2017年10月25日水曜日

日経「大機小機~ユリノミクス批判」への批判

24日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に「大機小機ユリノミクス批判」という記事が出ていて、「内部留保課税」を「あり得ないようなトンデモ政策」として批判している。個人的に「内部留保課税」には反対だが、「あり得ない」とまでは思えない。記事の筆者である「隅田川」氏の「ユリノミクス批判」を批判してみたい。
筑後川に架かる恵蘇宿橋(福岡県朝倉市・うきは市)
          ※写真と本文は無関係です

まず「内部留保課税」に関わる記述を見ていこう。

【日経の記事】

与野党間での建設的な政策論議が深まるためには、与党だけでなく、野党が掲げる政策も、専門的な見地からの評価を受ける必要がある。そうした観点から、今回の衆院選挙で希望の党が打ち出した「ユリノミクス」と称する経済政策を評価してみよう。

結論から言うと、ユリノミクスは、とてもアベノミクスに取って代わり得るようなものではなかった。

第1に、あり得ないようなトンデモ政策が含まれている。代表例が内部留保課税だ。多くの専門家が指摘するように、内部留保(利益剰余金)は、企業内に取り崩せる塊として存在するわけでなく、投資に回しても、現預金で保有しても内部留保の額は同じである。「産業界が反対」「課税技術的に困難」というレベルの話ではなく、ほとんどあり得ない政策である


◎「ほとんどあり得ない政策」?

内部留保課税が「ほとんどあり得ない政策」ならば、海外での導入例はほぼゼロのはずだ。しかし、ダイヤモンドオンラインの「希望の党『内部留保課税』に安心の希望が見出せない理由」という記事(10月17日付)では、中央大学法科大学院教授で東京財団上席研究員の森信茂樹氏が以下のように書いている。


【ダイヤモンドオンラインの記事】

内部留保金に課税する税制は、日本や米国、そして韓国でにも導入されている
天ケ瀬温泉(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

日本では、特定同族会社(一人で5割超の株式を保有する会社など)について、毎年度の課税所得のうち配当や法人税の支払いを差し引いた額が、一定の控除額を超える場合には、10%から20%までの累進税率で課税される(法人税法67条1項)。

米国でも、「株主に対する所得税を逃れるために不当に利益を留保した場合」には留保収益税が課せられる。

中略) 韓国は2015年に、設備投資や賃上げを行わず内部留保を積み上げる企業への懲罰的な課税として、「企業所得還流税制」を導入した。

3年間の時限措置で、一定規模以上の企業に限定したもので、課税方法は、「投資と賃金増加額と配当の合計額が税引き後利益の80%に達しない部分について、10%の追加課税をする」という内容だ。

対象となる企業は3000社程度で、そのうち3分の1程度が課税されたという。税収規模は600億円程度といわれている。

◇   ◇   ◇

これが正しければ、好ましい政策かどうかは別にして「ほとんどあり得ない政策」とは言えない。導入例はそこそこある。
福岡銀行本店(福岡市中央区)
      ※写真と本文は無関係です

隅田川」氏の「内部留保(利益剰余金)は、企業内に取り崩せる塊として存在するわけでなく、投資に回しても、現預金で保有しても内部留保の額は同じである」という説明は合っている。ただ、これが「ほとんどあり得ない政策」と言える根拠にはならない。

隅田川」氏は「内部留保=現預金」ではないから課税はおかしいと言いたいのだろう。だが、課税対象は現預金の形で存在するとは限らない。例えば不動産には固定資産税が課される。内部留保に関しても、その規模に応じて課税額を決めることは不合理とは言えない(二重課税の問題は「大機小機」で触れていないので、ここでは考慮しない)。

今回の「大機小機」では「真に政権交代可能な政党が現政権に取って代われるような政策を打ち出すようになるためには、提案する側も論評する側も『どうせ野党の提案なのだから現実には採用されないだろう』という甘えを捨て、真剣勝負の政策論議を行っていく必要がある」と記事を締めている。それはその通りだ。だからこそ、「隅田川」氏の「ユリノミクス批判」でも、内部留保課税に関して説得力のある批判を展開してほしかった。


※今回取り上げた記事「大機小機ユリノミクス批判
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171024&ng=DGKKZO22607300T21C17A0EN2000

※日経の記事の評価はC(平均的)。

0 件のコメント:

コメントを投稿