2017年10月12日木曜日

「中所得国の罠」 アジアで克服は日韓のみ? 週刊エコノミストに問う

中所得国の罠」を回避できたアジアの国と言えば、どこを思い浮かべるだろうか。個人的には日本、韓国、シンガポールを挙げたい。ところが、週刊エコノミスト10月17日号の特集「まるわかり中国」の中に「この罠を克服して先進国入りした国は、アジアでは日本、そして韓国くらいしかない」という説明が出てきた。そこでエコノミスト編集部に問い合わせを送ってみた。内容は以下の通り。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です


【エコノミストへの問い合わせ】

名古屋外国語大学教授 真家陽一様  週刊エコノミスト編集部 担当者様

10月17日号の特集「まるわかり中国」の中の「注目ポイント3 経済 1人当たりGDPが22年ぶり減少 『中所得国の罠』突破が最大の課題」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

中国がさらなる改革を推進する目的は、経済成長を持続可能にする体制を構築するためだ。しかし、その制約要因となるのが『中所得国の罠(わな)』の問題である。中所得国の罠とは、開発途上国が低賃金という優位性を生かして高成長を続け、中所得国の水準まで発展した後、人件費の水準が高まる一方で、産業の高度化が伴わず、国際競争力を失ってしまい、経済成長の停滞が続くという状態を指す。ブラジルや南アフリカなど世界の多くの開発途上国は中所得国の罠にはまっていると言われている。この罠を克服して先進国入りした国は、アジアでは日本、そして韓国くらいしかない

気になったのは「この罠を克服して先進国入りした国は、アジアでは日本、そして韓国くらいしかない」という部分です。記事では「国際通貨基金(IMF)によると、ドルベースでの中国の1人当たりGDPは、16年は8113ドル(約90万円)と既に中所得国の水準に入っている」との説明も出てくるので、真家様は1人当たりGDPをベースに「罠を克服して先進国入りした」かどうかを判断していると思われます。

そこで世界各国の1人当たりGDP(IMF調べ、2016年)を見ると、日本は22位、韓国は28位でした。一方、シンガポールは10位で日韓を上回っています。

また、内閣府の「世界経済の潮流 2013年II」という資料では「長期の高度成長を遂げたのちに中所得国の罠に陥った諸国としてアルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、メキシコ、タイ、安定成長を続けた諸国・地域として日本、アメリカ、韓国、香港、シンガポールを中国との比較対象に取り上げる」との記述もあり、シンガポールを「中所得国の罠にはまらなかった国」として取り上げています。

この罠を克服して先進国入りした国は、アジアでは日本、そして韓国くらいしかない」という記事中の説明は誤りではありませんか。シンガポールは「罠を克服」したアジアの国と言えるはずです。記事の説明で問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

1人当たりGDPランキングの上位にはカタールも入っていて、これをどう評価するかは難しい。だが、シンガポールは日韓と同様に「罠を克服」したアジアの国に入れていいはずだ。
豪雨被害を受けた朝倉光陽高校(福岡県朝倉市)
           ※写真と本文は無関係です

ついでに、記事でもう1つ指摘しておく。

【エコノミストの記事】

気になるデータがある。国際通貨基金(IMF)によると、ドルベースでの中国の1人当たりGDPは、16年は8113ドル(約90万円)と既に中所得国の水準に入っている。しかし、前年の8167ドルから減少に転じた。これは人民元の為替レートが元安に転じたという要因が大きいものの、ドルベースでの1人当たりGDPが前年比で減少となったのは、中国政府が「外貨管理体制改革に関する公告」を施行し、対米ドル為替レートを名目で33%切り下げた1994年以来、22年ぶりのことだ。

人民元の為替レートは05年7月の「通貨バスケット制度を参考とした管理フロート制度」への移行以降、上昇基調で推移。経済成長とも相まって、1人当たりGDPは15年まで年平均14・8%という驚異的な伸びで増加してきた。

しかし、ここ数年は1人当たりGDPの伸び率が鈍化の一途をたどっている。中国はまさに今、「中所得国の罠を回避して先進国へと脱皮するのか」、あるいは「中所得国の罠にはまり開発途上国にとどまるのか」という分岐点に差し掛かかる重要なターニングポイントを迎えているのである。



◎16年は「減少に転じた」のなら…

気になったのは「ここ数年は1人当たりGDPの伸び率が鈍化の一途をたどっている」という説明だ。「ドルベースでの中国の1人当たりGDPは、16年は8113ドル」で「前年の8167ドルから減少に転じた」はずだ。だとしたら、もはや「伸び率が鈍化の一途をたどっている」状況ではない。この言い方は、低水準でも伸びが続いている時に使うべきだ。


※今回取り上げた記事「注目ポイント3 経済 1人当たりGDPが22年ぶり減少 『中所得国の罠』突破が最大の課題
http://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20171017se1000000039000


※記事の評価はD(問題あり)。真家陽一 名古屋外国語大学教授への評価も暫定でDとする。

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