝刊投資情報面に載った「一目均衡~つみたてNISAの違和感」という記事からは、筆者である山下茂行証券部次長のそんな思いが伝わってくる。
天ヶ瀬温泉(大分県日田市)
       ※写真と本文は無関係です

記事は「つみたてNISA」に批判的だが、「問題がある」「制度を見直すべきだ」といった言い方はしない。「違和感」という微妙な表現を用いている。業界の言い分に汲むべき点が少ないと山下次長も自覚しているのかもしれない。本当に問題があるのならば「違和感」などと言わずに、見直すべき点をはっきり指摘すれば済む。

さらに気になるのが「懐疑派」のコメントが全て匿名になっていることだ。これでは苦しい。実名でコメントしづらいのは分かる。だが、全て匿名では「懐疑派」を支持する気になれない。記事には「懐疑派」として「大手運用会社OB」も登場するが、やはり匿名だ。OBならば、金融庁に睨まれる心配なしに発言できそうなものだが…。

記事の全文を見た上で、さらに問題点を指摘したい。

【日経の記事】

積み立て型の少額投資非課税制度、いわゆる「つみたてNISA」の口座開設手続きが今月、始まった。「貯蓄から投資」の推進役と期待されるが、この新制度に対して「違和感」を訴える声が運用業界から出ている。

NISAは、株式や投資信託から得た利益が一定期間は非課税になる制度だ。つみたてNISAは、税制優遇の対象を金融庁が選んだ投信だけに絞り、非課税の期間がさらに長い。

「長期の積み立て投資」の後押しを狙いとし、販売手数料がゼロ、かつ運用コストである信託報酬の低い投信が対象になる。長期投資では、運用コストが成果に与える影響が大きいとされるからだ。

選別の基準は厳しい。日本株投信なら、信託報酬は株価指数に連動するインデックス型で0.5%以下、指数を超える運用成績をめざすアクティブ型で1.0%以下を求める。企業調査の手間がかかるアクティブ型が、この基準を達成するのは難しい

13日時点で適格となっている114本の投信のうち、インデックス型が100本と9割弱を占める。アクティブ型は14本(12%)にとどまり、日本株で運用するタイプは6本しかない。

ここが議論の分かれるポイントだ。コモンズ投信の伊井哲朗社長は「つみたてNISAは投資未経験層の呼び込みを狙った特別な制度。仕組みが簡単で信託報酬も低いインデックス型の投信を軸にして、長期の分散投資を促す意味は大きい」とみる。賛成派の言い分には一定の説得力がある。

それでも、と懐疑派は指摘する。「信託報酬は運用成績を左右する一要素にすぎない。そればかりにとらわれると、結果として優良な投信を排除してしまう」(大手運用会社OB
耳納連山(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です

投信分析のデータベース、モーニングスター・ダイレクトを使い、公募投信の過去20年の運用成績(分配金を含む)を調べた。

インベスコ・アセット・マネジメントの「インベスコ店頭・成長株オープン」、三菱UFJ国際投信の「JASDAQオープン」、ベアリングス・ジャパンの「アジア製造業ファンド」などが上位に入った。

いずれも年率のリターンが10%を超える優良な成績を続けている。それなのに販売手数料や信託報酬が引っかかり、つみたてNISAの対象になっていない

インデックス投信の長期積み立てが、唯一絶対の投資手法だと誤解されないか」「高齢者に長期投資はそぐわないし、投資家のニーズはそれぞれ違うはず」。運用業界には、こんな声が少なからずある。

銘柄を選別しないインデックス投信ばかりになれば、上場企業に対する市場の規律付けの機能は弱まる。そもそも投資の大原則は自己責任なのに、行政が商品選びにまで細かく立ち入っていいのかという疑問もある。違和感の根は深いようにみえる。



◎誤解される?

まず「インデックス投信の長期積み立てが、唯一絶対の投資手法だと誤解されないか」という匿名のコメントが引っかかった。「違和感」に説得力を持たせようとしたのだろうが、説明に無理がある。

つみたてNISA」で適格となっているのは「インデックス型が100本と9割弱」で「アクティブ型は14本(12%)」だ。これで「インデックス投信」しか選択肢がないと思う方がどうかしている。「誤解されないか」と心配すべき状況ではない。

ついでに言うと「高齢者に長期投資はそぐわないし、投資家のニーズはそれぞれ違うはず」というコメントも決め付けが過ぎる。「投資家のニーズはそれぞれ違う」のはその通りだと思うが「高齢者に長期投資はそぐわない」とは考えにくい。70歳でそこそこ健康な人は90歳を過ぎても生きている可能性がかなりある。こういう人が「長期投資」を始めた時に、山下次長は「高齢者に長期投資はそぐわない」と感じるのか。感じないのであれば、このコメントを使うべきではない。


◎「1.0%以下」は難しい?

「アクティブ型で『1.0%以下』の信託報酬を実現するのは難しい。コストが高くても『年率のリターンが10%を超える優良な成績を続けている』アクティブ型の投信はあるのだから、それらも『つみたてNISA』の適格商品にしてあげればいいのに…」と山下次長は思っているのだろう。だが、問題点が2つある。

そもそも「1.0%以下」はそんなに難しいのか。「アクティブ型は14本」が適格となっているのであれば、少なくとも実現不可能な信託報酬ではない。日経でも昨年11月に「1%未満も続々 アクティブ投信でも手数料下げ」という記事を載せている。簡単ではないにしても、条件が厳しすぎるとは考えにくい。

また「年率のリターンが10%を超える優良な成績を続けている」高コストのアクティブ投信を排除したとしても「結果として優良な投信を排除してしまう」とは思えない。過去のリターンが高い投信を選んで投資しても、運用成績を高める効果はないとされる。つまり現時点で判断すれば「高コストな投信=優良でない投信」と見なしてよい。
大宰府政庁跡(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です

もちろん、例えば10年後に振り返って「高コストだけど良い運用成績を収めた投信」を見つけることはできる。だが、現時点ではどの投信がそうなるのか分からないし、過去の運用成績に基づいて選べば、そうした投信に当たる確率が明確に高まるわけでもない。

この辺りの事情は山下次長も分かっているはずだ。なのに「販売手数料や信託報酬が引っかかり、つみたてNISAの対象になっていない」と高コストのアクティブ型投信を擁護してしまうのは、業界寄りの姿勢の表れだろう。

「つみたてNISAの対象にはアクティブ型の商品が少ないので、条件に合致する商品をどんどん投入してほしい。信託報酬1%以下は簡単ではないが、今回適格とされた14本は実現できている。不可能ではないはずだ」などと訴えてくれれば「業界よりも投資家の方を向いて記事を書いているのだな」と思えるのだが、今回の記事は運用業界への不必要な思いやりが過ぎる。


※今回取り上げた記事「一目均衡~つみたてNISAの違和感
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171017&ng=DGKKZO22303490W7A011C1DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。山下茂行次長への評価はDを据え置く。

山下茂行次長の雑な分析 日経「小売株『成長』に舞う」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_89.html

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