2020年2月8日土曜日

所有に関する世代間の「差の小ささ」に着目した日経「Pickデータ」に高評価

8日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「Pickデータ~平成生まれも家『買う』8割」という記事は興味深い内容だった。記事に付けた「『買う』『どちらかというと買う』の割合」というグラフを見ると、家、車、音楽に関して「平成世代」も「バブル世代」もほとんど差がないのが分かる。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事では以下のように解説している。

【日経の記事】

平成生まれの若い世代も家や車を買いたい――。カーディフ生命保険が昨年9月に実施した調査で、平成以降に生まれた20~34歳の約8割が家や車を「買う」と答えた。

調査では平成世代と35~49歳のロスジェネ世代、50~59歳のバブル世代に分け、男女2156人から回答を得た。家や車、音楽などを対象に「買う」や「借りる」「関心がない」など5つの選択肢を示したところ、家を「買う」「どちらかというと買う」を選んだ平成世代は78%でバブル世代の79%と肩を並べた。シェアリングエコノミーが浸透するとみられる若年層だが「家の所有に価値を見いだしている」(同社)ようだ



◎「差がない」ことも時には重要

平成世代」「バブル世代」といった世代を比較する場合、どうしても「こんなに違う」と強調したくなる。そして、それに合うデータを紹介しがちだ。しかし、差がないことも時には重要な意味を持つ。

シェアリングエコノミーが浸透するとみられる若年層」に関しては所有欲が乏しいと見られがちだ。日経も「ニッキィの大疑問~シェア経済、なぜ拡大? 所有欲少ない若者増える」という2018年3月12日付の記事では「『ミレニアル世代』と呼ばれる若年層を中心に、モノの所有にこだわらない風潮が広まっていることも見逃せません」と解説している。

実際には「若年層」も上の世代と大して差がない可能性を「カーディフ生命保険」の調査は示唆している。そこに着目して記事にした姿勢を高く評価したい。


※今回取り上げた記事「Pickデータ~平成生まれも家『買う』8割
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200208&ng=DGKKZO55382230X00C20A2PPE000


※記事の評価はB(優れている)

2020年2月7日金曜日

そもそも「寡占」成立してた? 日経「国際送金、崩れる銀行寡占」

7日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「国際送金、崩れる銀行寡占~スマホ・ネットが店舗経由逆転へ フィンテック、手数料安く」という記事は二重に問題がある。そもそも「銀行寡占」があったのか。仮にあったとして、最近になって「崩れようとしている」のか。
亀山上皇銅像(福岡市)※写真と本文は無関係です

最初の段落を見てみよう。

【日経の記事】

フィンテックの浸透で国際送金分野で銀行寡占が崩れようとしている。スマートフォンやブロックチェーン(分散台帳技術)を使った高速で手数料が安い送金が伸びをけん引し、市場規模は7000億ドル(約76兆円)を突破した。スマホやネットを使う送金は近く銀行などの店舗を経由する送金を追い抜きそうだ



◎まだ「崩れ」てない?

銀行寡占が崩れようとしている」というのだから、まだ「崩れ」てはいないのだろう。しかし「スマホやネットを使う送金は近く銀行などの店舗を経由する送金を追い抜きそうだ」とも書いている。ならば既に「銀行寡占が崩れ」ていると理解するのが自然ではないか。

続きを見てから、さらに考えよう。

【日経の記事】

外国で働く労働者や移民が増え、母国に送金するニーズが高まっている。銀行口座を持たない人でも携帯電話だけで送金できるサービスが普及していることも国際送金が増えている要因だ。

「アジアへの国際送金の件数、金額で断トツだ」。SBIホールディングスの北尾吉孝最高経営責任者(CEO)は19年12月、投資家向け説明会でこう話した。SBIレミットは17年、米リップルのブロックチェーンを使った国際送金サービスを始めた。当初はタイ向け、19年11月にはベトナム向けを始めた。20年前半までにインド向けも始める。

送金国や金額によって異なるが、手数料は最低460円だ。インターネットバンキングでも3000円程度かかる大手行に比べて格段に安い。リップルを採用した相手国向けの送金では数秒で着金する。日本からアジア各国向けの同社の送金シェア(銀行含む)は4割超に上るという。


◎既に「送金シェアは4割超」ならば…

日本からアジア各国向け」では「SBIホールディングス」の「送金シェア(銀行含む)は4割超に上る」らしい。「アジア各国向け」「銀行含む」という条件付きなので断定はできないが、やはり「銀行寡占」は崩壊済みと理解したくなる。

さらに言えば、そもそも「銀行寡占」が成立していたのか疑問だ。ネットで「国際送金」について調べると、国内に限っても大手行に加えて複数の地方銀行の名前が出てくる。「国際送金」を手掛ける「銀行」が片手で足りるぐらいでないと「銀行寡占」とは言い難い。実際は、両手に余る「銀行」が「国際送金」を手掛けているのではないか。

無理に記事を盛り上げようとして説得力を失ってしまったと見るべきだろう。


※今回取り上げた記事「国際送金、崩れる銀行寡占~スマホ・ネットが店舗経由逆転へ フィンテック、手数料安く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200207&ng=DGKKZO55332600W0A200C2EE9000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年2月5日水曜日

配当利回りと預金金利の比較が罪深い深野康彦ファイナンシャルリサーチ代表

配当利回りと預金金利を比べて株式投資に誘い込む記事は珍しくない。比較してはいけないものを比較しており、参考にしてはダメだ。週刊エコノミスト2月11日号にファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏が書いた「配当を楽しむ~優待と併せて高利回り狙え 長期保有優遇も賢く利用」という記事もその1つ。
シップスガーデン(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事の前半を見ていこう。

【エコノミストの記事】

国内外に経済の不透明要因が山積している中、2020年は、持ち続けることで得られるインカムゲイン狙いに徹した、大負けしない堅実な投資を心がけるべきだと考える。幸いにしてインカムゲイン狙いの投資には追い風が吹いている。企業は株主への利益還元を年々増やす傾向にあり、今期の配当金総額は過去最高を更新すると予測されている。自社株買いもしかりで、「株主還元」に着目した投資は時代にマッチしているとも言えそうだ。

個人投資家にとってわかりやすい株主還元は、配当金と株主優待だろう。超低金利になって久しく、さらなる長期化も予想されているが、東証1部上場銘柄の有配会社平均配当利回りは1・93%(19年12月)もある。長期金利は0%近辺、メガバンクの1年定期預金の金利が0・01%であることを考えれば、かなりの高利回りといえるだろう。一例を挙げると、みずほ銀行の1年定期預金は0・01%だが、親会社であるみずほフィナンシャルグループの配当利回りは4・50%程度と、預金金利の450倍もある

預金は元本保証で株式は元本保証ではないが、仮に配当金が変わらなければ、23年間保有し続けることで配当金で投資元本を回収。24年目以降は定期預金の収益を上回り、かつ保有期間が長くなるほどその差は大きくなることだろう。四半世紀も保有し続ければ、売却益を狙うチャンスもあるだろうから、試算より短い期間で元本回収と高収益をもたらしてくれるのではないか。定期預金の金利が上昇することもありうるだろうが、過去にメガバンクの金利が1・0%を超えていたのは1995年までさかのぼる必要がある。単純に四半世紀保有するとすれば、どちらに投資したほうが賢いのかは言わずもがなであろう


◎本質的に別物なのに…

みずほ銀行の1年定期預金は0・01%だが、親会社であるみずほフィナンシャルグループの配当利回りは4・50%程度と、預金金利の450倍もある」と言われると「なるほど。株を買う方が得だな」と思う投資初心者もいるだろう。

預金は元本保証で株式は元本保証ではない」と深野氏も断っており、これはその通りだ。だが、問題はそこではない。「配当金」を受け取ると、その分は株式の価値が減るのでプラスマイナスはゼロだということだ。「配当金」を大幅に増やせば、配当の支払い後に株価は大幅に下がる(他の要因では株価が動かないと仮定)。

預金金利」は増えれば増えるほど預金者の利益になる。そこが「配当金」との決定的な違いだ。市場心理的な面を無視すれば、配当に着目して投資戦略を考える意味はない。キャピタルゲインと「インカムゲイン」を分けて投資判断するのは非合理的だ。必ずトータルでリターンを見てほしい。

単純に四半世紀保有するとすれば、どちらに投資したほうが賢いのかは言わずもがなであろう」と深野氏は語りかけてくるが「言わずもがな」とは思えない。「配当金が変わらなければ」という前提付きの試算だ。その前提でも「投資元本を回収」するのに「23年間」もかかる。この比較だけでは何とも言えない。

この手の比較をするならば「預金金利」と社債利回りの方が好ましい。例えば、日本を代表する優良企業であるトヨタ自動車の社債利回りが「4・50%程度」ならば信用リスクを勘案しても魅力的だと思えるが…。


※今回取り上げた記事「配当を楽しむ~優待と併せて高利回り狙え 長期保有優遇も賢く利用
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200211/se1/00m/020/051000c


※記事の評価はD(問題あり)。深野康彦氏への評価も暫定でDとする。

2020年2月4日火曜日

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説

ブラックスワン」は要注意の言葉だ。記事を手軽に彩れるが、大抵の場合は「マーケットにおいて事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象」(SMBC日興証券の用語集)とは言い難い。3日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「市場が恐れる『黒い白鳥』~新型肺炎拡大 政策手段に限界」という記事にも、それは当てはまる。
亀山上皇銅像(福岡市)※写真と本文は無関係

筆者の藤田和明編集委員は以下のように書いている。

【日経の記事】

昨年5月に聞いた話は予言だったのだろうか。来日した米有力投資ファンド、カーライル・グループの創業者、デビッド・ルーベンスタイン氏に質問した。「いまの金融市場にとって、ブラックスワンは何でしょうか」。同氏の答えは、中東など世界各地での軍事衝突リスク、米国や日本の政府債務問題の2つに加えて、もうひとつあった。「ウイルスによる世界的な疫病の流行(パンデミック)だろう」

ブラックスワンとは「黒い白鳥」。かつてオーストラリアで黒い白鳥が発見され、白鳥は白だという常識が覆されたことが由来だ。従来の常識的な経験からは想定のできなかった事象が起き、それが衝撃となって大きな影響を人々に与えることをいう。


◎「まさか」がある?

中東など世界各地での軍事衝突リスク、米国や日本の政府債務問題」に「ウイルスによる世界的な疫病の流行(パンデミック)」--。どれも「事前にほとんど予想」できない事象とは思えない。「世界的な疫病の流行」はこれまで繰り返し起きているのに「ブラックスワン」と言えるのか。

例えば「日本、中国、韓国、北朝鮮が2020年に統一国家を作る」といった話ならば、確かに「ブラックスワン」だと思えるが…。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

新型肺炎は日を追って深刻さを増している。世界規模に広がるパンデミックとなれば、ルーベンスタイン氏の懸念が現実のものになってしまいかねない

米ムーディーズ・アナリティクスは「ほかに例のないブラックスワンになりうる」とのリポートを出した。08~09年の金融危機はまだ、米不動産市場の悪化が事前にわかっていた。今回は誰も予想してない事態だ。しかも金融危機への政策対応と異なり、健康にかかわる問題ゆえに政策手段は限られるとの指摘だ。



◎矛盾してない?

ルーベンスタイン氏の懸念が現実のものになってしまいかねない」状況なのに「今回は誰も予想してない事態」なのか。「ルーベンスタイン氏」は「世界的な疫病の流行」があり得ると「予想」していたのではないか。

今回の「新型肺炎」は本当に「従来の常識的な経験からは想定のできなかった事象」になりそうなのか。藤田編集委員も分かっているはずだ。

なのに記事の最後では「衝撃が大きく、人々の考え方にも影響するのがブラックスワン。だとすれば、この先のマネーの大きな方向性をも左右する問題になりうるとみておかなければならないだろう」と結んでいる。「新型肺炎」が「マネーの大きな方向性をも左右する問題になりうる」のは否定しない。しかし「ブラックスワン」かと言われたら明らかに違う。

従来の常識的な経験」から「想定」できていた「事象」だと断言できる。藤田編集委員は「世界的な疫病の流行」などもう起きないと確信していたのだろうか。



※今回取り上げた記事「市場が恐れる『黒い白鳥』~新型肺炎拡大 政策手段に限界
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200203&ng=DGKKZO55173190T00C20A2EAF000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価はDを維持する。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

2020年2月3日月曜日

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見

3日の日本経済新聞朝刊女性面に立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏が書いた「ダイバーシティ進化論~育休、男女の別なく 制度見直せば『常識』に」という記事には偏見が目立った。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

順に見ていこう。

【日経の記事】 

日本の企業には今も、女性社員に対して出産のタイミングをよく考えるようアドバイスする上司がいる。だが仕事と出産をてんびんにかけるという考え自体がゆがんでいる。「仕事も出産も」というのが世界の常識で、子育てをバックアップする社会システムができていれば出産はしたいときにするのが一番幸せだ。



◎個人の自由では?

仕事と出産をてんびんにかけるという考え自体がゆがんでいる」と出口氏は言うが、同意できない。例えば、五輪出場を目指すプロの女子選手が「出産は五輪が終わってから」と考えるのは「ゆがんでいる」のか。「出産はしたいときにするのが一番幸せ」ならば、「仕事と出産をてんびんにかけ」て出産時期を選ぶのも個人の自由ではないか。

次に移ろう。

【日経の記事】

カップルで生活するなら相手は家族思いの人がいいだろう。家族思いの正体はオキシトシンだ。女性は出産の時に出るが、男性は子育てすることによって出る。いい男性をつくるには子育てをする以外にない



◎子育てしないと「家族思い」にならない?

この説明が正しければ、子供のいない夫婦で「子育てをする」環境にない人は「家族思い」にはならないのだろう。しかし、子供がいなくてもお互いを思いやる「家族思い」の「カップル」はいくらもいるはずだ。

オキシトシン」が「家族思い」と関係ないとは言わないが、「家族思いの正体はオキシトシンだ」との説明は物事を単純に捉え過ぎている気がする。

さらに見ていこう。最も問題を感じたのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

こういう知識があれば、小泉進次郎環境相の育休は当然のことと理解できる。ニュージーランドでは現職の首相が在任中に出産して休みを取り、今はパートナーが面倒を見ている。去年のラグビーW杯では、オールブラックスのキャンプ地が大学のある大分で、観光客が大勢来ていた。彼らに首相のことを聞くと皆、誇りに思っているという。「彼女はスマートで賢く、判断に誤りがない。育休なんて何の問題もない。風邪で休んだのと同じだ」と。

賛否両論が沸き起こるのは、日本が世界に遅れた男尊女卑の国だからといえる。日本をいい社会にするため、経済を好転させるため、少子高齢化を克服するためにも今、一番に取り組まなければいけないのは男女差別の根絶であり、男尊女卑意識の払拭だ。


◎日本は「男尊女卑」?

賛否両論が沸き起こるのは、日本が世界に遅れた男尊女卑の国だからといえる」という説明は二重に問題がある。

まず「ニュージーランド」では「現職の首相が在任中に出産して休み」を取ったことに「賛否両論」がなかったかのような書き方をしている点だ。NHKのインタビューでこの「首相」は以下のように語っている。

正直に言うと、国民に自分の妊娠を告げるのは、とても緊張しました。ニュージーランドでは前例がないことで、人々がどう反応するか、基準にできるものはありませんでした。もちろん否定的なことをいう少数の人たちはいました。しかし本当にごく少数の人たちでした。国民からとても支持されたと感じています

ニュージーランド」でも「賛否両論」があったことを「首相」自身が認めている。「賛否両論」があるのは健全なことだ。それを以って「世界に遅れた男尊女卑の国」と決め付けるのは正しいのか。出口氏の考えに従えば「ニュージーランド」も「世界に遅れた男尊女卑の国」と言えなくもないが…。

育休」に関しては、女性が取りやすく男性が取りにくい社会的な雰囲気はある。これは出口氏も認めるだろう。「小泉進次郎環境相の育休」問題もそこと絡んでくる。

この状況を「男尊女卑」と捉えるのが謎だ。逆ではないか。男性の方が権利を行使しづらいのだから、どちらかと言えば「女尊男卑」の問題だ。この辺りに出口氏の偏見が垣間見える。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

社会の常識は、日々の新聞やSNS、近所の人の話によってつくり上げられる。人間の意識は、勉強しない限り、その社会の常識を映すだけだ。だから仕事と育児の両立は当たり前、とするためには制度を変える必要がある。具体的にはクオータ制の導入や、性分業が根底にある「配偶者控除」と「第3号被保険者」の撤廃だ。仕組みを変えないと人間の意識は変わらない。



◎3つだけで決まる?

上記のくだりもツッコミどころが多い。「社会の常識は、日々の新聞やSNS、近所の人の話によってつくり上げられる」と出口氏は言う。「日々の新聞やSNS、近所の人の話」という3つで決まるのか。テレビ、雑誌、学校での会話などは関係ないのか。ここでも問題を単純に捉え過ぎている。

人間の意識は、勉強しない限り、その社会の常識を映すだけだ」という説明が正しければ、「意識」を変えるために必要なのは「勉強」だ。しかしなぜか「だから仕事と育児の両立は当たり前、とするためには制度を変える必要がある」と続く。「制度を変え」なくても「勉強」すれば「意識」を変えられるのではないのか。

それに「仕事と育児の両立は当たり前」という「意識」は日本に根付いているのではないか。そんなに奇異な考えではない。それが「クオータ制の導入」などによって定着するという論理も謎だ。

記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

育児休業は留学と同じと見なし、給与は全額保証すればいい。賢くなって戻ってくるのだから。そうすれば男女とも安心して育休が取れる。最初の1年間は全額保証し、その後給付を減らしていけば、人は仕事に戻る。0歳児は最も育児コストがかかるので、政府としてもその方が合理的だ。

保育所は希望者全員義務保育にすれば待機児童は0になる。高層マンションができて小学校が足りないとニュースになるが、実際、小学校に入れなかった子供はいるか? 法律があれば自治体は対応するのだ。


◎給与を全額保証すれば「安心して育休」?

給与」を「全額保証」すれば「男女とも安心して育休が取れる」と出口氏は言う。これも問題を単純に捉え過ぎている。「育休」取得が職場での評価に響かないか。その間に仕事面で同僚に後れを取らないか。そういった問題もクリアしないと「男女とも安心して育休が取れる」ようにはならないだろう。

付け加えると「その後給付を減らしていけば」という説明も引っかかる。どのぐらいの期間「給付」をすべきとの考えなのか。

入社直後に妊娠し、その後に次々と子供を産む場合、ほとんど働かずに「給与」を10年単位でもらい続けるケースが出てくるはずだ。それを全て企業負担とするのか。その辺りを出口氏はしっかり考えているのだろうか。



※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~育休、男女の別なく 制度見直せば『常識』に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200203&ng=DGKKZO55093270R30C20A1TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価はDで据え置く。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

2020年2月2日日曜日

記事の「構成」他人任せの週刊ダイヤモンド深澤献論説委員に引退勧告

週刊ダイヤモンドの深澤献論説委員には書き手としての引退を勧告したい。編集長時代に読者からの間違い指摘を無視して記事中のミスを放置し続けただけでも十分に罪深い。加えて2月8日号の「イノベーターの育ち方(第29回)中川祥太/キャスターCEO~小5で『もう勉強しない』と宣言した開業医の長男が『新しい働き方』で起業するまで」という記事が問題だ。
博多リバレインモール(福岡市)※写真と本文は無関係

まず「聞き手」が深澤論説委員で「構成」がライターの片瀬京子氏となっているのに呆れる。編集長時代ならば「多忙だから」と弁明できたかもしれないが「論説委員」の肩書を付けているのに「構成」を他の人に任せてどうする。自分で「構成」を考えるのが難しいのならば、後進に道を譲るべきだ。

前置きが長くなった。記事に出てくる「キャスターCEO」の「中川祥太」氏の発言には色々と疑問が浮かぶ。「中川祥太」氏がおかしな話をしてきたら、そこは深澤論説委員がツッコミを入れてほしい。「中川祥太」氏はきちんと話をしているのに「構成」が下手だから訳の分からない内容になっている可能性ももちろんある。

ともかく中身を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

──医者になることを意識していましたか。

してないですね。目の前に問題があるから解く。好き嫌いではなく、できたからやっただけです。

──ところが受験勉強は小5で“卒業”したそうですね。

 はい。塾の授業中、算数だったかな、俺の隣にいた子が分かってなかったので俺が教えたんです。そしたら先生に「こいつはおまえに教わりに来てるんじゃない」と怒られてしまい、それで勉強をやめました。この人たちのために頑張っても意味がないと、一気に冷めてしまったんです。家でも勉強しなくなって、塾の授業も惰性で受けるようになりました。

親からは「受験が終わったら勉強しなくていい」と言われて、一応、適当に受験はしましたが、周りに「俺は中学に入っても勉強はしない」と宣言していました。



◎「この人たちのために頑張って」た?

受験勉強」は「目の前に問題があるから解く。好き嫌いではなく、できたからやっただけ」と最初に述べている。

しかし、塾で「先生」に「怒られ」たことで「この人たちのために頑張っても意味がないと、一気に冷めてしまった」らしい。「この人たち」とは「先生」たちなのだろう。「目の前に問題があるから解く。好き嫌いではなく、できたからやっただけ」ではなかったのか。「この人たちのために頑張って」いたのか。

そもそも「この人たち=先生たち」のために「受験勉強」を「頑張って」いたのが解せない。そんなに「先生」が大事だったのか。親の期待に応えるために「頑張って」いたのならばまだ分かるが…。

謎は他にもある。

【ダイヤモンドの記事】

──入学したのは奈良の中高一貫の進学校、西大和学園です。

入って最初のテストから最下位でした。問題を見た瞬間から解く気がありませんでした。そこから6年間、成績はずっと最下位近辺です。三者面談でも「どうしましょう」という話になって、親も最初はごちゃごちゃ言ってましたけど、そのうち「確かに勉強しなくていいと言ったし、自分で決めたことだし」という感じでした。

──勉強はしないけれど登校はしていたんですね。

大阪から奈良までなので、往復2時間半から3時間かかるんですけど、通学はしていました。授業中は寝ているか本を読むか、放課後は他校の友達と繁華街で遊んだりもしていましたが、それでも暇なので、中2で「音楽やってみようかな」と、ベースを始めました。



◎どうして卒業できた?

経歴を見ると「中川祥太」氏は高校を卒業しているようだ。「『俺は中学に入っても勉強はしない』と宣言」し、中学に「入って最初のテスト」で「問題を見た瞬間から解く気がありませんでした」という状態ならば、「6年間」通っても高校は卒業できないはずだ。あるいは「西大和学園」はテストが全部0点でも卒業できるのか。

成績はずっと最下位近辺」というのも引っかかる。「テスト」で「解く気」が全くないのならば「最下位」が定位置のはずだ。なぜ「近辺」なのか。「最下位」ではない時もあったのではないか。だとすると、多少は「問題」を解いていた疑いが出てくる。

次に進もう。

【ダイヤモンドの記事】

──大学生活は?

大学も1年目から授業に出ず、お金を稼ごうとアルバイトをしていました。バンドでオリジナルをやりながら、スタジオミュージシャンをやったりプロにローディとして同行して手伝ったり。でも、ミュージシャンって稼げないんですよ。いくらうまくても稼げなくてはしんどい。

ところが、たまたま始めたライブドアマーケティングのテレアポのバイトが、アホみたいに稼げるんです。勢いのある世界とない世界があることも知って、音楽じゃないことをしようと決めました。



◎いきなり「ローディ」…

まず何の注釈も付けずに「ローディ」を使っているのは記事の作り手に問題がある。ダイヤモンドの読者のほとんどが理解できる言葉だと思っているのか。
筑後川サイクリングロード(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

ついでに言うと「ミュージシャンって稼げないんですよ」は言い訳に聞こえる。莫大なカネを手にした「ミュージシャン」はたくさんいる。それは一握りで、大多数の「ミュージシャン」は「稼げない」かもしれないが、だからと言って「ミュージシャンって稼げないんですよ」とひとまとめにするのはちょっと…。

さらに見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

──テレアポでのストレス耐性だけでなく、勉強をやめると宣言して以降、本当に一切やらなかったというのも含め、メンタルの強さがうかがわれますが、それは持って生まれたものですか。

うちは、父も祖父も医者、曽祖父は満州の建築家でした。サラリーマンがいないので、他の人と違うことが怖いという感覚がないんです。こうあるべき、がない



◎「サラリーマンがいないので」?

サラリーマンがいないので、他の人と違うことが怖いという感覚がない」という説明が謎だ。「父も祖父も医者」だと「自分も医者にならないと…」といった「感覚」が生まれても不思議ではない。

父も祖父も医者、曽祖父は満州の建築家」だとしたら、アウトロー的な生き方を誰もしていない。なのに「こうあるべき、がない」となるのか。

最後にもう1つ。

【ダイヤモンドの記事】

──では中川さんがストレスを感じるものは何ですか。

満員電車ですね。上京して原宿駅に行ったとき、狭いホームにたくさんの人が立っていて、そこに電車が入ってくるのを見て、やばい、東京で電車には乗りたくないと思いました

すぐにバイクの免許を取って、移動はバイクになりました。その後、会社員になってからも会社に内緒でバイクで通っていました。



◎大阪にも「満員電車」はあるが…

中川祥太」氏は大阪府の出身で、中学高校時代について「大阪から奈良までなので、往復2時間半から3時間かかるんですけど、通学はしていました」と語っている。だとしたら大阪で「満員電車」を経験しているはずだが…。

ド田舎から上京して「満員電車」に驚いたかのような話をしているのが引っかかる。「東京で電車には乗りたくない」と言うが、大阪の「満員電車」は平気なのだろうか。

あれこれ書いてきたが、深澤論説委員はこうした点に何の疑問も持たなかったのか。だとしたら「聞き手」としても力不足だ。

やはり引退が最善の選択だと思える。


※今回取り上げた記事「イノベーターの育ち方(第29回)中川祥太/キャスターCEO~小5で『もう勉強しない』と宣言した開業医の長男が『新しい働き方』で起業するまで
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/28647


※記事の評価はD(問題あり)。深澤献論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

AIに関する週刊ダイヤモンド深澤献編集長の珍説を検証
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_6.html

西船橋は「都心」? 週刊ダイヤモンド特集「勝つ街負ける街」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_79.html

「昔の人は早熟」? 週刊ダイヤモンド深澤献編集長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_11.html

2020年2月1日土曜日

記事の柱を意識してる? 日経 細川幸太郎記者「LG系、TV液晶韓国生産中止」

ニュース記事を書く時は「何が柱なのか」を意識する必要がある。1日の日本経済新聞朝刊企業・アジアBiz面に細川幸太郎記者が書いた「TV液晶韓国生産中止~LG系、中国勢攻勢で採算悪化」という記事は、そこが欠けている。
筑後川橋(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

液晶パネル世界最大手の韓国LGディスプレーは31日、国内でのテレビ向け液晶パネルの生産を中止する方針を明らかにした。韓国北部にある工場のラインを年内に止める。液晶パネルは中国勢が生産を増やして市況が悪化しており、採算改善の見通しが立たないためだ。同日発表の2019年12月期の連結決算は8年ぶりに営業損益が赤字に転落し、赤字額も過去最大となった。

生産中止は同日の決算発表後の電話会見で、徐東熙(ソ・ドンヒ)最高財務責任者(CFO)が明らかにした。徐氏は「液晶パネル市場の変化に適応するため生産能力の最適化を進める」と話し、収益悪化に歯止めがかからないテレビ向けパネルから自動車や産業用パネルへの転換を模索するという。

韓国の坡州(パジュ)にある工場を止め、テレビ向け液晶パネルは中国広州市の自社工場で生産を続ける

LGDの19年10~12月期の連結決算は、営業損益が4220億ウォン(約390億円)の赤字(前年同期は2790億ウォンの黒字)で、売上高は8%減の6兆4220億ウォンだった。液晶パネルの市況悪化が最大の要因。19年通期の営業損益は1兆3590億ウォンの赤字だった。

さらにLGDは10~12月期に資産の評価損で1兆6000億ウォンの特別損失を計上した。そのうち1兆4000億ウォン分が、米アップルのiPhone向けの有機ELパネルラインの減損だ。LGDは19年からiPhone向けに有機ELパネルの供給を始めたものの品質が安定せず納入量が伸び悩んだ。


◎肝心なところが…

液晶パネル世界最大手の韓国LGディスプレーは31日、国内でのテレビ向け液晶パネルの生産を中止する方針を明らかにした」と冒頭で記し、見出しでも「TV液晶韓国生産中止」と打ち出している。どう考えても「TV液晶韓国生産中止」が記事の柱だ。しかし、記事の約半分を決算の説明に費やしており、「生産中止」に関する情報が乏しい。何が記事のメインなのか、あまり考えずに書いたのだろう。

LGディスプレー」が「坡州(パジュ)にある工場を止め」るとどの程度の生産減になるのかは絶対に入れたい情報だ。「テレビ向け液晶パネルは中国広州市の自社工場で生産を続ける」ようなので、こちらの生産規模も知りたい。

中国広州市の自社工場」は競争力が高く「中国勢」に十分対抗できるのか。「坡州(パジュ)にある工場を止め」ても「液晶パネル世界最大手」の地位は確保できるのか。その辺りも気になるところだ。

しかし、記事の後半は決算内容の説明に終始している。決算に触れるなとは言わない。しかし、それは「TV液晶韓国生産中止」に関してしっかり書き込んでからでいい。今回のレベルで「しっかり書き込んだ」と思っているのならば、認識が甘すぎる。

ついでに言うと、決算についてもなぜ「営業損益」で書いているのかとの疑問が残った。「10~12月期に資産の評価損で1兆6000億ウォンの特別損失を計上した」のならば、その影響も反映される最終損益ベースで説明する方が適切ではないか。

最終損益での「赤字額も過去最大となった」のかは知りたい。


※今回取り上げた記事「TV液晶韓国生産中止~LG系、中国勢攻勢で採算悪化


※記事の評価はD(問題あり)。細川幸太郎記者への評価もDを据え置く。細川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「北朝鮮、日本上空越える『発射』を示唆」で感じた日経とNHKの実力差
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/nhk.html

適法でも「ライドシェア起訴」? 理解に苦しむ日経 細川幸太郎記者の記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_9.html