2022年5月14日土曜日

相変わらず苦しい日経 吉野直也政治部長「Angle~『工作員』プーチン氏の限界」

日本経済新聞の吉野直也政治部長が相変わらず苦しい。13日の朝刊政治・外交面に載った「Angle~『工作員』プーチン氏の限界 日本、国防予算に転換を」という記事も中身の乏しい内容だった。順にツッコミを入れていきたい。

夕暮れ時

【日経の記事】

工作員(スパイ)は諜報(ちょうほう=インテリジェンス)はできるものの、戦略(ストラテジー)は描けない――。スパイの役割をパズルに擬するなら完成図を知らされずに1つのピースを埋めるために奔走する職務の印象だ。

旧ソ連の国家保安委員会(KGB)出身でスパイ活動が染みついているロシアのプーチン大統領に戦略を持てというのは無理な話でもある。ウクライナ侵攻の長期化は「工作員」プーチン氏の限界と迷走がもたらした帰結といえる。


◎以前の仕事と結び付けても…

元「工作員(スパイ)」には「戦略(ストラテジー)は描けない」から「プーチン大統領に戦略を持てというのは無理な話」という筋立ては基本的に意味がない。

仮に元「工作員(スパイ)」の多くが「戦略(ストラテジー)は描けない」としても例外はいるはずだ。「プーチン大統領」が例外に当てはまらないと見るべき根拠があるのか。

この手の筋立てで良ければ「コメディアンは笑わせるのが仕事。コメディアンから転身したゼレンスキー大統領が敵を恐怖に陥らせる戦略を立てるのは無理な話」との見方も成り立つ。吉野政治部長は同意してくれるだろうか。

続きを見ていく。


【日経の記事】

「唯一の正しい決定だった」。9日の第2次世界大戦の対ドイツ戦勝記念日。プーチン氏の演説はウクライナ侵攻を巡る歪曲(わいきょく)された歴史観とそれに基づく妄言と虚言にまみれた。

この的外れな演説を含め2月24日のウクライナ侵攻以降、ロシアの軍や情報機関、政府高官はどんな気持ちでプーチン氏を眺めているのだろうか。

ウクライナへの非道な行為はおかしいと思いながらもロシアで生きていくためには追従するしかないという諦念に近い感情、もうひとつはプーチン氏の主張を本当に信じ込んでいる洗脳状態。この2つに大別できるかもしれない。

様々な場面でプーチン氏の言い分をよどみなく代弁する彼らの表情をみていると、演技なのか、洗脳されているのか判別しにくい。9日の演説でもプーチン氏の背後に居並ぶ軍幹部の無表情が気になった。奥底に沈殿している心の動きまではうかがえない。

プーチン氏を止める手立てがロシア内部にない以上、米欧や日本が支援するウクライナとの戦いは長引く。他国の領土を力で奪う行為を許せば、中国などに誤ったメッセージを送りかねない。


◎行数稼ぎが長すぎない?

今回の記事には「『工作員』プーチン氏の限界~日本、国防予算に転換を」という見出しが付いている。しかし上記のくだりは「『工作員』プーチン氏の限界」とも「日本、国防予算に転換を」とも関連が乏しい。

最後まで読むと分かるが「『工作員』プーチン氏の限界」と「日本、国防予算に転換を」も関連が乏しい。「日本、国防予算に転換を」が吉野政治部長の訴えたいことだとすれば、記事の約半分を行数稼ぎに使っていることになる。感心しない。

ここから「本題」に関する記述を見ていく。


【日経の記事】

この戦いが日本に与える示唆は他国からの侵攻を防ぐための抑止力を備えることだ。自民党は4月にまとめた防衛力強化に関する提言で、防衛費について5年以内に国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に増やすよう求めた。

日本の防衛費は2021年度当初予算でGDP比0.95%。北大西洋条約機構(NATO)の基準で、領海を警備する海上保安庁なども入れて補正予算を含めても1.24%だ。

日本は防衛費、米欧は国防費と呼ぶ。07年に防衛庁から防衛省に格上げした際、名称問題で国防省も候補に挙がった。決め手は定着していた防衛の呼称だった。

国防(national defense)は防衛(defense)よりも広い概念でとらえられる。他国の脅威から軍事力で国を守るのは同じだとしても国防は軍事力だけでなく、科学技術、公共事業、原子力、インテリジェンスなど国の総合力を指す。

日本の防衛予算は「防衛省の予算」という色合いが濃い。12月に編成する予算案は夏の各府省庁の概算要求をもとに財務省が査定する。国防という考え方をとりづらく、各府省庁の縦割りに沿って予算案ができる仕組みだ。

例えば米国は科学技術予算のうち45.7%を国防用が占めるのに対し、日本は2.9%にとどまる。防衛次官経験者は「科学技術を軍事と民生に厳密に分けようとするのが原因だ。軍事アレルギーを克服しない限り、国家の産業競争力は落ちる」と語る。

戦略なき、工作員の末路は予想がつかない。6月の主要7カ国(G7)首脳会議の議長国、ドイツのショルツ首相はロシアの侵攻後、国防費をGDP比2%以上へと増額する方針を発表した。

「来年の議長国は日本。共同文書の中核は台湾有事を念頭に置いたG7の結束になるだろう」(自民党の佐藤正久外交部会長)

日本がG7をけん引するためには国防への決意が欠かせない。来年度予算案の編成は「防衛省の予算」ではなく、「国防予算」への転換が前提となる


◎色々と分からないことが…

まず「米国は科学技術予算のうち45.7%を国防用が占めるのに対し、日本は2.9%にとどまる」のは「科学技術を軍事と民生に厳密に分けようとするのが原因」という理屈がよく分からない。

科学技術」を「軍事と民生に厳密に分け」ずに、どうやって「米国」は「45.7%を国防用」と計算できたのだろう。「厳密」な区分けがあるから「45.7%」という数字が出てきたのではないのか。

事情がよく分からないが、米国は担当者の判断で適当に「軍事」か「民生」か決めていい仕組みだとしよう。となれば日本も比率を上げるのは簡単だ。担当者が「科学技術」は広い意味で全て「軍事」に関連があると判断してしまえばいい。それで日本は「国防用」の比率が100%になる。しかし、そんな数字合わせに意味があるのか。

日本がG7をけん引するためには国防への決意が欠かせない来年度予算案の編成は『防衛省の予算』ではなく、『国防予算』への転換が前提となる」という結論部分も理解に苦しむ。

国防予算」に「転換」すると具体的に何が変わるのだろう。「科学技術を軍事と民生に厳密に分け」るのをやめるのは分かる。そうすると「科学技術」関連予算の多くが「国防予算」と見なされて予算規模が大きく見えるという話か。

となると実態はあまり変わらない。「防衛費」の定義を変えて「GDP比」を高めれば「G7」で「国防への決意」をアピールできると言いたいのだろうか。

具体論を掘り下げていないので推測に頼らざるを得ない面もあるが、そんな趣旨だろう。

そんな小手先でごまかすことを提案するために長々と話を進めてきたのか。やはり吉野政治部長は残念な書き手と言うほかない。


※今回取り上げた記事「Angle 『工作員』プーチン氏の限界~日本、国防予算に転換を」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220513&ng=DGKKZO60728770T10C22A5PD0000


※記事の評価はD(問題あり)。吉野直也政治部長への評価はDを維持する。吉野部長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

2月と3月でウクライナ情勢の分析を一変させた日経 吉野直也政治部長の厚顔https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/03/23.html

おかしな分析を連発…日経 吉野直也政治部長の「Angle~弱い米国がもたらす世界」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/angle.html

トランプ氏の発言を不正確に伝える日経 吉野直也記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_7.html

トランプ大統領「最初の審判」を誤解した日経 吉野直也次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_13.html

日経 吉野直也記者「風見鶏~歌姫がトランプ氏にNO」の残念な中身
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/no.html

漠然とした訴えが残念な日経 吉野直也政治部長「政策遂行、切れ目なく」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/blog-post_29.html

日経が好んで使う「力の空白」とは具体的にどんな状況? https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/blog-post_30.html

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