2015年12月15日火曜日

フィンテックは「第4の革命」? 日経ビジネスの煽りを検証(3)

日経ビジネス12月14日号の特集「知らぬと損するフィンテック~もう銀行には頼らない」では、PART1の「知っている中小企業は強い~フィンテック巧者が成功を収める理由」でフィンテックを6つに分けて解説している。すでに4つに関しては「革命」と呼ぶほどのインパクトがないとの結論に達した。残りの2つを見ていこう。
早稲田大学の大隈庭園(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です

5番目は「指紋決済~絶対になくならない財布」だ。

【日経ビジネスの記事】

カードやスマホにいくら高度なセキュリティーがかけてあっても、無くしたり、盗まれたりしてしまえば元も子もない。対する指紋決済は無くなることがなく、他人に不正利用されることもない。警視庁の調べでは2014年の現金の落し物は都内で約33億円にも上ったが、指紋決済の普及でこれが激減する可能性がある。

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まず、現金の落し物が激減する可能性は低いだろう。現在でも現金を持ち歩く必要性はかなり薄れている。クレジットカードや電子マネーが普及しているからだ。電子マネーがカードから指紋認証に切り替わっても「現金の落し物」を減らす効果はない。問題は指紋決済が普及するかどうかではなく、現金決済が減少するかどうかだ。指紋決済を使えるような店舗では、クレジットカードや電子マネーを現状でも使える可能性が高い。なので、現金の落し物を激減させる効果はかなり限定的と見るべきだ。

最後は「ビッグデータ与信~事故後も保険料据え置き」を見てみる。

【日経ビジネスの記事】

対するテレマティクス保険が審査するのは「今」。急加速や急減速の回数、GPS(全地球測位システム)を使った走行距離の計測や高速道路などの利用の有無、ハンドル操作、乗車時間といったデータで保険料を決める。(中略)テレマティクス保険が実現すれば、こうした「濃淡」を見極めることができ、「究極のパーソナライズされた保険が可能だ」(アクサ損害保険の輪島氏)。普段は安全運転を徹底していたドライバーが万が一事故を起こしても、保険料が据え置きになる可能性もある。

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普段は安全運転を徹底していたドライバーが万が一事故を起こしても、保険料が据え置きになる可能性もある」という話はかなり実現の可能性が低そうだが、仮にあるとしよう。それならば、運転の危険度が増したとの理由で無事故なのにどんどん保険料が上がる可能性もあるはずだ。メリットだけを強調する記事の書き方は感心しない。

個人的にはテレマティクス保険に魅力を感じない。膨大な個人情報を保険会社へ手渡すことになるからだ。保険料に響く可能性を考慮しながら運転するのも面白くない。保険料が従来の半額以下にならない限り検討対象にはしないだろう。

ここまで見てきた範囲では、フィンテックに「革命」と呼べるほどの凄さは感じられない。PART2の「『農業』『産業』『IT』に次ぐ第4の革命、世界一変 巨大銀行も抗えず」という記事には「フィンテックの銀行業務に対する主な影響」という表が付いている。これを見る限り、強引に「革命」に仕立て上げようとしているとしか思えない。

例えば「決済」については「店舗・サイトにカード決済機能(手数料1~10%)」から「無料のカード決済が普及」へと変化するらしい。特集に出てくる決済サービス「SPIKE」については確かに「月100万円まで手数料は無料」と書いてある。しかし100万円を超える部分は有料だ。いずれは全面的に無料になるなら確かに凄いが、そうではないだろう。

資産運用」に関してはさらに話がショボい。「専門家が指南。手数料率1.5~2.5%」から「コンピューターが指南。手数料率1%未満」への微妙な変化だ。せめて「0.1%未満」にはなってほしい。筆者である染原睦美、杉原淳一、飯山辰之介の各記者は、こんなわずかな変化を本当に「革命」だと感じたのだろうか。

記事では「フィンテックはメガトン級の破壊力を持つ革命。見て見ぬふりはもはやできない」と結んでいる。見て見ぬふりをするつもりはないが、今回の特集から「メガトン級の破壊力」は感じられなかった。

日経の1面企画もそうだが、新たな動きを「革命」として紹介していたら「この記事は怪しい」と思ってほぼ間違いない。革命なんてめったに起きるものではない。しかし、記事の中では革命の大安売りが散見される。大したことのない話を大きく見せたい時に経済記事で多用される言葉が「革命」だと覚えておいてほしい。


※今回の記事に関する評価はD(問題あり)。染原睦美記者と飯山辰之介記者への評価は暫定でDとする。杉原淳一記者は暫定Dを維持する。間違い指摘を握りつぶしたのだから、本来ならば筆者はF(根本的な欠陥あり)とすべきだが、当該部分を執筆した記者が特定できないことなどを考慮して、3人とも暫定でDとする。

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