2022年5月18日水曜日

「女子は工学部という選択肢がないと考えてしまう」と日経で訴えた真下峯子氏の誤解

18日の日本経済新聞朝刊社会面に「教育岩盤〈揺らぐ人材立国〉工学部を女子の選択肢に~昭和女子大付属昭和中・高校長 真下峯子氏」という記事が載っている。「工学部」の女子比率を高めようという動きを最近よく見かけるが、基本的に意味がない。「真下峯子氏」の発言にも多くの問題を感じた。

大山ダム

今回はそこを見ていきたい。

【日経の記事】

――工学部に進む女子が少なく大学関係者が苦慮しています。

学校には女子にあまり無理させない、大変なことはやらせないという雰囲気がある。教職員も管理職も保護者も『理系が苦手ならそれでいいよ、できるところだけやりなさい』という意識だ。そうしたことが小学生のころから積み重なって理系科目に苦手意識を持つようになり、どんどん女子の進路選択の幅が狭くなってしまう構造だ」


◎だったら問題は男子では?

学校には女子にあまり無理させない、大変なことはやらせないという雰囲気がある」らしい。裏返せば「学校には男子に無理をさせる、大変なこともやらせるという雰囲気がある」のだろう。だったら対策が必要なのは「男子」だ。

理系が苦手では許されない、できるようになるまで無理してでもやれ」と「男子」のみに強いる構造があるとすれば「男子」の負担が重すぎる。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

――工学部や理系に対する女子生徒のイメージは。

「埼玉県の教員時代、先進的な理数系教育を推進するスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の全国大会に参加したことがある。他校の女子生徒たちの雑談を聞いていたら『理系では就職できないから行かない』と話していた。SSHで学ぶ生徒でさえその程度の認識だ」


◎根拠は「雑談」の盗み聞き?

他校の女子生徒たちの雑談」を基に「工学部や理系に対する女子生徒のイメージ」を語られても困る。きちんとした調査結果はないのか。ないとしても「埼玉県の教員時代」も含めて真下氏は多くの「女子生徒」と接してきたはずだ。そこで得た総合的な判断を示してほしかった。

さらに見ていく。


【日経の記事】

「理系が得意な女子は医師や薬剤師、看護師など資格系には目が向いても、工学部には関心がない。建設・土木現場や工場で働くという昔ながらのイメージしか持っていないからだ」


◎「工学部には関心がない」?

工学部の女子比率は15%程度のようだ。「理系が得意な女子は医師や薬剤師、看護師など資格系には目が向いても、工学部には関心がない」とすれば、15%程度いる女子学生はなぜ工学部を受験したのだろう。「理系が得意な女子」でないと、なかなか工学部を受験しないと思える。

ちなみに医学部の女子比率は13%程度のようだ。「理系が得意な女子は医師や薬剤師、看護師など資格系には目が向いても、工学部には関心がない」のならば医学部の女子比率は工学部のそれより圧倒的に高くなるはずだが…。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

「工学部の学びは社会のあらゆる場面に関わっている。機械の制御や食品工学、アプリケーションソフト開発など女子が能力を発揮して活躍できる分野は多い。大学も工学部への女子受け入れに熱心だし、工学部卒の女子学生は就職市場で引く手あまた。それでも生徒の意識は変わらない」

――なぜなのでしょう。

「時代の変化や大学の取り組みが高校の教員に伝わっていないからだ。生産年齢人口の減少で、女子が労働市場で活躍できるチャンスは広がっているのに、そういう問題意識もない。生徒の進路選択を支援する教員の意識改革が必要だ」

「教員はキャリア教育やインターンシップ、職業体験などと口にするが、実は何も知らない。それを知るようにするのが管理職の仕事だ。私は教員に対し、どんどん学校の外に出て行って、大学の先生や企業人と話をするように言っている。教員はもっと外の世界を知るべきだ。生徒に対するキャリア教育のようなことを学校の仕組みとして教員対象に進めていくことが必要だと思う」


◎「高校の教員」のせい?

女子が能力を発揮して活躍できる分野は多い。大学も工学部への女子受け入れに熱心だし、工学部卒の女子学生は就職市場で引く手あまた」→「それでも生徒の意識は変わらない」→「時代の変化や大学の取り組みが高校の教員に伝わっていないから」と真下氏は分析する。

つまり「時代の変化や大学の取り組み」を女子生徒が正しく理解すれば「生徒の意識」は変わると見ている。ならば問題は第一に女子生徒にある。高校生で進路を決めるのに「高校の教員」に教えてもらわない限り何も気付けないとしたら、あまりに愚かだ。

ネット検索だけでも色々と情報が得られる時代なのだから「大学の取り組み」ぐらいは主体的に調べてほしい。

個人的には真下氏の分析が間違っていると見ている。女子生徒の多くは「時代の変化や大学の取り組み」を知った上でも「工学部」に魅力を感じないのだろう。「就職市場で引く手あまた」なのは「医師」も同じようなものだ。ならば「理系が得意な女子」が「工学部」志望へと動かなくても不思議ではない。

インタビューの最後も見ておく。


【日経の記事】

――女子の理系教育に力を入れるのはなぜですか。

「単に女子が工学部に行けばいいというつもりはない。女子がはなから自分には工学部という選択肢はないと考えてしまう状況を変えたい。選択肢から外さないのが大事。それだと無自覚的に自分の可能性を閉じることになる」


◎そんな「状況」ある?

女子がはなから自分には工学部という選択肢はないと考えてしまう状況を変えたい」と真下氏は言う。そもそもそんな「状況」があるのか。あるとしたら、なぜ「工学部」の女子比率が15%もあるのか。そこを考えてほしい。


※今回取り上げた記事「教育岩盤〈揺らぐ人材立国〉工学部を女子の選択肢に~昭和女子大付属昭和中・高校長 真下峯子氏

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220518&ng=DGKKZO60875040X10C22A5CT0000


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