2022年5月20日金曜日

ツッコミどころが多い日経社説「国は『脱マスク』へルール示せ」

20日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「国は『脱マスク』へルール示せ」という社説はツッコミどころが多かった。全文を見た上で具体的に指摘したい。

夕暮れ時の筑後川サイクリングロード

【日経の社説】

新型コロナウイルス対策の行動制限が解かれて2カ月になる。感染は急拡大することなく落ち着いている。そろそろマスクを外せないかとの声もあり、国民の関心は高い。国は着用ルールを抜本的に見直し、きめ細かく示すべきだ

諸外国でマスク義務をなくす動きが相次ぐ中、着用を巡る議論に混乱がみられる。岸田文雄首相と一部の閣僚で見直しについて見解が食い違い、二転三転する。

松野博一官房長官らは人との距離が十分とれる屋外では不要と言うが、分かりづらく判断に困る。屋外での着用は原則必要ないとし、不特定多数の人で混み合う繁華街など、着用が求められる場面を個別に例示してもらいたい

商業・娯楽施設といった屋内での一律着用も再検討すべきだろう。映画館やクラシックコンサートなど、もともと「会話のない」場所なら、徹底した換気を条件に外して構わないのではないか。

公共交通機関の利用でも、飛行機や新幹線では乗り降りする際を除き、マスクの有無で感染リスクに大きな差はないだろう

オミクロン型でウイルスの特性は変わった。国民の6割弱がワクチンの3回接種を終えた。マスク着用は2020年春に「新しい生活様式」として手洗いや「3密」対策と併せ感染予防の要になったが、2年が経過したいま、最新の科学的知見に基づき見直す時だ。

日本は海外のように着用を法律で義務化せず、政府や自治体の呼びかけにとどめてきた。社会の「同調圧力」が働いたともいえる。とはいえ、国が着用ルールをあいまいにしておくのはよくない

多くの人が顔の半分を隠して長い間交流せざるを得ない状況は、健全といえない。発育世代にとって人間関係を築く障壁になるとの指摘もある。6月以降、外国からの訪問客が本格的に入ってくる。ルールが具体的でないと、観光地などでトラブルを招くだろう。

岸田首相はマスク着用のルールについて、明快で強いメッセージを国民に送るべきである


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる。


(1)そもそも「ルール」はある?

国は着用ルールを抜本的に見直し、きめ細かく示すべきだ」「国が着用ルールをあいまいにしておくのはよくない」などと書いているが、日本に国が定めたマスクの「着用ルール」はあるのか。

日本は海外のように着用を法律で義務化せず、政府や自治体の呼びかけにとどめてきた」と今回の社説でも説明している。ならば国定の「着用ルール」はないと見るべきだ。存在しない「着用ルールを抜本的に見直」すことはできない。出発点から間違っている。


(2)「きめ細かく示すべき」?

着用ルール」ではなく「呼びかけ」の基準を見直すとして、それを「きめ細かく示すべき」なのか。

屋外での着用は原則必要ないとし、不特定多数の人で混み合う繁華街など、着用が求められる場面を個別に例示してもらいたい」と日経は求める。

例えば「不特定多数の人で混み合う繁華街」では「着用」を求めるとしよう。しかし「不特定多数の人で混み合う」や「繁華街」の範囲を明確に決めるのは困難だし、仮に決めても情報量が多すぎて伝わらないだろう。

国として「着用」の推奨は全面的にやめるというのが一番の「明快で強いメッセージ」ではないのか。


(3)矛盾してない?

映画館やクラシックコンサートなど、もともと『会話のない』場所なら、徹底した換気を条件に外して構わないのではないか」と日経は訴える。裏返せば屋内の「会話」がある場所では外せないと見ているのだろう。

しかし「飛行機や新幹線では乗り降りする際を除き、マスクの有無で感染リスクに大きな差はないだろう」とも述べている。「飛行機や新幹線」は「会話」があるのが普通の場所なのに「乗り降りする際を除き」マスクを外して良いと取れる。矛盾してないか。

乗り降りする際」だけ「マスクの有無で感染リスクに大きな差」が生じると見るのも謎だ。「飛行機や新幹線」の場合「乗り降りする際」の方が換気は良さそう。会話もどちらかと言えば座っている時の方が活発だろう。なのに「乗り降りする際」だけマスクをすべきなのか。謎の論理だ。

飲食店に行くと飲み物や料理が届くまではマスクをしている人が多い。当然、飲食の時には外す。いかにも意味がなさそうなので自分は未着用のままだが、あれと似たものを「乗り降りする際」限定のマスク着用には感じる。


※今回取り上げた社説「国は『脱マスク』へルール示せ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220520&ng=DGKKZO60953250Q2A520C2EA1000


社説の評価はD(問題あり)

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