2018年11月14日水曜日

ATMの管理に「月700万円」もかかる? 日経「曲がり角のATM(上)」

「ATM1台を動かすのに必要な管理費は、月に約700万円」と14日の日本経済新聞朝刊に出ていた。「管理費」だけで年間8000万円を超えるとは常識的には考えにくい。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
切株山園地(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 渡辺淳様 大島有美子様

14日の朝刊金融経済面に載った「曲がり角のATM(上) 自前主義から協調へ 重いコスト負担 低減探る」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

「銀行は取引先でもあるメーカーと二人三脚で利便性を高め、ATMの機能を拡張してきた。紙幣のシワをのばすアイロンまで内蔵された。高度化したATM1台を動かすのに必要な管理費は、月に約700万円ともいう。三菱UFJ銀は店舗外ATMの大半が赤字だとみられる」

「ATM1台を動かすのに必要な管理費は、月に約700万円」というのは本当でしょうか。2017年12月24日の日経の記事では「ある銀行関係者は『ATM1台の価格は300万円ほど。それに警備費や監視システムだけで1台に毎月約30万円の費用がかかる』と明かす」と記しています。

日経ビジネス11月12日号でも「標準的な機能を備えたATMを1台設置する場合、初期費用が約200万~300万円。運用開始後も機器のメンテナンスや現金輸送、警備といった維持費が1台当たり月30万~40万円かかるとされる」と書いており、この2つの記事の内容はほぼ一致します。「紙幣のシワをのばすアイロンまで内蔵された」機種は多少コストがかさむかもしれませんが、「管理費」が20倍になるでしょうか。

渡辺様と大島様は「(ATMを)相互に開放することで立地の重なる計500カ所ほどの拠点を減らせれば、数十億円の経費削減につながる」とも説明しています。「500カ所ほどの拠点」にそれぞれ1台しかATMがないと仮定しても「管理費」を年間で400億円以上も減らせる計算になります。「数十億円の経費削減」と「月に約700万円の維持費」は整合しません。

「ATM1台を動かすのに必要な管理費は、月に約700万円」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ちなみに、毎日新聞は11月7日付の「三菱UFJと三井住友 ATM共通化 店舗外、来年前半に」という記事で「ATMでの引き出しは近年減少傾向の上、管理などの維持費用は1台で年間約700万~1000万円程度かかるとされる」と記しています。渡辺様と大島様は「年に約700万円」を「月に約700万円」と間違えたのだとすれば辻褄が合います。

付け加えると「三菱UFJ銀行と三井住友銀行が2019年前半にもATMの相互開放に乗り出す」ことを受けて「人口減や長引く低金利で経営環境が厳しさを増すなか、分野によっては競い合いをやめて手を握る新たな競争時代に突入した」と書くのは無理があると感じました。

「三菱UFJ銀行」に関して言えば、既にJAバンク、イオン銀行などとATMの相互利用に乗り出しており、平日の昼間であれば手数料なしで現金を引き出せます。提携先コンビニATM(セブン銀行ATM、ローソンATM、E-net ATM)でも条件付きで手数料なしの引き出しが可能です。

渡辺様と大島様は「自前主義にこだわり続けた銀行界が協調にかじを切ろうとしている」と解説していますが、「三菱UFJ銀行」のATMに限っても、「自前主義」へのこだわりはかなり前になくなっているはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)15日の朝刊に「14日付『曲がり角のATM(上)』の記事中で『月に約700万円』とあったのは『年に約700万円』の誤りでした」と出ていたが、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「曲がり角のATM(上) 自前主義から協調へ 重いコスト負担 低減探る」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181114&ng=DGKKZO37648610S8A111C1EE9000


※記事の評価はD(問題あり)。渡辺淳記者への評価はDを据え置く。大島有美子記者に関しては暫定でDとする。渡辺記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心なことが抜けた日経「保険販売、手数料が高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_76.html

ぐるなび会長の寄付で「変わる相続」語れる? 日経「ポスト平成の未来学」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post.html

2018年11月13日火曜日

森井裕一東大教授の記事の拙さを直せない週刊エコノミストの罪

簡潔に分かりやすく記事を書くことを学者に求めるのは酷だ。説明下手な書き手も多い。学者に記事を書いてもらう場合、その辺りは執筆を依頼したメディアが気を配るべきだ。週刊エコノミスト11月20日号に載った「メルケル首相が党首辞任を表明 流動化するドイツ政治」という記事は、そこが足りない。

東京・渋谷のスクランブル交差点
    ※写真と本文は無関係です
筆者の森井裕一東大教授は事実関係の認識を誤ってはいないと思う。書き方が拙いだけだ。週刊エコノミストの担当者がしっかりしていれば、問題のない記事に仕上げられたはずだ。

編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【エコノミストへの問い合わせ】

東京大学大学院 総合文化研究科教授 森井裕一様  週刊エコノミスト編集長 藤枝克治様

11月20日号の「メルケル首相が党首辞任を表明 流動化するドイツ政治」という記事についてお尋ねします。記事では「ヘッセン州で10月28日に実施された州議会選挙」に触れて「CDUが得票率27・2%と前回13年の選挙時に比べ11・1%も得票を減らし、その票が緑の党や反移民・難民の右翼ポピュリスト政党『ドイツのための選択肢(AfD)』に流れた」と解説しています。

これを信じれば「CDU」が得た票は「前回13年の選挙時に比べ11・1%」減っているはずです。しかし「11・1」とは「得票」ではなく「得票率」に関する数字ではありませんか。ロイターでは「CDUは第1党の座は維持するものの、得票率は27.2%と前回2013年に勝利した際の38.3%から大幅に落ち込む」(つまり得票率11.1ポイントの低下)と伝えています。

投票総数が前回と同じだと仮定すると「CDU」は30%近くも「得票を減らし」ているはずです。「前回13年の選挙時に比べ11・1%も得票を減らし」との説明は誤りではありませんか。「CDUの得票率は27・2%と前回13年の選挙時に比べ11・1ポイントも低下し~」などと書くべきだったと思えます。

せっかくの機会なので、語順の問題にも触れておきます。記事には「これを受けてメルケル首相は選挙翌日に12月に予定されているCDU党大会で党首再選を目指して立候補しないと表明した」との記述があります。

「選挙翌日に12月に」と時期に関する情報が続く部分に読みにくさを感じました。「選挙翌日に~表明した」の間に「12月に予定されている」を挟んでいるのが原因です。

「これを受けてメルケル首相は12月に予定されているCDU党大会で党首再選を目指して立候補しないと選挙翌日に表明した」と語順を変えるだけで、かなり読みやすくなります。「これを受けてメルケル首相は選挙翌日に、12月に予定されているCDU党大会で党首再選を目指して立候補しないと表明した」と読点を入れる手もありますが、前者をお薦めします。

森井様は記事を書くプロではないので、この辺りは編集部の責任で手直しすべきでしょう。問い合わせは以上です。回答をお願いします。

週刊エコノミストでは読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。11月6日号の「バルト海と西バルカンで火花 EUvsロシアの軍事的緊張」という記事では、国際政治アナリストの岩川柊子氏が「モンテネグロ」を「NATOには未加盟」と書いていました。これは間違いではないかと指摘しましたが、回答は届いていません。11月13日号と11月20日号でも訂正の掲載が確認できませんでした。読者から購読料を徴収しているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「メルケル首相が党首辞任を表明 流動化するドイツ政治」
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20181120/se1/00m/020/027000c


※記事の評価はD(問題あり)。森井裕一氏への評価も暫定でDとする。

2018年11月12日月曜日

週刊ダイヤモンド「行動遺伝学」特集に見える矛盾

週刊ダイヤモンド11月17日号の特集2「努力で決まるか 生まれながらなのか?~行動遺伝学が教える 学力、性格と『遺伝』のホント」は基本的にはよく書けている。タブー視されがちな問題を取り上げた姿勢も評価できる。ただ、理解に苦しむ部分もあった。筆者の小栗正嗣編集委員には以下の内容で問い合わせを送っている。
山地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 小栗正嗣様

11月17日号の特集2「努力で決まるか 生まれながらなのか?~行動遺伝学が教える 学力、性格と『遺伝』のホント」を興味深く読みました。ただ、矛盾を感じる部分もありました。

まず記事では「行動遺伝学」について「いかなる行動の個人差も、遺伝だけからでも環境だけからでもなく、遺伝と環境の両方の影響によってつくられているという、ごく当たり前の前提に立つ」と説明しています。

しかし「日本の行動遺伝学の第一人者、安藤寿康・慶應義塾大学文学部教授」が取りまとめたという119ページのグラフを見ると「遺伝の影響」がゼロの項目がかなりあります。

「家出(15歳未満)」「人に対する虐待(15歳未満)」「器物損壊(15歳未満)」「窃盗(15歳未満)」「結婚(60歳時)」では「共有環境の影響」と「非共有環境の影響」はあっても「遺伝の影響」はゼロです。だとすると「いかなる行動の個人差も、遺伝だけからでも環境だけからでもなく、遺伝と環境の両方の影響によってつくられている」という「前提」が崩れます。

記事の説明かグラフのデータのいずれかが間違っているのではありませんか。どちらにも問題ないとの判断であれば、上記の矛盾についてどう理解すればよいのか教えてください。

御誌では、読者からの問い合わせを無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「努力で決まるか 生まれながらなのか?~行動遺伝学が教える 学力、性格と『遺伝』のホント」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25046


※特集の評価はB(優れている)。小栗正嗣編集委員への評価は暫定C(平均的)から暫定Bに引き上げる。

2018年11月11日日曜日

東洋経済で「那覇から台北わずか30分」と書いた牧野知弘氏に問う

週刊東洋経済11月17日号に載った「人が集まる街、逃げる街 第51回 那覇市[沖縄県]人とカネを引き付ける新国際都市」という記事は、誤りだと思える記述が目立った。東洋経済新報社には以下の内容で問い合わせを送っている。
成田国際空港(千葉県成田市)※写真と本文は無関係です

【東洋経済への問い合わせ】

不動産事業プロデューサー 牧野知弘様  週刊東洋経済編集長 西村豪太様

11月17日号の「人が集まる街、逃げる街 第51回 那覇市[沖縄県]人とカネを引き付ける新国際都市」という記事について3点お尋ねします。

(1)「日本最南端」は沖縄県ですか?

冒頭で「日本最南端に位置する沖縄県」と書いていますが、日本最南端は「沖ノ鳥島(東京都)」ではありませんか。

(2)「アジアの都市に最も近い」のは那覇市ですか?

記事には「首都東京をアジアの国際金融センターにしようという計画が叫ばれているが、国内では那覇市がアジアの都市に最も近く、実は国際金融センターの隠れた候補ともいえるのである」との記述があります。都道府県庁所在地に限っても、福岡市の方が「アジアの都市」に近いのではありませんか。福岡から釜山(韓国)までの距離は那覇から台北の約3分の1です。

(3)「那覇空港から台北まで30分」で行けますか?

記事では「那覇空港から台北までわずか30分」と説明しています。しかし、実際には1時間30分前後かかるのではありませんか。那覇発だと出発時刻と到着時刻の差は40分程度ですが、これは1時間の時差があるためです。

以上の3点は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

質問(3)に関して補足しておきます。問題のくだりを長く引用すると「那覇空港から台北までわずか30分、上海まで1時間25分、香港まで2時間、シンガポールまで4時間強でアクセスできる。羽田空港から香港まで4時間、シンガポールまで7時間半であることを考えると、経済発展著しいアジアの諸都市へのアクセスは抜群といえる」となります。

「時差を考慮しないで所要時間を考えたのではないか」と思えたので、他の所要時間もネットで調べてみました。その数字をカッコ内に入れて問題のくだりを再現してみます。

「那覇空港から台北までわずか30分(1時間20分)、上海まで1時間25分(2時間5分)、香港まで2時間(2時間50分)、シンガポールまで4時間強(5時間25分)でアクセスできる。羽田空港から香港まで4時間(5時間)、シンガポールまで7時間半(7時間25分)」

羽田・シンガポールは許容範囲ですが、他は1時間前後のズレがあります。カッコ内の時間が絶対に正しいとは言いませんが、羽田・シンガポール間以外は誤りの公算大です。確認した上で、誤りであれば次号で訂正してください。

さらに言葉の使い方で1つだけ指摘しておきます。気になったのは以下の記述です。

「市内の公示地価(18年1月)は国際通りで坪当たり約136万円と対前年同月比12.8%増。おもろまちは約94万円で同15.1%増となり、地価高騰が話題になっている」

「地価」に関して「2.8%増」「15.1%増」と表記していますが「地価が増える」とは言わない気がします。「対前年同月比」の「対」も不要です。改善例を示してみます。

<改善例>

「市内の公示地価(18年1月)は国際通りで坪当たり約136万円と前年同月比12.8%の上昇。おもろまちは約94万円で同15.1%高くなり、地価高騰が話題になっている」

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇
 
※今回取り上げた記事「人が集まる街、逃げる街 第51回 那覇市[沖縄県]人とカネを引き付ける新国際都市」
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018111700


※記事の評価はE(大いに問題あり)。この件に関しては、牧野知弘氏が関わっているオラガ総研を通じても問い合わせをしている。同氏への評価は間違い指摘への対応を見てから決めたい。


追記)結局、回答はなく、訂正も出なかった。これを受けて牧野知弘氏への評価はF(根本的な欠陥あり)とする。

2018年11月10日土曜日

LINEほけんは「好調そのもの」? 日経ビジネス武田安恵記者に問う

日経ビジネス11月12日号に載った「時事深層 COMPANY~金融、若者巻き込み『収穫』へ LINEほけん、登録は3週間で460万人」という記事で、筆者の武田安恵記者は「LINEほけん」に関して「滑り出しは好調そのもの」と言い切っている。だが、どうも怪しい。問題のくだりは以下のようになっている。
小石川後楽園(東京都文京区)
       ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

無料対話アプリLINE(ライン)と損害保険ジャパン日本興亜は10月16日からスマホアプリ内で加入できる損害保険の販売を始めた。滑り出しは好調そのもので、いわゆる「友だち登録」をした人の数は3週間で460万となった。

この数は実際に保険に加入する前段階のものだが、「加入予備軍」が着々と膨らみ続ける現状に競合各社は驚きを隠さない。LINEと組んだ当の損害保険ジャパン日本興亜でさえ「損保の売り方を少し変えただけでこれほど興味を持ってもらえるとは」と話す。


◎契約実績をなぜ見せない?

「『友だち登録』をした人の数は3週間で460万となった」ことを根拠に「滑り出しは好調そのもの」と武田記者は書いている。なぜ「3週間」の契約実績で語らないのか。「保険に加入する前段階」の数字で好不調を判断するのは危険だ。「友だち登録」をする人は多くても実際の契約では苦戦している可能性がかなりある。

取材に対し「LINE」が契約実績は開示しないのに「友だち登録」の数字だけを教えてくれる場合は、特にその可能性を考慮すべきだ。調べてみると、「LINEほけん」では「合計70万名さまに『スマホのおまもり』『自転車のおまもり』『年越しのおまもり』をプレゼント」するキャンペーンをやっているようだ。

この「無料でもらえる保険おまもりシリーズ」が「友だち登録」の原動力となっていても不思議ではない。だとすると「460万」という数字も割り引いて考える必要がある。その辺りも十分に考慮した上で「滑り出しは好調そのもの」と武田記者は書いたのか。「LINE」側に上手く丸め込まれたのではないかとの疑念は拭えない。

「『加入予備軍』が着々と膨らみ続ける現状に競合各社は驚きを隠さない」と書きながら「LINEと組んだ」「損害保険ジャパン日本興亜」のコメントを持ってくるのも引っかかる。「損害保険ジャパン日本興亜」が提携相手を持ち上げるのは当然だ。

この記事には第三者のコメントは全く出てこない。「競合各社は驚きを隠さない」という情報も「LINE」や「損害保険ジャパン日本興亜」が武田記者に吹き込んだのではないかと勘繰りたくなる。

武田記者に関しては「LINE」や「損害保険ジャパン日本興亜」の側に立った書き手と見た方が良さそうだ。「LINEほけん」に関して武田記者は「保険料も1日100~500円と安く抑え、若者を意識して『敷居』を極力低くする工夫をほどこしている」とも書いている。

だが「1日100~500円」が安いと言える根拠は示していない。例えば「同じ保障内容の他社の保険と比べて2~3割安い」といった情報があれば納得できる。しかし「1日100~500円」だけでは判断できない。この辺りの説明にも、武田記者の書き手としての姿勢が垣間見える。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~金融、若者巻き込み『収穫』へ LINEほけん、登録は3週間で460万人」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/110601277/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。武田安恵記者への評価もDを据え置く。

2018年11月9日金曜日

ぐるなび会長の寄付で「変わる相続」語れる? 日経「ポスト平成の未来学」

適当な事例が見つからなかったのに「変わる相続」というテーマで強引に押し切ってしまったのだろうか。8日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続」という記事では、「相続」と直接関係のない普通の「寄付」がメインの事例になっている。本当は「遺贈寄付」の事例を取り上げたかったのだとは思うが…。

「ご意見や情報をmiraigaku@nex.nikkei.co.jpにお寄せください」と記事には出ていたので、筆者に意見を送ってみた。

長崎鼻(大分県豊後高田市)
     ※写真と本文は無関係です
【日経に送ったメールの内容】

日本経済新聞社 渡辺淳様

8日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続」という記事について意見を述べさせていただきます。記事では「相続は長い人生の決算。どんな変化があるのか、探ってみた」との記述に続いて「東京工業大学」の事例が出てきます。「2020年秋の開設をめざし、日本人の学生と留学生が交流を育む地上2階・地下2階建ての施設」に関して渡辺様は以下のように説明しています。

「約30億円と見込まれる総事業費は東工大のOBで、飲食店の検索サイト『ぐるなび』創業者で会長の滝久雄さん(78)が寄付した。『日本が発展するには外国人の協力が必要。もっと留学生を大事にすべきだ』。教育にはお金は惜しまないが、余分なお金は人をダメにするという考えを子どもも理解している。自分の考えを実現し、見届けたいと寄付にこだわった。施設名は夫妻の名前から『Hisao&Hiroko Taki Plaza』に決まった」

「相続」の「変化」を「探ってみた」と書いた直後の事例なので「寄付」であれば「遺贈寄付」の話かと思いましたが、単なる「寄付」の話です。これでは「相続」に「どんな変化があるのか」は探れません。自分の財産を生きている間にどう使うかの問題です。

「相続」の話はやめたのかと思いましたが、結局は「相続」に戻って以下のように記事は続きます。

「チャリティー文化が根づく欧米と異なり、日本では億単位の寄付者は少ない。野村資本市場研究所の推計では、国内で1年間に相続される資産総額は50兆円強。一方、相続税の申告から把握できる相続財産の寄付額は13年時点で、約300億円にとどまる」

ここでは「相続財産の寄付額」に言及しています。しかし、東工大への「寄付」の件は「相続財産の寄付」ではないはずです。話が混線していませんか。

それに「相続税の申告から把握できる相続財産の寄付額は13年時点で、約300億円にとどまる」としても「日本では億単位の寄付者は少ない」かどうかは分かりません。滝氏が東工大にしたような「寄付」は「相続財産の寄付額」には入らないと思えます。滝氏の話の後で「日本では億単位の寄付者は少ない」と書くのならば、「相続財産」以外の「寄付」も含めて考えるべきです。

記事で取り上げたペット信託の事例にも問題を感じました。記事では以下のように書いています。

「福岡県内に住む40歳代の女性は5年前に小型犬を家族に迎えた。その後に夫が県外へ単身赴任し、週末はマイカーで夫の元へ通う日々が始まった。ハンドルを握るたび『もし交通事故に巻き込まれたら愛犬はどうなるんだろう』と不安が募り、ペットのための信託契約を結んだという」

「40歳代の女性」が「マイカーで夫の元へ通う」時に「夫」は同乗していないはずです。ならば「交通事故に巻き込まれても愛犬は夫が面倒をみてくれる」と考えるのが自然ではありませんか。しかし、なぜか「ペットのための信託契約」を結んでしまいます。不自然さは拭えません。
旧香港上海銀行長崎支店記念館(長崎市)
       ※写真と本文は無関係です

今回の記事では、ペット信託の宣伝的な臭いも感じました。渡辺様は以下のように説明しています。

「いまやペットは我が子同様の存在だ。自分たちに万が一のことがあれば、あらかじめ指定した親族や知人が新しい飼い主となってくれる。金銭的な負担をかけるわけにはいかないと、飼い主の銀行口座には自らの信託財産から愛犬の餌代などの飼育代や謝礼を定期的に払い込んでもらう契約にしている。この女性に信託契約を勧めた服部薫さん(36)はかつては動物看護師で、現在はペットの相続を専門とする行政書士だ。ペットにお金を残そうと遺言書をしたためても『相続争いの火種になりやすく、ペットのために遺産がきちんと使われないことも少なくない』」

まず費用に触れていないのが引っかかります。相当に裕福でペットを溺愛している人にとってはペット信託も選択肢になるかもしれません。しかし、平均的な「40歳代の女性」が出す費用として、かなり重い負担になるはずです。そこに触れないで「遺言書よりも確実」というプラスの印象だけを与えるような書き方は感心しません。

次は「大相続時代 さらに多様化」という関連記事についてです。気になったのは以下のくだりです。

「高齢化による大相続時代は目の前に迫っている。総務省の家計調査報告から単純計算すると、貯蓄の60%近くを60歳以上の高齢者(17年、2人以上の世帯)が占める。財務省の資料によると、80歳以上で亡くなった高齢者の相続人が50歳以上だった割合は13年時点で約69%と15年間に22ポイント増えた。相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する『老々相続』は年々進む。生前贈与を促す政策の後押しも必要だろう」

まず「大相続時代」が謎です。「大相続時代は目の前」と書いてあるので、今は「大相続時代」ではないのでしょう。しかし、どういう状況になれば「大相続時代」に入ったと言えるのか渡辺様は教えてくれません。これは困ります。

また「80歳以上で亡くなった高齢者の相続人が50歳以上だった割合は13年時点で約69%と15年間に22ポイント増えた」と書いた後で「相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する『老々相続』は年々進む」と解説しているのも納得できませんでした。

50代は「現役世代」には入らないのですか。「子どもの教育費を必要とする」50代は当たり前にいます。「相続人が65歳以上だった割合」を取り上げた上で「老々相続」と言うのならば分かりますが、50代を入れては説得力に欠けます。

さらに言えば「老々相続」が進むと「相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する」と考えるのは短絡的です。「80歳以上で亡くなった高齢者」が子や孫の「教育費」を生前に出していた可能性は十分にあります。財産を相続した「50歳以上」の人が子や孫に資金援助する場合もあるでしょう。その辺りも含めて「滞留」を判断すべきです。

私の意見は以上です。今後の記事作りの参考にしていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事

「ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181108&ng=DGKKZO37473820X01C18A1TCP000

「大相続時代 さらに多様化」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181108&ng=DGKKZO37473880X01C18A1TCP000


※記事の評価はD(問題あり)。渡辺淳記者への評価はDで確定とする。渡辺記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心なことが抜けた日経「保険販売、手数料が高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_76.html


※過去の「ポスト平成の未来学」については以下の投稿も参照してほしい。

「シェア経済」に食傷を感じる日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_9.html

「ピクセルワーカー」が魅力的に映らぬ日経未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_16.html

日経 未来学面「2050年 オフィスが消える」に足りないもの
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/2050.html

「若者たちの新地平」を描けていない日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_24.html

悪い意味で無邪気な日経 未来学面「考えるクルマ 街へ空へ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_26.html

「肌着からデータ送信」が怪しい日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_9.html

IT企業の社員は「林業ガール」? 日経 若狭美緒記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_23.html

「フリーアドレス制でダイバーシティー効果」が怪しい日経の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_88.html

中長期の正確な気象予測は可能? 日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_5.html

「海にゴミを捨てるのは合法」と解説する日経 未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_13.html

未熟さ感じる日経「ポスト平成の未来学~ ゴミはなくせる」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_21.html

「飛行機600人乗り」の予測は的中? 日経 鬼頭めぐみ記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/600.html

「障害者」巡る問題多い日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_10.html

「AIで犯罪予知」に問題目立つ日経「ポスト平成の未来学」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/ai.html

2018年11月8日木曜日

「中小の新卒採用は10年に1人」と岩本隆 慶大教授は言うが…

「求人倍率10倍」は「10年に1人採用できるかどうか」を意味するだろうか。日経ビジネス11月5日号の「気鋭の経済論点~今や10年に1人、対策急げ 中小企業の新卒採用」という記事では、見出しでも「今や10年に1人」と打ち出していた。他にも誤りと思える記述があったので、問い合わせをしてみた。
活水女子大学 東山手キャンパス(長崎市)
        ※写真と本文は無関係です

その内容と回答は以下の通り。


【日経BP社への問い合わせ】

慶応義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆様  日経ビジネス編集部 担当者様

11月5日号の「気鋭の経済論点~今や10年に1人、対策急げ 中小企業の新卒採用」という記事についてお尋ねします。見出しにもなっている「10年に1人」に関して、記事には以下の記述があります。

「リクルートワークス研究所の調査では、大企業の求人倍率はたった0.37倍。一方で中小企業は16年卒採用から急激に上がり始め、19年卒採用では約10倍となった。1人の学生を10社が奪い合う状況だ。言い換えれば中小企業1社は10年に1人採用できるかどうかというほど厳しい状況にさらされているのだ」

「求人倍率」が「約10倍」であれば「1人の学生を10社が奪い合う状況」だとは言えます。しかし「言い換えれば中小企業1社は10年に1人採用できるかどうかというほど厳しい状況にさらされているのだ」との説明は納得できませんでした。

全ての「中小企業」は新卒採用で1年に1人の求人しかしないのならば「10年に1人採用できるかどうか」かもしれません。しかし、実際には10人、20人の求人をする「中小企業」もあるはずです。1社平均で年10人を求人するのならば「1年に1人採用できるかどうか」ですし、求人が平均で年5人ならば「2年に1人採用できるかどうか」です。

「言い換えれば中小企業1社は10年に1人採用できるかどうかというほど厳しい状況にさらされているのだ」との説明は誤りではありませんか。それとも、新卒に対する中小企業の求人は例外なく年間1人なのでしょうか。

もう1つ質問があります。記事では中小企業の「求人倍率」について「16年卒採用から急激に上がり始め、19年卒採用では約10倍となった」と説明しています。しかし、記事に付けたグラフを見ると、「中小企業(従業員300人未満)」の「16年3月卒」では「求人倍率」が「15年3月卒」を下回っています。「17年3月卒」では少し上向きますが、それでも「15年3月卒」の水準を超えていません。「急激に上がり始め」るのは「18年3月卒」からです。

「中小企業は16年卒採用から急激に上がり始め」という説明はグラフと矛盾します。どちらかが間違っていませんか。問題なしとの判断であれば、グラフと記事の食い違いをどう理解すればよいのか教えてください。グラフも「出所:リクルートワークス研究所」となっているので、使用しているデータは同一のはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。このたび、お寄せいただいたご意見に回答いたします。

質問1)「10年に1人」の表現について

求人倍率の「10年に1人」の件ですが、ご指摘の通り、中小企業の募集人数が1年あたり1人とは限りません。そのため、誤解を招きかねない表現でした。もともと著者は、「単純な計算ではあるが、仮に従業員300人未満の中小企業の新卒募集人数が年間1人だとすると、企業にとっては毎年 0.1 人が採用できる。極端に言い換えれば10 年に 1 人しか採用できない」と表現されていたところ、紙面編集の過程で大幅に端折ってしまったため、紙面ではこのような表現になりました。仮定が抜け落ちてしまい、全体として著者のおっしゃりたかったことを伝えきれない表現になってしまいました。

質問2)求人倍率のグラフについて

「求人倍率のグラフ」に関しては、トレンドとして16年卒採用から求人倍率が底を打ち、
19年卒にかけて上昇し続けていること、および19年卒が約10倍と高い数値になったことの2つの意味を読者に伝えるために、筆者との相談の上、「急激に」と表現いたしました。とはいえ、16年卒と17年卒の求人倍率を取り出して比較した場合に急激と言えるかどうかにつきましては、ご指摘の通り判断の分かれるところで、言葉足らずで誤解を招きかねない表現になっていました。「16年卒採用から急激に上がり始め…」より、「16年卒採用から毎年上がっており…」などとした方がより適切な表現だと考えます。

分かりにくい表現があったことを反省し、今後の記事編集に生かしてまいります。貴重なご指摘をありがとうございました。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
     ※写真と本文は無関係です

よろしくお願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

あえて無視しているのか、質問の意図が伝わらなかったのか分からないが、上記の回答では「中小企業」の「16年3月卒」の求人倍率が「15年3月卒」比でマイナスだった問題に触れていない。以下のような状況に関して「16年卒採用から毎年上がっており」とすると「適切な表現」になるだろうか。

16年3月卒=小幅なマイナス
17年3月卒=小幅なプラス
18年3月卒=大幅なプラス
19年3月卒=大幅なプラス

「上がって」いるのは「17年3月卒」からだ。「16年卒採用から」ではない。

筆者の岩本教授も最終的なチェックはしているはずだ。なのに「10年に1人採用できるかどうか」「16年卒採用から急激に上がり始め」といった記述に注文を付けなかったのか。だとしたら少し不安になる。


※今回取り上げた記事「気鋭の経済論点~今や10年に1人、対策急げ 中小企業の新卒採用」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/093000009/102600163/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。岩本隆慶大教授への評価も暫定でDとする。