2020年6月5日金曜日

ニュース記事それとも解説記事?日経「香港から移民、身構える台湾」

最近の日本経済新聞ではニュースなのか解説なのかよく分からない記事が散見される。5日の朝刊国際・アジア面に載った「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も」という記事もその1つだ。台北支局のクリス・ホートン記者は以下のように記している。
臼杵石仏(大分県臼杵市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

中国が香港の自治に関与する姿勢を鮮明にするなか、香港から自由を求める移住希望者が急増する可能性が高まっている。台湾では香港を支持する声が多いが、香港人の大量受け入れに慎重論も根強い。台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は雇用情勢や中国との関係をにらみ、難しい選択を迫られる。

中国政府の圧力で香港で閉店を余儀なくされ、台湾で再スタートを切った銅鑼湾書店の店主、林栄基氏は2016年に記者会見で、中国の治安当局に尋問のため連行されたと明かした。罪状は中国本土で発禁処分の本を売ったことだった。

林氏は台北に拠点を移し書店を再開。蔡総統も5月に訪問し「自由な台湾は香港の自由を支持する」と手書きのメッセージを残した。

林氏は取材に対し、中国が反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の制定を決めたのを受け、多くの香港人が難民として台湾に逃れてくると語った。蔡政権が移住者を収容する道を見つけることへの期待も示した。

多くの台湾市民は香港が中国の拡張主義の最前線と考える。香港が脅かされれば、中国が民主的な台湾にも侵入する可能性が高まると懸念する。

林氏は台北で銅鑼湾書店を所有する会社を設立し、長期滞在に必要なビザを取得した。だが資金力の乏しい多くの香港人が台湾で長期滞在ビザを得られるかは不透明だ。

蔡総統は香港人の移住支援を表明し特別チームを設置した。だが詳細は明らかにしていない。香港人の流入で雇用競争が激しくなりかねず、中国との一段の関係悪化につながることも受け入れ政策の具体化に影響する。


◎ニュース記事ならば…

「これはニュース記事なのか解説記事なのか」と聞かれたら「どちらかと言えばニュース記事」だと答えたい。なので、ニュース記事との前提で注文を付けていく。

ニュースの柱は「中国が香港の自治に関与する姿勢を鮮明にするなか、香港から自由を求める移住希望者が急増する可能性が高まっている」ことだ。「可能性が高まっている」のはその通りかもしれないが、裏付けとなる材料がなかなか出てこない。

ようやく出てきたのが「林氏は取材に対し、中国が反体制活動を禁じる『香港国家安全法』の制定を決めたのを受け、多くの香港人が難民として台湾に逃れてくると語った」という話だ。しかし「林氏」の個人的な見通しだけでは、さすがに苦しい。

蔡総統は香港人の移住支援を表明し特別チームを設置した」との記述もあるが「詳細は明らかにしていない」などと書いており「移住希望者が急増する可能性が高まっている」ことの裏付けと見てよいのか微妙だ。結局、「移住希望者が急増する可能性が高まっている」と納得できるだけの材料は見当たらない。

だからなのか、見出しも「香港から移民、身構える台湾」となっていて「移住希望者が急増する可能性が高まっている」ことをメインにはしていない。

さらに引っかかるのが見出しの「大量受け入れに慎重論も」に関係する記述だ。記事では「香港人の大量受け入れに慎重論も根強い」と書いているだけで、誰がどんな「慎重論」を展開しているのか具体的な事例がない。これで「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も」と打ち出されても困る。

結局、この記事には核となる材料がない。クリス・ホートン記者は「中国政府の圧力で香港で閉店を余儀なくされ、台湾で再スタートを切った銅鑼湾書店の店主、林栄基氏」に「取材」できたので、何か記事を作れないかと考えたのだろう。しかし素材を上手く使って記事にする技術が不足していたので、今回のような記事になったと推測できる。

今回の場合、単純に「林栄基氏」へのインタビュー記事にするのが正解だと思える。「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も」という話にこだわるのであれば「慎重論」に関してしっかり材料を集め、「林栄基氏」のコメントは添え物として使うべきだろう。



※今回取り上げた記事「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200605&ng=DGKKZO59983250U0A600C2FFJ000


※記事の評価はD(問題あり)。クリス・ホートン記者への評価も暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿