2019年2月7日木曜日

「オリオン買収」に関する日経ビジネス長江優子記者の誤解

日経ビジネス2月4日号の「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず」という記事で、「オリオン買収」に絡めて「今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」と筆者の長江優子記者は結論付けている。しかし「先駆けとみること」はできない気がする。

鏡山(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係
この件に関する問い合わせと回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 長江優子様

2月4日号の「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず」という記事についてお尋ねします。記事では「国内ビール5位のオリオンビールが野村ホールディングスと米カーライル・グループに買収されることが決まった」ことを受けて「今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」と解説しています。

「オリオンの2018年3月期の売上高は283億円」なので「中小」に分類するのは厳しい気もしますが、長江様の見解に従って「中小」だとしましょう。この場合「カーライル」自身が既に「日本の中小の経営」に手を出した実績があります。2003年のキトー買収です。03年3月期のキトーの売上高が200億円をやや超える程度なので、「オリオン」が「中小」ならばキトーも「中小」に入るはずです。03年の時点で「カーライル」自ら「日本の中小の経営」に手を出していたのに「今回のTOB」を「ファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみる」のは無理がありませんか。

他にも「ファンドが日本の中小の経営に手を出す」動きは珍しくありません。日本大百科全書(ニッポニカ)では「中小企業再生ファンド」に関して「2012年から2013年初頭にかけ、全国で中小企業再生ファンドの設立ラッシュとなり、新規ファンド額は2012年度だけで1000億円を超えている」と説明しています。

これらを考え合わせると「(オリオンに対する)今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」との説明は誤りではありませんか。

他にも疑問に感じた点を挙げておきます。

(1)「オリオンは経営の立て直しが必要」ですか?

「オリオン」に関して「規模は小さいが、沖縄県内で高シェアを保つ。営業利益率は10.75%と高く、国内大手メーカーが買収してもよさそうだ」と長江様は説明しています。ここからは「経営面で大きな問題はない」と読み取れます。

しかし、その後に「アサヒの幹部は『オリオンは経営の立て直しが必要』と終始、距離を置いていた」と出てきます。こちらを信じれば、「オリオンは経営の立て直しが必要」な追い詰められた状況です。「営業利益率は10.75%」ならば安泰とは言いません。ただ、「立て直しが必要」なほど経営状況が悪いのならば、それが分かるような材料を読者に提示すべきでしょう。

(2)「協力」には出資が必須ですか?

記事には「2002年の提携以降、アサヒはオリオンに社員を出向させ、販売支援だけでなく製造開発で技術を供与。今回、アサヒが株式を持ち続けるのも『アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる』(アサヒ幹部)からだという」との記述があります。ここには2つの疑問を感じます。

「アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる」から「アサヒが株式を持ち続ける」のだとしたら「アサヒには何のメリットもないのに、オリオンが商品を作り続けられるように株式保有を続ける」とも考えられます。上場企業として褒められたやり方ではありません。アサヒは本当に慈善事業のような感覚でオリオンの株式を保有しているのでしょうか。記事からはそう判断できますが、常識的にはあり得ない気がします。

さらに言えば「アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる」としても「アサヒが株式を持ち続ける」必要はないはずです。「オリオンに社員を出向させ、販売支援だけでなく製造開発で技術を供与」するのに出資は必須ではありません。業務提携で十分です。

百歩譲って株式保有が欠かせないとしても、出資比率は10%でなくてもいいはずです。アサヒにとって必要のない株式保有ならば出資比率ははるべく低く抑えたいはずです。10%でないとダメな理由があるのでしょうか。あるならば記事中で説明が欲しいところです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させていただきます。

今回のスキームに参加している野村ホールディングスは、高齢化社会の進展を受け、事業承継に伴う悩みが増えているとみて、出資を通じたソリューションビジネスを提供する意向を示し、カーライルと手を組みました。このため、ファンドが中小の経営に関与するビジネスが今後本格化する先駆けという意味で記事化しましたが、初めてのことと受け止められ、誤解を生む余地があったかもしれません。真摯に受け止め、その他のご意見も含め、今後の記事の参考にさせて頂きたいと思います。

以上です。引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

回答の内容自体は苦しい。ただ、これでいいと思う。全体を通して、あまり深く考えずに記事を作った印象が強い。「それではダメだ」と長江記者が気付いてくれることを期待したい。


※今回取り上げた記事「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00024/


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価はDで確定させる。長江記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_26.html

2019年2月6日水曜日

「牛丼大手の収益明暗」に感じる日経 亀井亜莉紗記者の未熟さ

6日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「牛丼大手の収益明暗~ゼンショー、季節商品好評 吉野家、セルフ化で遅れ」という記事は、厳しく言えば「まともな説明」ができていない。記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。
別府海浜砂湯(大分県別府市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

牛丼大手3社の収益の明暗が分かれている。「すき家」を展開するゼンショーホールディングスは5日、2018年4~12月期が営業増益になったと発表した。一方、松屋フーズホールディングスは同営業減益、吉野家ホールディングスの18年3~11月期営業損益は9年ぶりの赤字だった。人件費や原材料費が高騰する中、顧客満足度や値上げ力、業務の効率性という3要素を満たしているかどうかで収益力に差が付いた。

 ゼンショーHDの18年4~12月期の連結営業利益は、前年同期比7%増の146億円だった。

同社はすき家でほぼ毎月、「お好み牛玉丼」など季節限定の商品を投入する。値段は500円と定番の並盛り(350円)より4割以上高いが、目新しいメニューが好評で昨年8月以降は既存店客数が増え続けており、顧客満足度が高い。

一方、吉野家HDは季節商品の展開時期を見誤った。人気の大型メニューである「牛すき鍋膳」の投入が11月1日からと例年より遅くなった。

値上げの巧拙でも明暗が分かれた。松屋フーズとゼンショーHDの2社は18年4月までに定番メニューで値上げしており、今期の材料高や人件費の負担増を補っている。吉野家HDは、14年の値上げで客離れを招いた苦い経験から、足元のコスト高にもかかわらず価格改定を見送った。

業務の効率性でも差がある。松屋フーズはセルフサービス店を増やし、売上高に占める人件費の割合を引き下げた。ゼンショーHDは需要予測の精度を高めたことで食材ロスが減少している。吉野家HDはセルフ店への改装が20店程度にとどまり、現時点では業績への貢献は低いとみられる。

外食業界は消費者の節約志向にも左右されやすい。ゼンショーHD、松屋フーズも足元は好調でも事業環境が急変するリスクはつきまとう。高い顧客満足度に裏付けられた値上げ力や業務効率化に終わりはない。


◎松屋フーズは好調組?

「牛丼大手3社の収益の明暗が分かれている」と冒頭で打ち出し、「ゼンショーホールディングスは5日、2018年4~12月期が営業増益になったと発表」「一方、松屋フーズホールディングスは同営業減益、吉野家ホールディングスの18年3~11月期営業損益は9年ぶりの赤字」と書いている。ならば「明」が「ゼンショーHD」で、「暗」が「松屋フーズ」と「吉野家HD」のはずだ。しかし、この後の分析で筆者の亀井亜莉紗記者は「松屋フーズ」を「明」に入れている。

「値上げの巧拙でも明暗が分かれた。松屋フーズとゼンショーHDの2社は18年4月までに定番メニューで値上げしており、今期の材料高や人件費の負担増を補っている」との記述からは「松屋フーズ」がうまく「値上げ」をしてきたと読み取れる。「松屋フーズはセルフサービス店を増やし、売上高に占める人件費の割合を引き下げた」「松屋フーズも足元は好調」といった説明も、「松屋フーズ」が「明」に入ると示している。

どうしても「松屋フーズ」を「明」として描きたいのならば、営業利益を用いてはダメだ。仮に経常利益で「ゼンショーHD」と「松屋フーズ」が増益、「吉野家HD」が減益ならば、経常利益を前面に出せばいい。適当なものがない場合、「松屋フーズ」を「明」に入れるのは諦めるべきだ。

ついでに言うと、外食や小売りの業績関連記事を書く時には、既存店売上高の増減率をなるべく入れた方がいい。店舗の競争力を示す重要な指標だからだ。今回の記事では「ゼンショーHD」に関して「昨年8月以降は既存店客数が増え続けており」とは書いているが、既存店売上高は全く出てこない。

「牛丼大手3社の収益の明暗が分かれている」のであれば、既存店売上高の増減でどの程度「明暗が分かれている」のかは知りたくなる。

最後の段落の「外食業界は消費者の節約志向にも左右されやすい。ゼンショーHD、松屋フーズも足元は好調でも事業環境が急変するリスクはつきまとう。高い顧客満足度に裏付けられた値上げ力や業務効率化に終わりはない」という説明はなくてもいい。当たり前のことを書いているだけだ。ここを削って、より重要な情報を盛り込んでほしかった。

記事から判断すると、亀井記者は業績関連記事を書くための十分な実力をまだ身に付けていないのだろう。若手記者ならば仕方のない面もある。問題は担当デスクだ。今回の記事を読んで「まともな分析記事になってないな」と気付かなかったのならば、記者時代もきちんとした分析記事は書けていないと思える。


※今回取り上げた記事「牛丼大手の収益明暗~ゼンショー、季節商品好評 吉野家、セルフ化で遅れ」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190206&ng=DGKKZO40943810V00C19A2TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。亀井亜莉紗記者への評価も暫定でDとする。

2019年2月5日火曜日

小久保裕紀氏は巨人での特別扱いに自覚なし? 日経「スポートピア」

「かなりの特別扱いを受けていたのに、本人にはその自覚がないのかな」--。5日の日本経済新聞朝刊スポーツ面に前侍ジャパン代表監督の小久保裕紀氏が書いた「スポートピア~移籍を『吉』とするには」という記事を読んでそう感じた。「トレードでダイエー(現ソフトバンク)から巨人に移籍した」当時を小久保氏は以下のように振り返っている。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

選手人生の転機になりうる移籍。それを「吉」とするためにはいくつかポイントがある。大事なことはその球団のしきたりに合わせつつも、野球においては絶対に妥協しないこと。

たとえばホークスではタンクトップ、短パン、サンダルでの球場入りが許されたのに対し、巨人では袖無しの服装はだめ。「ジャイアンツ時間」があり、宿舎を出るときには定刻の30分前にバスに乗る決まり。その30分がもったいなくて、自分は部屋でストレッチなどの準備をしていたが、それ以外は伝統に従った。



◎「それ以外は伝統に従った」と言われても…

「宿舎を出るときには定刻の30分前にバスに乗る決まり」なのに「自分は部屋でストレッチなどの準備をしていた」と小久保氏は書いている。だとしたら、かなりの特別扱いだ。「移籍してきた大物選手だから許されたんだろうな」とは思う。自分が「巨人」の選手だったら「なんで特別扱いを認めるんだ」と不満を持ったはずだ。「ストレッチなどの準備」は「バス」の近くでできそうな気もする。

それ以上に気になるのが、小久保氏が「それ以外は伝統に従った」と認識している点だ。間違っている訳ではない。ただ、「高速道路では時速200キロ以上出したが、それ以外は交通ルールを守って走った」と言っているのに似たものを感じる。

「伝統」に従わなかったのが悪いとは言わない。結果的に良い判断だったと小久保氏が認識しているのならば「大事なことはその球団のしきたりに合わせつつも、野球においては絶対に妥協しないこと」とは書かずに「大事なのはその球団のしきたりも時には無視して自分のやり方を貫くこと」などと助言した方が自然だ。


※今回取り上げた記事「スポートピア~移籍を『吉』とするには」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190205&ng=DGKKZO40891340U9A200C1UU8000


※記事と筆者への評価は見送る。

2019年2月4日月曜日

「リーダーは男性向き」を「バイアス」と 日経 女性面編集長は言うが…

女性活躍関連で「無意識の偏見」を取り上げると問題のある記事になりやすい--。その傾向が4日の日本経済新聞朝刊女性面の記事にも見られた。「『無意識の偏見』登用阻む まず認識、個別対応を 『女性は管理職向かない』『育児中きつい仕事は無理』… 」というメインの記事に付けた解説に関して、筆者の佐々木玲子女性面編集長に以下の内容で意見を送っている。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

【日経に送った意見】

日本経済新聞社 女性面編集長 佐々木玲子様

4日の朝刊女性面に載った「『リーダー向きの特性』に性差 大手25社2500人調査」という記事について意見を述べてみます。記事で佐々木様は以下のように記しています。

<記事の引用>

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2018」によると日本の女性管理職比率は12.9%。米国は4割超、英仏は3割超と遅れが目立つ。

背景にはジェンダーに関する無意識の偏見があるのではないか。淑徳大学の野村浩子教授は大手25社の社員ら2527人に「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」を実施。「リーダーは男性向き」と思い込むバイアスがある可能性が浮かんだ。

社会のなかで「組織リーダー」「男性」「女性」に対して、どんな無意識の偏見があるかを探るため「責任感が強い」など同じ38項目を提示。各パターンで「望ましい特性」と思う度合いを尋ね、各項目の平均値を比べた。組織リーダーと男性は「望ましい特性」の上位10項目の半数が重なった。女性は2項目のみでリーダーの望ましさとの乖離(かいり)が浮き彫りになった。

ただ、同調査から企業のダイバーシティ推進の施策が偏見を低減する可能性も得られたという。数値目標設定などで計画的に女性管理職を育成する企業ほど社員の性別役割分業意識は低いと分かった。

全管理職必須のダイバーシティ研修の実施企業では女性社員のリーダー意欲が高い傾向もみられた。「まずは組織にあるジェンダーバイアスを可視化して課題を把握し、これらの取り組みを進めることが求められる」(野村教授)

17年度からの科学研究費補助金を得た研究で18年にインターネット上で調査し役員も回答。川崎昌目白大学客員研究員が分析に協力した。

--引用は以上です。

まず「リーダーは男性向き」に関して「バイアス」と断定する根拠はあるのでしょうか。「リーダーは男性にしか務まらない」ならば「バイアス」でいいでしょう。しかし「リーダーに向いている人の割合は男性の方が多い」という意味での「リーダーは男性向き」であれば、「バイアス」に当たらない可能性は十分にあります。

「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」もその可能性を示唆しているのではありませんか。「組織リーダーと男性は『望ましい特性』の上位10項目の半数が重なった。女性は2項目のみでリーダーの望ましさとの乖離(かいり)が浮き彫りになった」と佐々木様は書いています。

だとすると、男性としての「望ましい特性」を追求すると男性は自然と「組織リーダー」としての「望ましい特性」を身に付けることになります。女性だとそれが難しいはずです。結果として「組織リーダー」としての「望ましい特性」を有している人が男性側に偏るのはあり得る話です。

「リーダーとしての適性に男女差はない」「むしろ女性の方が向いている」との可能性を完全に排除はしませんが、そこには何らかの統計的な根拠が必要です。また、リーダーとしての適性をどうやって測るかで結果は変わるはずです。

十分な根拠なしに「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアス」と書けば、それ自体が「偏見」となります。そこは注意して記事を作ってください。

「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」の結果が「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアスがある可能性」を浮かび上がらせているとも思えません。

例えば、Aさんは「組織リーダー」と「男性」に関しては「行動力がある」ことを「望ましい特性」と捉えるものの、女性にはそれを求めないとしましょう。ここでAさんに「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアスがある可能性」が浮かび上がってくるでしょうか。

百歩譲って「リーダーは男性向き」との考えは「バイアス」だとしましょう。しかしAさんにその「バイアス」があるかどうかは何とも言えません。「男性には行動力を持っていてほしいけど、そんな男性はほとんどいない。一方、こちらが求めていないのに女性はみんな行動力がある。だからリーダーを任せられそうな人は女性ばかり」とAさんは考えているかもしれません。

「バイアスがある可能性」はもちろんゼロではありません。しかし「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」によって、「バイアスがある可能性が浮かんだ」とは言えないでしょう。

さらに百歩譲って「バイアスがある可能性が浮かんだ」としても「バイアス」を確認できた訳ではありません。だとすれば「(女性管理職比率の低さの)背景にはジェンダーに関する無意識の偏見があるのではないか」との問いに対する答えは「分からない」ではありませんか。

なのに記事では「まずは組織にあるジェンダーバイアスを可視化して課題を把握し、これらの取り組みを進めることが求められる」と「野村教授」に語らせています。「野村教授」自身が調査をしても「ジェンダーバイアスを可視化」できないのに、どうやって「組織にあるジェンダーバイアスを可視化」すればよいのでしょうか。

このあたりを改めてじっくり考えてみてください。私の意見は以上です。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「『リーダー向きの特性』に性差 大手25社2500人調査」
https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20190204&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO40774690R00C19A2TY5000&ng=DGKKZO40774760R00C19A2TY5000&ue=DTY5000


※メインの記事も含めた評価はC(平均的)。佐々木玲子女性面編集長への評価はCを据え置く。佐々木編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

乳がん検診「ぜひ受けるべき」? 日経 佐々木玲子女性面編集長に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_9.html

日経「最適な交通検索、予約も支払いも」に感じた疑問

3日の日本経済新聞朝刊1面に載った「最適な交通検索、予約も支払いも~国交省がアプリ基盤」という記事には主に2つの疑問を感じた。記事の全文を見た上で具体的に述べたい。
グラバー園(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

国土交通省はアプリ1つでマイカー以外で目的地に行く最適な交通手段を検索し、予約や決済まで完了できる消費者向けシステムの構築に乗り出す。カーシェアなどシェアリングサービスを含む様々な交通サービスがデータをやり取りする共通基盤をつくる検討に入った。2019年度に課題を整理し、20年をめどに具体的な導入計画をつくることを目指す。

同省が目指すのは自家用車以外のすべての移動手段を1つのサービスとして提供する仕組み。欧州では「MaaS」(マース)で呼ばれ、取り組みが先行している。

例えばフィンランドで普及しているサービスは、利用者がアプリに出発地と到着地を入力すると、電車やバス、カーシェアなど様々な交通手段から最適な組み合わせが示される。交通経路の検索サービスは日本でもあるが、同国では予約や料金の支払いもスマホで完結する。料金は都度払いから定額払いまで複数から選べ、タクシー運賃が含まれるものもある。

国交省はこの日本版の立ち上げを目指す。日本では大手私鉄などが沿線地域での実証実験に取り組んでいる。こうした実験への支援を通じて課題を整理し、全国規模でサービスを展開できるシステムをつくる。

中核となるのは交通各社のデータを集約し、決済するための基盤の構築だ。交通機関の時刻表や電車やバスの位置情報、混雑状況といったデータを交通事業者やアプリの提供会社などがやり取りできるようにする。

ただ他社とのデータ共有に難色を示す会社が出てくる可能性もある。小規模事業者も含めて連携を広げることが利便性を高める上で課題になる。

◇   ◇   ◇

まず「交通経路の検索サービスは日本でもあるが、同国では予約や料金の支払いもスマホで完結する」と書くと「同国=日本」になってしまう。「同国=フィンランド」と筆者は伝えたいはずだ。

ここから疑問点を挙げていく。

(1)「最適な組み合わせ」とは?

「利用者がアプリに出発地と到着地を入力すると、電車やバス、カーシェアなど様々な交通手段から最適な組み合わせが示される」という説明が引っかかった。どの「組み合わせ」が「最適」かは人によって違う。安さ優先なのか、速さ優先なのか。遅くてもいいし料金が高くてもいいから座ってゆったり移動したい人もいるだろう。

「フィンランドで普及しているサービス」では「利用者がアプリに出発地と到着地を入力する」だけで「最適な組み合わせが示される」らしい。「出発地と到着地」以外には何も希望を伝えなくても「アプリ」が「この人は急いでいるからスピード重視の組み合わせで…」などと判断してくれるのか。そうなら凄いが…。


(2)航空運賃も含めて「定額」?

「目指すのは自家用車以外のすべての移動手段を1つのサービスとして提供する仕組み」なので、当然に飛行機や船も含むはずだ。「フィンランドで普及しているサービス」では「料金は都度払いから定額払いまで複数から選べ」るらしい。そして「国交省はこの日本版の立ち上げを目指す」。さらに「全国規模でサービスを展開できるシステムをつくる」という。

計画通りに行けば、飛行機を含めた交通機関をどれだけ利用しても「定額払い」で済むサービスが実現する。「定額」が月10万円と高額でも、1カ月の国内移動で飛行機も新幹線も乗り放題ならば、かなり画期的だしお得だ。なので「本当にそんなサービス実現するの?」とも思う。あるいは「定額払い」だと月100万円といった超高額になるのだろうか。


※今回取り上げた記事「最適な交通検索、予約も支払いも~国交省がアプリ基盤」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190203&ng=DGKKZO40836160S9A200C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)。

2019年2月3日日曜日

本当に「日本は病院数が世界一」? 東洋経済の井艸恵美記者に問う

週刊東洋経済2月9日号の特集「病院が消える」によると「日本は病院数が世界一多い」らしい。だとすると、10倍以上の人口を抱える中国よりも多くの病院が日本にはあるはずだ。しかし、各種のデータはそれを裏付けていない。東洋経済の編集部には以下の内容で問い合わせを送った。
トーマス・ブレーク・グラバー像(長崎市)
        ※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集部 井艸恵美様

2月9日号の特集「病院が消える」の中の「INTERVIEW 日本の病院は質にばらつき 実証的なベンチマークが必要」という記事についてお尋ねします。記事の冒頭で井艸様は「日本は病院数が世界一多い」と述べています。特集に出てくるグラフによると、2017年の病院数は「8412」です。これは中国よりも少ないのではありませんか。

「平成28年度 医療技術・サービス拠点化促進事業 新興国等におけるヘルスケア市場環境の詳細調査 報告書 中国編」という経済産業省の資料を見ると、2014年の中国の病院数(総合病院、中医病院、専門病院、その他病院の合計)は「2万5860」です。日本総研の「中国医療施設概況 2017年6月」という資料では、中国の病院の当月施設数が「2万9719」となっています。日本の3倍以上の病院数です。

特集には「人口100万人当たり病院数」の表も載っていて、そこには「病院数はOECDで2位」との説明文を付けています。「人口100万人当たり病院数」を念頭に「日本は病院数が世界一多い」と書いた可能性も検討しましたが、「OECDで2位」なのでこれもあり得ません。

「日本は病院数が世界一多い」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「病院が消える」

※特集全体の評価はD(問題あり)。井艸恵美記者への評価も暫定でDとする。

2019年2月2日土曜日

ご都合主義的な説明目立つ日経1面「ヘッジファンドの黄昏」

2日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「ヘッジファンドの黄昏 昨年10年ぶり残高減~金融緩和が影響 リスク膨張続く」という記事はツッコミどころが多かった。ご都合主義的なデータの見せ方で「ヘッジファンドの黄昏」を描こうとしているが、かなり無理がある。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
          ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘したい。

【日経の記事】

「リーマン・ブラザーズと共通点がある」。米著名投資家デイビッド・アインホーン氏率いるヘッジファンド、グリーンライト・キャピタルが昨年、狙いをつけたのが電気自動車のテスラ株だ。

アインホーン氏は08年、破綻前のリーマンの財務に疑義を持ち空売りで成功した「ショートの名手」。追随も相次ぎテスラの空売りポジションは一時、約140億ドル(約1兆5千億円)に膨らんだ。だが、株価はイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)による株式非公開化のツイートを巡り乱高下はしたが年間では横ばい圏で推移。空売り勢は利益を上げられなかった。

結局、全てを覆い隠したのがカネ余り。特に10月まではテクノロジー株全般に資金が流れ込み、テスラ株も持ち上げた。グリーンライトは18年、マイナス34%という設立以来最悪の運用成績に沈んだ。


◎利益上げられるのでは?

「株価はイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)による株式非公開化のツイートを巡り乱高下はしたが年間では横ばい圏で推移。空売り勢は利益を上げられなかった」という説明が引っかかる。「乱高下」したのであれば「年間では横ばい圏で推移」としても「利益を上げ」る機会は十分にある。「空売り」→「株式非公開化のツイートを巡り」株価が急落→買い戻し→株価が上昇し元の水準に--という流れで利益が得られるはずだ。

そうなるとは限らない。だが、「乱高下はしたが年間では横ばい圏で推移」したことは「空売り勢」が「利益を上げられなかった」理由の説明にはなっていない。

「グリーンライトは18年、マイナス34%という設立以来最悪の運用成績に沈んだ」という部分も引っかかる。「乱高下」した中の安値で「空売り」して高値で買い戻せば「最悪の運用成績」になるかもしれないが、それはタイミングが悪かった場合だ。記事からは、「年間では横ばい圏で推移」すると「空売り勢」の「運用成績」が必然的に悪化するような印象を受ける。

さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

全世界で約350兆円を運用し約1万あるヘッジファンド。投資戦略は様々だが、源流はリスクに備え下落時の損失を回避(ヘッジ)する投資法にある。株や債券など多様な金融商品の「買い」だけでなく「空売り」を組み合わせ、下げ相場でも絶対収益の確保を狙う。1990年代初頭、英中銀を向こうに回しポンドを売り浴びせ巨利を得たソロス氏や、リーマン・ショック時にサブプライム住宅ローン担保証券(MBS)の空売りで大もうけしたポールソン氏が代表例だ。



◎説明の仕方が…

上記の説明だと「ソロス氏」や「ポールソン氏」が「ヘッジファンド」になってしまう。「ヘッジファンド」に関して「AやBが代表例だ」と書くのならば「AやB」にはファンド名を持ってきた方が自然だ。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

ついでに言うと「米著名投資家デイビッド・アインホーン氏」とフルネーム表記している人物がいる一方で「ソロス氏」や「ポールソン氏」は初出でもフルネームにしていない。統一した方が好ましい。

【日経の記事】

00年代初めまで年20~30%の高リターンを上げ、世界の金融市場で存在感を高めてきたヘッジファンドに08年、転機が訪れる。金融危機だ。その前後で運用成績や規模拡大のペースは明らかに異なる。市場の混乱自体は下げ局面でも収益機会を狙うヘッジファンドにとってむしろ好機。残高こそ価格下落を反映し一旦減ったが、ポールソン・ファンドのように火事場で稼いだファンドも多かった。

真の「危機」は危機後に訪れる。日米欧の中銀がばらまいた1千兆円以上の緩和マネーが原因だ。債券バブルで資産価格の底割れを防ぎ、世界の株式時価総額は08年末比で2倍以上になった。誰もが勝てる「適温相場」でパッシブ運用(総合2面きょうのことば)が勢いを増す。市場丸ごとを売買する彼らの膨張は、個々の企業の割高・割安の判断を利きにくくした。


◎「真の危機」訪れてる?

「真の『危機』は危機後に訪れる」と言うが、どうも怪しい。「世界の株式時価総額は08年末比で2倍以上になった」一方で、「ヘッジファンド」の「運用資産」が大きく目減りしたのならば「危機」かもしれない。しかし記事に付けた「運用資産」のグラフを見ると、「ヘッジファンド」のそれも「08年末比で2倍以上」になっているように見える。

グラフでは1990~2007年が「年率10%増」で08年以降が「年率5%増」なので「金融危機の前と後で断層」と説明している。しかし、全体の規模が大きくなれば成長率が低下するのは当然だ。

グラフを素直に見れば「08年に一時的に落ち込んだものの、1990年から2017年まで成長を維持してきた」と理解したくなる。「運用資産」から判断すれば「真の『危機』」には程遠い。

今回の記事では「運用資産」の残高が「昨年10年ぶり残高減」となったことを受けて「ヘッジファンドの黄昏」と打ち出す一方で「誰もが勝てる『適温相場』でパッシブ運用が勢いを増す」と解説している。これも苦しい。

「総合2面きょうのことば」に付けたグラフを見ると「パッシブ運用の残高」は18年に「10年ぶり残高減」となったようだ。「パッシブ運用」も「ヘッジファンド」も米国株の相場下落などを背景に18年は「残高減」になっただけではないかと思える。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

「『2の20』に値せず」――。「預かり資産の2%の手数料」と「もうけの20%の成功報酬」が業界標準だった高額報酬も値引きを迫られ、大衆化が進む。かくして顧客として影響力を増したのが年金マネーだ。彼らが求める取引の高い透明性や開示体制に手足を縛られ、コスト増がリターンを削る悪循環に陥った。



◎リターンが向上しそうだが…

ここで言う「リターン」とは「手数料を引かれた後に残る顧客の利益」だとしよう。だとすればヘッジファンド側の「高額報酬」に関する「値引き」は「リターン」を底上げする効果が見込める。しかし、なぜか「コスト増がリターンを削る悪循環に陥った」らしい。ヘッジファンド側の「コスト」が増えても、手数料は「値引き」されるとすれば、「顧客」の「リターンを削る悪循環」にはなりにくい。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

推測だが「コスト増がヘッジファンドの利益を削る悪循環に陥った」と言いたかったのではないか。

付け加えると、「悪循環」と言っているのに「コスト増→リターン悪化→コスト増」という「循環」が見えてこないのも気になる。

記事の終盤を見ていこう。

【日経の記事】

「ヘッジファンド全体が輝いていた時代は終わった」(野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジーの八木浩樹氏)。だが、勝ち組もいる。ブリッジウオーターやツーシグマ、シタデルなどは主力ファンドが18年に10%前後の高リターンを上げた。

いずれも自前でスーパーコンピューターを抱える一線級のAIファンドだ。しかもトップ2社が上位20社の利益の半分をたたき出す「勝者総取り」。昨年一度ならず発生した、価格変動が増幅され一方向に雪崩を打つ動きの背景に彼らの集中売買が透ける。


◎「勝者総取り」になってる?

まず「トップ2社が上位20社の利益の半分をたたき出す『勝者総取り』」という説明が苦しい。「トップ1社が上位20社の利益の9割以上をたたき出す」のならば、まだ分かる。「2社」で「半分」でも「勝者総取り」なのか。

記事では「ブリッジウオーターやツーシグマ、シタデル」を「勝ち組」としている。「勝者総取り」の「勝者」は「2社」しかいないはずだが、なぜか3社以上の「勝ち組」がいるようだ。「勝ち組」は「勝者」には入らないのか。

記事の結論部分にも注文を付けておこう。

【日経の記事】

顧客に資金を返し閉鎖するファンドも多い。一時は1兆6千億円超を運用したイートン・パークもその一つ。27歳でゴールドマン・サックスのパートナーだった経歴を持つ創業者、ミンディック氏は金融市場から姿を消し対戦型ゲームの腕前を競い合うeスポーツに資金を投じている。

独自の判断に基づき、リスクをとって売買するヘッジファンドは金融市場の価格発見機能の担い手でもある。米エンロン事件では不正会計を暴き、金融危機時には無価値な証券化商品バブルをいち早く見抜いて利益を上げた。緩和マネーが未曽有の水準に膨らんだ今、警告役不在の金融市場でリスクのマグマがたまり続ける。



◎「警告役不在」と言える?

まず「ミンディック氏」は初出をフルネームにした方がいい。

「緩和マネーが未曽有の水準に膨らんだ今、警告役不在の金融市場でリスクのマグマがたまり続ける」という結びも無理がある。既に述べたように「ヘッジファンド」の「運用資産」は「08年末比で2倍以上」になっている。記事に付けたグラフによれば「ファンド数」も「頭打ち」にはなっているが、一定の水準を維持している。さらに言えばアクティブ運用をしているのは「ヘッジファンド」だけではない。

なのになぜ「警告役不在」となるのか。


※今回取り上げた記事「ヘッジファンドの黄昏 昨年10年ぶり残高減~金融緩和が影響 リスク膨張続く」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190202&ng=DGKKZO40814720R00C19A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。山下晃記者への評価はDを維持する。松本裕子記者への評価はDで確定とする。


※山下記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が不可解 日経「米ファンド、サムスンに会社分割提案」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_7.html


※松本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「超低金利 揺れる企業年金」の苦しい内容
https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/06/blog-post_21.html