2015年12月17日木曜日

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)

16日の朝刊経済面に載った「カルテル捨てたOPEC ~原油安、改革競争迫る」に関して、筆者である大林尚編集委員への助言をさらに続ける。

東京都庁(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です
◎「改革競争迫る」はどうなった?

【日経の記事】

原油安は中東の政情を揺さぶるので望ましくないという意見がある。たしかに産油国の財政は圧迫されるが、生産だけが中東のおはこではない。

ペルシャ湾のとば口、フジャイラは人口18万。アラブ首長国連邦(UAE)を構成する7首長国のひとつだ。油田は抱えていないが、83年開港のフジャイラ港が石油業界で存在感を高めている。

ホルムズ海峡の外という地政学上の利に加え、アブダビの陸上油田とを結ぶ総延長380キロの油送管が12年に稼働し、世界からタンカーが寄港するようになった。積み出し先はインド、東南アジア、アフリカ、地中海諸国など。夕暮れ時、沖合にずらり停泊する数十隻のタンカーが連なって放つ灯火が圧巻だ。

探鉱・開発・生産を上流、精製・販売を下流と呼ぶ慣例にならえば、フジャイラは貯蔵・給油・積み出しなど中流で稼ぐのを国家戦略に定めた。豊かな油田群を後背に持つ石油ハブとして、相場変動に左右されにくく、透明性が高い経営体質をつくるのが課題だ。

資源バブルの崩壊が中東やロシアに改革競争を迫り始めた。回り回って、それは消費国も潤す。

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見出しにある「改革競争迫る」を大林様が具体的に説明したのが上記のくだりでしょう。しかし、これは「原油安が改革競争を迫った例」と言えるでしょうか。原油価格の下落傾向は2014年の後半から顕著になりました。一方、フジャイラについては「油送管が12年に稼働し、世界からタンカーが寄港するようになった」と書いてあります。だとすると「フジャイラは貯蔵・給油・積み出しなど中流で稼ぐのを国家戦略に定めた」のが事実だとしても、それは最近の原油安と関係ないのではありませんか。

ロシアの改革競争については「『このままだとゼロ成長だ。資源依存経済の構造改革が必要だ』というプーチン大統領の言をまつまでもない」との記述はあるものの、改革の中身には触れていません。大林様は「資源バブルの崩壊が中東やロシアに改革競争を迫り始めた」と訴えているものの、その内容は謎のままです。これは頂けません。

フジャイラに関して「相場変動に左右されにくく、透明性が高い経営体質をつくるのが課題だ」とも大林様は書いています。「経営体質」と表現しているので政府系企業にでも言及しているのかなとは思いますが、それが何なのか説明はしていません。記事全体を通して、説明が具体性に欠ける上に不十分と言えます。大林様は若手記者の手本となるべきベテランのはずです。しかし、今回の記事はお世辞にも手本にすべき出来とは言えません。

最後に間違い指摘を1つしておきたいと思います。日経では間違い指摘の握りつぶしが常態化しています。今回の指摘に関しても対応がなされない場合、大林様の書き手としての評価は最低ランクとするほかありません。書き手としてあるべき対応をお願いします。日経に送った問い合わせの内容は以下の通りです。


【日経への問い合わせ】

編集委員 大林尚様

「カルテル捨てたOPEC」という記事についてお尋ねします。記事には「ペルシャ湾のとば口、フジャイラは人口18万」との記述があります。しかし、フジャイラは「ペルシャ湾のとば口」にあるとは思えません。「ペルシャ湾のとば口」に当たるのがホルムズ海峡ですが、記事中で大林様はフジャイラについて「ホルムズ海峡の外という地政学上の利」があると説明されています。フジャイラは「ペルシア湾岸に領土をもたず、海岸線はすべてオマーン湾に面する」(ブリタニカ国際大百科事典)のです。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとの判断であれば、その根拠を教えてください。

せっかくの機会なので「浮利」についても指摘をさせていただきます。大林様は「世界から資金を吸い寄せて成長する英国経済にとってロシアマネーは浮利」「日本の資源会社や商社も、一部が痛い目に遭った。先週は世界の株式市場で資源関連株がぐらついた。これらは『浮利経済』が正常に復する過程で現れた副作用である」と書かれています。

しかし、単に原油高で産油国や関連企業が潤っただけならば「浮利=まともなやり方でない方法で得る利益。あぶく銭」とは呼べないでしょう。ロシアマネーで潤った英国も同様です。

それとも大林様は、1バレル100ドルで原油を売って得た利益は「浮利」で、40ドルで売れば「正常」と考えているのでしょうか。主観の問題でもあるので「間違いだ」とは言えませんが、そこの線引きに合理性はありません。

お忙しいところ恐縮ですが、「フジャイラ」については回答をお願いします。

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※記事の評価はE(大いに問題あり)。問い合わせが無視されるとの前提で、大林尚編集委員への評価はEからFへ引き下げる(回答があった場合はEを据え置く)。

追記)結局、回答はなかった。

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